再会 興福寺の梵天・帝釈天 根津美術館

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興福寺は言うまでもなく奈良の観光メッカのひとつ。古く 669年に藤原鎌足によって建てられた山階寺がその起源であり、藤原氏の氏寺として幾星霜を経てきた由緒正しい古寺であり、薬師寺と並んで法相宗 (ほっそうしゅう) の総本山である。権力と結びつき、自らも武力を有した時期もあるため、その歴史は戦乱に翻弄され、また火事にも何度も見舞われてきた。その長い歴史の中で失われた貴重な文化財はもちろん数知れずであるが、それでも信じられないほど素晴らしい仏教美術の宝庫なのである。命をかけてこれらの文化財を守ってきた人たちがいたからこそ、現在の我々がこのような美の規範を知ることができるのである。そしてその興福寺は現在伽藍の復興中であり、近く達成されるひとつの大きな成果は、中金堂の再建である。興福寺には今でも東金堂という室町時代の国宝建造物はあるが、以前存在した西金堂は既になく、最も重要な建物であるべき中金堂の位置には、長らく粗末な仮金堂が存在してきた。江戸時代後期に建てられたその建物は既に解体され、現在は新たな中金堂の建設が進んでいる。私が昨年 9月に足を運び、10月 1日付の記事にも掲載した現在の中金堂の建築現場はこのような状況。
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平成 30年落慶予定ということは、もう来年である。元号は今度どうなるか分からないが、ひとつの可能性として、平成最後の年になるかもしれないと言われている平成 30年 = 2018年に、ここ興福寺の新たな歴史が生まれるのである。この寺は中金堂再建のためにここ何年も資金集めに奔走しており、この寺の代表選手である阿修羅像は、東京にも出張しなければならなかったし、仮金堂での展示も行われ、いずれも大変な集客を達成して資金集めに大きく貢献したのであった。ともあれ、来年の完成が見えてきていることは本当に喜ばしい限りだが、その中に展示されるのは、日本画家、畠中光亨による「法相祖師画」という作品であり、既に完成しているその絵の中金堂への安置を前にして、全国でお披露目の展覧会が始まった。現在は日本橋高島屋で開催中。
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公式サイトには、主要な展示物と各地での開催予定が記されている。
http://kohfukuji-hatanaka.exhn.jp/

前置きが長くなったが、この中金堂の再建及び法相祖師画の全国巡回の機会に、興福寺側の厚意により、大変興味深い特別展示が東京青山の根津美術館で実現した。タイトルに「再会」とあるが、これはつまり以下のような意味である。現在興福寺国宝館に安置されている重要文化財の梵天 (ぼんてん) 像と、それと本来一対であった根津美術館所蔵の帝釈天 (たいしゃくてん) 像が、112年ぶりに再会するのである。これが興福寺の梵天像。
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そしてこれが根津美術館の帝釈天像。
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これら二体はいずれも興福寺東金堂に安置されていた鎌倉時代の仏像であるが、明治期に帝釈天の方が流出してしまったということらしい。明治期に吹き荒れた廃仏毀釈の嵐によってさしもの名刹興福寺も無事では済まなかったことは歴史的事実であるが、この像の流出の場合は幸いというべきか、ちゃんとした素性の人に引き取られたようである。それは、三井財閥を支えた実業家であり、茶人でもあった益田鈍翁。展覧会の案内によると、当時帝釈天像は一部破損しており、興福寺の維持・徒弟教育基金設置に協力した益田に譲られることとなったという。その後修復がなされたのであろう。この帝釈天はきれいな仏さまではあるが、顔の部分はちょっときれいすぎて、横から見ると顔だけ色も違っており、後補であるように私には思われる。文化財指定を受けていないのはそのせいなのであろうか。ともあれこの像はその後、鉄道王と呼ばれた根津嘉一郎の手に渡り、この美術館のコレクションとして展示されるようになった。これは昭和 8年の写真で、自宅でこの像を眺める根津嘉一郎。
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このように数奇な運命に弄ばれた仏像であるが、100年以上の時を経て本来ペアであった二体が揃うというのは、本当に貴重な機会である。実はこの二体の胎内の銘から、ともに大仏師定慶 (じょうけい) の作と判明している。慶の字のつく仏師はいわゆる慶派と呼ばれる流派に属し、あの有名な運慶や快慶がその代表であるが、この定慶については詳しいことは分かっていないらしい (同名のほかの仏師もいたようだ)。だが一般にこの仏師の代表作と言われるのは、やはり興福寺所蔵の、国宝のこの金剛力士像。
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私はこの金剛力士、特に阿形が大好きで、昔「国宝」という美術書シリーズでこの像の写真が使われているのを見てワクワクしたものである。本当に素晴らしい肉体の表現である。また、同じ興福寺の東金堂に安置される維摩居士 (ゆいまこじ) と、それと対になる文殊菩薩も彼の作品らしい。これらも人間性と崇高さを併せ持つ写実的な素晴らしい作品で、やはり国宝。
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これらに比べると今回の二体は、若干衣が重いような気もするが、それでもやはり名品であることは間違いない。写実性よりは天平彫刻に範を採ったような古典性が窺われ、それも鎌倉彫刻のひとつの特徴なのである。根津美術館の展示コーナーの一角での「再会」であり、決して大々的な催しにはなっていないが、首都圏の仏像ファンなら足を運ぶ価値はあるものと申し上げておこう。

by yokohama7474 | 2017-01-14 00:26 | 美術・旅行 | Comments(2)
Commented by 大町阿礼 at 2017-09-18 18:39 x
興福寺に興味があればお読みください。
スマホで無料で読めるWEB小説のご紹介です。短編なので小一時間で読破出来ます。挑戦してみては如何ですか。世界は広いと感じる筈です。時間軸においてですが。
WEB小説「北円堂の秘密」が今夏の隠れたベストセラーと知ってますか。
グーグルで「北円堂の秘密」と検索するとヒットするので無料で読めます。
世界遺産・古都奈良の興福寺・北円堂を知らずして日本の歴史は語れないと云われています。
日本文化発祥地の鍵を握る小説なのでご一読をお薦めします。
少し日本史レベルが高いので難しいでしょうが歴史好きの方に尋ねるなどすれば理解が進むでしょう。
今秋、東博では「運慶展」が開催されるが、出陳品の無著・世親像を収蔵するのが興福寺・北円堂である。
貴職におかれてもホットな話題を知っておくことは仕事に少なからず役立つでしょう。
先ずはブログ主様ご本人からベストセラー小説「北円堂の秘密」の読破をされては如何だろうか。
読めば日本史のミラクルワールド全開です。お友達に教える時はネタバレ無しで口コミして下されば幸いです。

Commented by yokohama7474 at 2017-09-18 23:10
> 大町阿礼さん
コメントありがとうございます。北円堂ですね。私も大好きなところです。通常春と秋にしか公開されませんが、これまでに、6 - 7回は内部を拝観しています。無著・世親像ももちろんですが、同じ運慶作の本尊、弥勒如来像も素晴らしいですね。Web 小説、追って拝見致します。
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