シルヴァン・カンブルラン指揮 読売日本響 2017年 1月31日 サントリーホール

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2017年 1月の東京におけるオーケストラコンサートは、ニューイヤーコンサートの類を除くと、期せずして 2系統のプログラムがメインストリームとなった。ひとつの流れは、ブルックナーの交響曲。小泉和裕指揮東京都響による第 5番や、佐渡裕指揮東京フィルによる第 9番をこのブログでもご紹介したし、それ以外にもピエタリ・インキネン指揮日本フィルが第 8番を演奏した。そしてもうひとつの流れは、フランス音楽及び感性的にそれに近いもので、武満徹やスペイン音楽まで含めると、このブログでご紹介したものでは、秋山和慶指揮東京響やファンホ・メナ指揮 NHK 響、井上道義指揮新日本フィルの演奏会がそれに属する。そして今回、この流れにおける必聴のコンサートが開催された。読売日本響 (通称「読響」) の演奏会で、曲はメシアンの大作「彼方の閃光」、指揮は常任指揮者であるフランスの名匠シルヴァン・カンブルランである。実はカンブルランと読響は、1/25 (水) にも、デュカスの「ラ・ペリ」、ドビュッシーの夜想曲、ショーソンの交響曲という、これまた素晴らしいフランス音楽プロを組んだのであるが、私はそれを聴くことができなかった。それゆえもあり、このメシアンの大作はどうしても聴きたかったのである。カンブルランは1948年生まれの 68歳。指揮者として油の乗った年代であり、銀髪のポニーテールがトレードマークである。
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20世紀フランス音楽の巨星、オリヴィエ・メシアン (1908 - 1992) は、このブログでは既に何度も採り上げており、私がもらった直筆サインの写真も以前披露した。カトリックに基づく神秘的な宗教性や鳥の声を多くの作品のモチーフとし、数々の素晴らしい作品を残した。今回演奏された「彼方の閃光」は、この偉大な作曲家が完成させた最後の作品。ニューヨーク・フィル創立 150周年を記念して委嘱され、1991年に完成したが、作曲者は翌年死去、ズービン・メータの指揮するニューヨーク・フィルが世界初演したのは、作曲者の死後 5か月ほどを経てからのことであった。大規模な管弦楽による 11楽章、演奏時間 75分の大作である。この曲の日本初演は 1995年 3月22日、東京文化会館における若杉弘指揮東京都交響楽団によるものであった。私も当時それを聴きに行ったので、プログラムの写真をここに掲げる。作曲者の未亡人であるピアニストのイヴォンヌ・ロリオの日本初演に寄せるメッセージが貴重である。
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さてこの作品、この日本初演以来 22年間、何度演奏されたのであろうか。私の記憶にはほかになく、調べてみると、2008年に湯浅卓雄指揮の藝大フィルハーモニアで演奏されていることは分かったが、それ以外の実演があったのか否か。尚 CD では、恐らくチョン・ミョンフン指揮パリ・バスティーユ・オペラ管のものが世界初録音であろうか。それ以外にこのカンブルランがバーデン・バーデン & フライブルク SWR 響と録音しているし、あのサイモン・ラトルとベルリン・フィルによる録音もあるし、インゴ・メッツマッハーとウィーン・フィルも録音しているが、ほかのメジャー指揮者による録音は皆無である。と、そのような珍しい曲目だから会場はガラガラかと思いきや、なんのことはない、チケットは完売、サントリーホールは満員御礼の大盛況。東京おそるべしだ。これがカンブルランの録音。
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今回の演奏は、カンブルランと読響なら驚かないが、大変にクリアな素晴らしい演奏で、曲の持ち味を充分に表現したものであったと思う。実はこの曲、大編成のオケによる長大な曲ではあるのだが、すべての楽器が一斉に鳴り響く箇所はほとんどなく、管楽器だけ、弦楽器だけ、あるいは管楽器と打楽器だけという楽章が多くある。弦楽器の使用法も、常に高音に重きが置かれていて、弦楽合奏でもヴィオラの一部、チェロ、コントラバスが沈黙している箇所が多い。コントラバスに至っては、第 8楽章で初めて出番が来るが、演奏時間は大変短い。いつもオケの土台を支える縁の下の力持ちであるコントラバスは概して損な役回りが多いが、この曲に限っては、大変効率的な登場ぶりなのである (笑)。このような曲なので、緩やかなテンポの箇所ではその流れを保たなくてはいけないし、メシアン特有の神秘性を作為なく醸し出さなければならない。また、多くの鳥が鳴きかわす第 9楽章では分離よい響きが求められるし、第 10楽章でこの曲唯一の凶暴な盛り上がりに至ると、溜めていたパワーを全開しなくてはならない。終楽章ではトライアングルが一貫して鳴り響く中、美しい弦が空中を浮遊して天に消えて行かねばならない。カンブルランの指揮ぶりは隅々まで実に明確かつ確信に溢れたもので、オケとの相性も抜群であった。2010年から続くカンブルランと読響の関係は、いよいよ充実感を増してきたように思う。この曲自体が、例えばメシアンの代表作であるトゥーランガリラ交響曲のような大傑作であるか否かは一旦置くとしても、このような珍しい曲のこのような安定した演奏を聴くことができる東京は、やはり世界に誇る音楽都市であると言えると思うのである。

それにしても、4月から始まる読響の新シーズンのプログラムを見ると、その素晴らしいラインナップに対する期待感に胸が高まる。特にカンブルランのメシアン演奏は、今回に続いて次は11月に、あの超大作オペラ「アッシジの聖フランチェスコ」を、演奏会形式ながら全曲日本初演するというのが大きなニュースである。これは日本の音楽史上に残る事件になるのではないかという予感がする。尚 93歳の巨匠、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキの来日は 5月に予定されていたが、以前このブログにもコメントで情報を頂いた通り、彼は昨年 11月に脳梗塞を起こし、手術後の経過に鑑みて来日中止が発表された。残念ではあるが、ここは巨匠の回復を願いつつ、代役が誰になるのかを期待して待ちたいと思う。

さて、上に「彼方の閃光」の若杉弘による日本初演について書いたが、ひとつ面白いことを思いついた。指揮者若杉弘 (1935 - 2009) は、数多くの作品の日本初演を手掛けた人であり、凝ったプログラミングによる彼の活動が、日本の音楽シーンの発展に大きく貢献したことは論を俟たない。私が持つ彼の演奏会の思い出は沢山あるが、中でも忘れられないシリーズがある。それは、NHK 交響楽団とのブルックナー・ツィクルスである。それは彼がドレスデンのポストを解任 (? Wiki を見ると東西ドイツ合併によって音楽監督就任人事が白紙に戻ったとあるが、実際には何が起こったのであろう) されたあとの時期の、あたかもやり場のない怒りをぶつけるような、この温厚な指揮者としては異例の壮絶な演奏ばかりであったのだが、全曲予定されたブルックナー交響曲のライヴ・レコーディングも途中で頓挫してしまい、その実際の内容については、残念ながら正しく評価されていないように思う (ちなみに我が家には、全シリーズの FM での放送をエアチェックした DAT --- なんと懐かしい!! --- がある)。この場を借りてあの若杉 / N 響のブルックナーの素晴らしさを主張するとともに、そのプログラミングの妙についても、再評価したい。なぜなら、ブルックナーの全 9曲の交響曲それぞれと組み合わされていたのが、メシアンの作品であったからだ。この 2人の作曲家はカトリシズムという共通点はあるものの、実際の音楽の内容はかなり違っている。だが、その組み合わせは、聴いてみると非常に新鮮であった。そして気づくことには、今年 1月の東京の音楽シーンで、上記の通りブルックナーと、メシアンその他のフランス音楽がそれぞれに鳴り響いたことは、なんと、まさに若杉のプログラミングのようではないか!! そんな点にも、東京における音楽活動の発展を知ることができる。若杉が生きていれば、なんと言うことであろう。
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この機会にもうひとつ記録しておきたいのは、2月からサントリーホールが改修のために休館期間に入ることである。以下の写真は同ホールの 2階通路にある、月別にコンサートのチラシが貼ってあるコーナーだが、手前が 1月分、そして奥にポツンと 1枚だけ貼ってあるのが 2月分である。この 2月のコンサートはオルガンの連続演奏会とのことであり、少し特殊なもの。通常のオーケストラや器楽の演奏会としては、今回の読響のものが休館前最後のものということになる。
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開館 30周年を経て、このホールも改修が必要な時期なのであろう。ちょっと淋しいが、9月の再オープンまで、東京芸術劇場や東京オペラシティ、あるいはミューザ川崎や横浜みなとみらいホールで代わりのコンサートを楽しみたい。中には N 響のように、サントリーホールでの定期演奏会 (A/B/C 3シリーズのうちの B シリーズ) を、別の会場を使うことなく開催中止してしまうという、ちょっとびっくりな (笑) 楽団もあるが、ほかのオケは、別会場をやりくりして定期演奏会を継続する。各オーケストラの皆様には、それぞれに競い合いながら、東京の音楽シーンを、引き続き盛り上げて頂きたい。

by yokohama7474 | 2017-02-01 01:32 | 音楽 (Live) | Comments(2)
Commented by 吉村 at 2017-02-02 10:39 x
読響の年後半のプログラム楽しみですね。
サントリーホールが良いですよね。
東京フィルハーモニーの定期も買いました。こちらも秋以降楽しみですね。
Commented by yokohama7474 at 2017-02-02 21:08
> 吉村さん
そうですよね。日本のオケはますます聴き逃せなくなってきました。競争原理が働くのは大変結構だと思います。
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