パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK 交響楽団 (ヴァイオリン : 諏訪内晶子) 2017年 2月18日 NHK ホール

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今月の NHK 交響楽団 (通称「N 響」) の指揮台に立つのは、首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。このブログでは再三ご紹介している通り、エストニア出身で、今や世界の指揮界で引っ張りだこの名指揮者。先週末に続いて私が今回聴くことができたのは以下のプログラム。
 シベリウス : ヴァイオリン協奏曲二短調作品 47 (ヴァイオリン : 諏訪内晶子)
 ショスタコーヴィチ : 交響曲第 10番ホ短調作品 93

なるほど、ヤルヴィが先週採り上げたシベリウスの交響曲第 2番は 1901年の作で作品番号 43。同じ作曲家のこのヴァイオリン協奏曲はそのしばらく後、1904年の作で作品番号 47。但し現在演奏されるヴァージョンは、改訂を経て翌年 1905年に初演されたもの。この改訂初演のときのオーケストラはなんと、リヒャルト・シュトラウス指揮のベルリン・フィルである。西洋音楽史上で最も愛好されるヴァイオリン協奏曲のひとつになっている名曲だ。ソロを弾いたのは名実ともに日本を代表するヴァイオリニスト、諏訪内晶子。
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もちろんこの曲などは彼女にとっては目をつぶっていても弾ける曲なのであろうが、今回の演奏は彼女の新境地すら思わせる、大変に素晴らしいものであった。冒頭の静かな湖面の波紋を思わせる繊細な弦楽合奏のさざ波に乗って歌い出すソロ・ヴァイオリンは、強い集中力というよりも余裕を感じさせるもので、既にして諏訪内の音楽が尋常ならざる高みに達していることを思わせた。全曲を通して、完璧なテクニックが耳につくというよりは、時に音程すら危うくなるくらいの強い表現力を持って音楽を進めて行く様子に、終始圧倒されたのである。正直なところ、ひと昔前までは彼女の演奏には出来不出来がそれなりにあったように思う。だが今では、そのヴァイオリンは常に何かを語り続けるのである。我々は今後ともそれを傾聴しよう。彼女は今回も、アンコールとしておなじみのバッハの無伴奏ソナタ 2番からアンダンテを弾いたが、それはやはり確固たる自信に満ちた音楽であり、聴き手の心にストレートに響くものであった。ところで、諏訪内が音楽監督を務める「国際音楽祭 NIPPON」も今年が 5回目の開催。5月と 7月に東京と名古屋で意欲的なコンサートの数々が開かれ、最後は東日本大震災の被災地である岩手県久慈市でのチャリティコンサートで締めくくられる。きっと強い音楽で聴衆を勇気づけてくれることであろう。
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後半に演奏されたショスタコーヴィチの 10番は、1953年、スターリンの死後すぐに書かれた、この作曲家らしい屈折した難曲であるが、ここでも好調のヤルヴィと N 響のコンビが、聴きごたえ充分の演奏を展開した。改めて感じるのは、ヤルヴィの指揮の見通しのよさである。この交響曲を書いた作曲者の複雑な真意が何であるにせよ、このように個々の音楽的情景が揺るぎないクリアさをたたえた演奏によって純粋な音のドラマが立ち上がる様に立ち会うのは、なかなかに得難い体験なのである。彼は決して爆演系の指揮者ではなく、いかに音楽が熱狂しようとも、常に長い腕で冷静に音の流れを統御しているのだ。それでいて、音自体の迫力に不足することは決してない。沼の底から魑魅魍魎が浮かび上がるような冒頭から、なぜとも知れぬ熱狂が宙に舞い上がって行くエンディングまで、移り変わる情景に、人が生きる苦しみと喜びがにじみ出ている。この曲が作曲者自身を象徴する音型 (D-S-C-H) によって成り立っていることは以前から知られているし、不気味な第 3楽章が恋人を象徴しているらしいことも、もはや定説であろう。だが今回のプログラムによると、この曲は彼のいわゆる「戦争三部作」の掉尾を飾るものとして書かれたことが近年判明しているらしい。ショスタコーヴィチの戦争三部作とは、いわずとしれた交響曲第 7・8・9番であるが、このうち戦後に彼の交響曲として初めて発表された第 9番だけは、人を食ったような小規模でふざけた曲なのである。作曲者の中では、その第 9番の特殊性は充分認識されていたわけで、重厚な音が跋扈する (その一方でピッコロなどの高音の活用も大変に印象的な) この第 10番こそが、戦争三部作の 3作目であったとは、なかなか面白い。これからも新資料の発見によって評価が変わって行くであろうショスタコーヴィチ。
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今回の堂々たる演奏により、私にとってのヤルヴィと N 響は、これからも必聴のコンビであることを再確認したが、ひとつ残念なことがある。N 響は従来、3通りのプログラムによる定期演奏会のうち 1つはサントリーホールで開いているのであるが、同ホールは現在改修のために閉鎖中。このホールを本拠地とするほかのオケは、異なる会場を確保して定期演奏会を継続するのであるが、どういうわけかこの N 響だけは、サントリーホールシリーズは単に中止となり、つまりはこれから 9月定期までは、定期演奏会のプログラムは 2種類となるのである。だが今回ヤルヴィは、サントリー定期の代わりとして、ほかの会場で 2回のコンサートを開く。会場は横浜みなとみらいホール。曲目は極めて意欲的で、武満徹の弦楽のためのレクイエムと、マーラー 6番。しかも途中休憩なしに一気に演奏されるのだ。これがそのコンサートのポスター。聴きたい聴きたい!!
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だがここで問題がひとつ。横浜で平日のコンサートは東京勤務の人たちにとってはつらい。加えて、2/23 (木) は 15時開始だ。これはなかなかに厳しい。そもそも私は来週出張のため、これらのコンサートには行けないのだが、それにしてもこれは大変残念なこと。なんとかならなかったのであろうか・・・。

by yokohama7474 | 2017-02-18 23:57 | 音楽 (Live) | Comments(0)