スノーデン (オリヴァー・ストーン監督 / 原題 : Snowden)

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未だ記憶に新しい、スノーデン事件。米国が国民のプライヴァシーを犯して携帯電話や E-メール、SNS を傍受・監視していたという事実を、その行為に関わっていた当事者が暴露した衝撃は大きかった。それは 2013年 6月のこと。国家機密を暴露し、その後ロシアに逃亡したエドワード・ジョゼフ・スノーデン、現在 33歳。この映画はそのスノーデンが社会人として世に出てから、大きな決断をするまでの様々な経緯を克明に辿って行くもの。なんといっても監督があのオリヴァー・ストーンであるから、期待できようというものだ。
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「プラトーン」「JFK」など、米国の抱える闇に光を当てる作品を多く発表してきた彼のことであるから、この現代の大事件を題材とすることに、なんら不思議はない。とはいえ、これはほんの 4年前に起こったことであり、依然として進行中のケース。過去の事件を扱うのとは緊張感が違うであろう。そして実際この映画においては、現在でも健在であろう人たちの役が多く登場する。もちろんすべてが現実の再現ではないかもしれないが、いわば国への反逆者を扱うに際し、どのように描くかという点には細心の注意が必要だし、大変リスクのあることであることは明らかだ。なので私はまず、この監督の勇気に称賛を捧げたい。だが興味深いことに、監督自身のインタビューによると、「正直に言うと、この映画には関わりたくなかった。これまでに論争を呼ぶ作品は十分やっているし、マーティン・ルーサー・キング牧師の映画に関わったものの、結局は実現には至らなかった苦い経験があった」とのこと。なるほど、ストーンほどの実績と発言力のある映画人をもってしても、なんでもかんでも企画を実現できるわけではないのだ。あるいは、既に実績と発言力があるからこそ、権力者側から見ると危険であるということにもなりうる。そのことをまず認識する必要があるだろう。

この手の映画はそのように、現実を考える手段として位置づけられるのは致し方ないが、まずは純粋に映画として見てみよう。すると、まず素晴らしいと評価できるのは、主演のジョゼフ・ゴードン = レヴィッド。
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このブログでも記事を書いた「ザ・ウォーク」の演技も記憶に新しい彼が、その前作と同じくここでも、ある人並外れた能力を持ち、また強い信念に導かれて自らの道を進む主人公を、強い説得力を持って演じている。一見、淡々としているというか飄々としているその一方で、国家機密を扱っている重圧を常に感じているという、いわば引き裂かれた若者像を巧みに描いていると言えるだろう。スノーデンの個人生活も赤裸々に描かれ、恋人との亀裂や再会もストーリーの大きな比重を占めているが、その演出も実に巧みであり、普通の若者が前代未聞の国家への反逆を決意するまでの過程には、フィクションであるとノンフクションであるとを問わないサスペンスが感じられる。私としては、このように純粋に映画として流れがうまく行っている点をもって、これは充分に価値のある作品であると思うのである。共演者の中には、「スタートレック」シリーズで印象的なミスター・スポックを演じているザカリー・クイントとか、私としては久しぶりに見るニコラス・ケイジ、あるいはクリント・イーストウッドの息子であるスコット・イーストウッドがいる。それぞれに個性的で面白い。
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そして映画の大詰めでは、モスクワにいるスノーデンがテレビ番組で人々に語り掛けるシーンがあり、ここでついにゴードン = レヴィット演じるスノーデンは本人と一体になる。いや、これはどう見ても本人である。調べてみると、このラストシーンは実際にモスクワで撮影されており、ここで語っているのは本人なのである。これは映画の実際のシーンではなく、スノーデンの肖像写真。
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実際にこの映画の撮影中には当のスノーデンが以前所属していた NSA (National Security Agency = 国家安全保証局) から目をつけられ、制作に当たっては情報や素材は手渡しされ、オフィスでは盗聴器の存在を常に警戒していたという。そのようにしてできた映画であるから、やはり作り手たちにとっては特別な思い入れがあるであろうし、またこれを見る機会を持つ我々も、現代人の生活についての様々な感慨を抱くことになる。我々は後戻りすることはできない。かつては存在した中心が失われ、これからも世界で人々は、張り巡らされた網の目の上で生きて行くように、さらになって行くだろう。何年か経ってまた、スノーデンの行ったことや、この映画が訴えていたことを思い出すとき、我々はどんな問題意識を抱えているのであろうか。その答えは誰にも分からないが、ともあれ少なくとも問題意識くらいは持ち続けなくてはならない (笑)。オリヴァー・ストーンは語っている。「世界を変革しようだなんて思っていない。映画にできることには限界があるし、活動家のゲームを追いかけるつもりもない。ただ私は自分の中の良心と情熱に従っているだけなんだ」・・・なるほど、含蓄深い言葉である。

ところでオリヴァー・ストーンは、2013年に NHK でも放送された「もうひとつのアメリカ史」という全 10回のテレビシリーズを制作している。私はそれを見逃したので、後日出版された 3冊の書物を購入したが、最初の 1冊を以前読み終えただけで止まってしまっている。ほかにも未読の本が沢山あるという事情もあるが、それは言い訳で、このシリーズは内容が重くて、なかなか次に進み気が起こらないのが実情だ。だが、この偉大な映画監督の「良心と情熱」について行くため、残りの 2冊にも近く手をつけたいと考えている。
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by yokohama7474 | 2017-02-11 23:17 | 映画 | Comments(0)
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