海賊とよばれた男 (山崎貴監督)

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昨年末からどちらかというとマニアックな映画に重点を置いて鑑賞して来た。どうしても、すぐに上映終了となってしまう映画に優先度を置いているきらいはあるものの、私は何もマイナーなものにしか価値を見出さないひねくれ者ではなく、一般に人気のある映画も、自分の興味と一致するものである限り、極力見に行くようにしている。この映画は誰もが知る通り、出光興産の創始者、出光佐三 (いでみつ さぞう 1885 - 1981) をモデルとした百田直樹の同名のベストセラー小説 (手元にあるが私は未だ読んでいない) を映画化したもので、同じ原作・監督・主演による「永遠の 0」もそうであったが、かなり世間の注目を集めている映画である。だが、最近になっていくつかの話題作の公開が始まっており、そろそろ見ておかないと上映終了になってしまうかもと思って、ようやく見に行ったもの。これが実際の出光佐三の肖像。修羅場をくぐった人だけが持つ、いい笑顔ではないか。
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この種のポピュラーな映画は、出張に出かけるときの飛行機の中で見ることができる可能性が高いと思うが、実は「永遠の 0」の場合はそのようにして見ることとなった。ところが飛行機の中では、航空の安全に不安を覚えさせるシーンはカットとなるので、当然ながら「永遠の 0」などは大変に不適な内容であったのだ。実際、岡田准一の墜落シーンがなかったことで、その後の染谷将太の行動に疑問を覚えたものだ (笑)。その点、この「海賊とよばれた男」は、海のシーンはあっても空のシーンはないだろうから、飛行機で見てもよいのだがな、と思っていたら、なんのことはない。この映画でも、飛行機の中では絶対カットされるであろう重要なシーンがある。つまり、ここでは逆に、染谷将太に関するそのシーンがなければ、その後の岡田准一の行動に疑問を覚えるということになるはず (笑)。
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映画の冒頭に英語で、"based on true events" と出る。日本語では「実際に起こった出来事に基づく」となるが、そうするとどうも説明くさくなってしまう。なのでこの英語表記は一見識であろうと思う。そしてこの映画の素晴らしい点をまず一言で述べるならば、岡田准一の老け役と言ってもよいのではないか。ここでは主人公國岡 鐡造 (くにおか てつぞう) の若い頃の荒くれぶり (と言っても、私生活ではなく仕事に関してのことだ) から始まり、戦中、戦後、そして高齢で亡くなるまでが描かれているが、それぞれのシーンの設定年齢に応じて白髪の数も変わるという凝り方である。岡田は 1986年生まれなので、未だ 36歳。でもこれ、どう見ても老人だ。彼の演技はすべての箇所で完璧とは思わないが、それでも、彼の演技を貫く熱意にほだされることは事実。最後の老人ホームのシーンなど、その目力に感服した。
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昨今の日本の状況に鑑みて、戦後の復興から目覚ましい経済発展を遂げた昭和の時代を懐かしむには充分な理由があると思う。まあ、この映画を見ていると、既に過去のものとして過ぎ去ってしまった昭和という時代に思いを馳せることにはなってしまうが、だが、時には我々は思い出す必要がある。かつて昭和と呼ばれる汗と涙にまみれた時代があり、国民は皆必死であって、それだけまっすぐに前を向いていたのだということを。これが劇中の國岡商店の人たちの写真だが、50代以上の人なら、幼少の頃にこのような景色があちこちで見られたことを忘れてはいまい。左端で革ジャンを着ているのが監督の山崎 貴である。
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実はこの写真には、肝心の店主である國岡 鐡造が欠けている。きっと体を張って、どこかで切った貼ったの勝負に出ているのであろう (笑)。ここで興味深いのは、店主を演じる岡田准一の実年齢が 36歳であるのに対し、その番頭役、無口な甲賀治作を演じる小林薫の実年齢が、親子ほども違う 65歳であるということだ。劇中で寡黙な番頭役を演じる小林は、実に円熟の演技であると思う。
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この映画の長さは「永遠の 0」とほぼ同じ、145分。その長さにもかかわらず、見ていて飽きることはないが、何よりこれが実話に基づくストーリーであることが興味深い。石油会社のメジャーを敵に回し、今日ではありえないような乱暴な方法でイランに向かうところなど、まさに血沸き肉躍るものがある。いつの時代も、非難を恐れない勇気ある者が未来を拓く。これはイランから石油を運んできた日章丸の実際の映像。乗組員たちがイランに向かっていると知らされたとき、一体いかなる感情であったろうか。この映画を見て我々は、既に忘れてしまった何かの思い出を取り返す機会にしたいものだと思う。
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またここで國岡の妻を演じる綾瀬はるかは、そのごく限られた出演シーンにもかかわらず、いつもの自然な佇まいで、映画に何か安らぐものを与えている。
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現在、実社会での出光は、昭和シェル石油との合併に創業家が反対して頓挫している状態。そのひとつの理由は、現在出光美術館が所有する驚くべき日本美術のコレクションの散逸を、創業家が恐れていることも一因であるようだ。経済合理性はどうなのか分からないが、文化に対する妥協ない姿勢を見せた出光創業家は、さすがに海賊の子孫 (?) である。稀代の日本美術のコレクターであった出光佐三には、美術品に対する殺気立つほどの愛着があったようだ。この映画の中で國岡商店は、石油メジャーと丁々発止渡り合い、そのしっぺ返しを受けて会社が困窮のどん底に落ちてしまう。そのために起死回生の策として日章丸がイランに向かったわけであるが、私の疑問は、では現在の出光美術館のコレクションのうち、会社がどん底にあった状態でも散逸を免れたものが、どのくらいあったのかということだ。昨年開業 50周年を記念して出光美術館が開いた「美の祝典」3回シリーズについては、このブログでもそれぞれ記事を書いたが、今でこそ実に素晴らしい日本美術の宝庫である出光美術館がいかにして維持され発展して来たのか、知りたい衝動に駆られる。出光佐三の最初のコレクションは 19歳のとき。江戸時代の画僧、仙厓の作品であった。そして現在ではこの美術館は仙厓の大コレクションで知られる。劇中の國岡のように熱い人であったろう出光佐三は、恐らくそのコレクションにも命を賭けたのであろう。この映画の中で、國岡の執務室にはいくつかの美術品が飾られているが、中でも背景に見える、墨で描いたいかにも仙厓風の洒脱な作品 (時間の経過に応じて 2種類が確認できる) が気になる。私の手元にある 1989年の出光美術館での仙厓展の図録を見てみて、近いものを以下に掲げる。
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この映画のリアリティは脱帽ものであり、監督の山崎貴の細部に亘るこだわりが伝わってくる。けだし人間は、何事であれ大事なことにはこだわりを持つべきであろう。これからの時代、我々が頑張って生きて行くためのヒントをこの作品から得ることはそう困難なことではないと思う。飛行機の中ではなく、劇場で見ることができて本当によかった!!

by yokohama7474 | 2017-01-29 23:05 | 映画 | Comments(0)
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