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マリアンヌ (ロバート・ゼメキス監督 / 原題 : Allied)

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この映画の題名は、主人公である夫婦のうち、妻の方のファーストネームである。ところが原題はそれとは似ても似つかぬ、"Allied" という言葉。うーん。これはどう見ても人の名前ではないし、そもそも「マリアンヌ」と「アライド」は、響きが違いすぎるではないか!! それもそのはず、"Allied" とは、「同盟を組んだ」という意味の形容詞であって、人の名前ではありません (笑)。つまりは、ここで登場する男女が志をともにし、ともに闘う関係であるか否かを問う題名ということであろうか。もちろん、第二次世界大戦でナチス・ドイツと闘ったのは連合国、つまり Allies であった。映画の内容に鑑みると、二人とも連合国側の人間であったのか否かという点を題名で問うているのかもしれない。これはなかなかに凝った題名であり、まさか邦題を「同盟」とするわけにもいかないし、「絆」などと訳してみても、やはり違う。実に日本の配給会社泣かせの題名であり、そうすると「マリアンヌ」というフランス女性の名前を題名にする案には、一理あるかと思います (笑)。

予告編によると、愛する妻がスパイであるとの情報を受けた夫が疑心暗鬼にとらわれるという内容であると理解されるが、だが観客は、冒頭から間もない場面でこの女性が、そのようなイメージにふさわしい一般のかよわい人ではないことをすぐに知ることになる。そして訪れるこのシーン、この程度はネタバレではないと勝手に自分に言い聞かせるが (笑)、なかなかカッコよかったですよ。
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ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールというビッグな組み合わせを主役に据えた映画であるし、監督が名匠ロバート・ゼメキスであるから、まず大きく期待を外れることはないだろうと思って見たのだが、見終わったあとの感想は若干複雑だ。あまりストーリーをひねりすぎない点には好感が持てるが、その一方で、戦争という特殊な状況におけるスパイ活動という設定において、個人が持つ感情に、どこまで思い入れをすべきであるのかよく分からないきらいがある。つまり、現実の世界ではこれに近い話はもしかすると実際にあったかもしれないし、それはそれは切ない物語なのではあるが、数知れない命が犠牲になった痛ましい大戦争の中で、愛という個人の感情が人間の行動を支配するファクターになりえたか否か、ということである。多くの場合、現実はもっともっと悲惨であったのではないか。すなわち、自分たちの敵と判断すると容赦なく相手の命を奪うその同じ人間が、自らの愛する家族の命については、絶対に奪われてはならないかけがえのないものと実感するということは当然あったろうが、21世紀の我々がそれを見て、主人公たちが絶対的に正しいと言えるのかどうかと、私は考え込んでしまったのであった。もちろんそのような違和感さえ拭ってしまえば、感動的な映画であることは間違いない。冒頭のモロッコの砂漠にブラピが落下傘で降り立つシーンのテンポ感と高低差の表現は素晴らしかったし、砂漠の車の中のラブシーンでは、現実を超えて砂嵐が命を燃え立たせるという描き方になっていて、映画的感興があった。慌ただしいネットも携帯電話もない戦時中、迫りくる危機に全身でぶつかっていく主人公たちの姿には、余計なものがなく、好感が持てる。つかの間のパーティのシーンでは、奇しくも昨年公開された「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」のシーンと同じく、ベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」が高らかに流れる。だが違いは、かの映画でこの音楽に乗って踊るのは夫ひとりであったが、ここでは夫婦揃ってのダンスになる点である。
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魔法も使えず超人的な力もない個人としては、歴史の大きな歯車に逆らって個人的な思いで国に楯突くことは、極めて難しい。だからこそ、そのような主題が映画になりうるとは言えるだろう。勇気ある行動は、たとえそれが最終的に悲劇に終わっても、人の心を動かすものである。その一方で、では個人的な正義感さえあれば、同じ人間である敵の命を情け容赦なく奪うことは果たして許されるのか? これは重い問いである。私の見るところ、この映画では、夫はそのような非情さを持ち合わせていて、目的のためには手段を選ばないが、妻の方はそうではなく、敵に対するなんらかの哀れみの情を持ち、自己犠牲をも辞さない潔さがある。さて、人間としてどちらが正しいと言えるのだろう。そして、果たしてふたりの間には同盟は成立しているのだろうか。
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この二人の俳優、どちらも私はファンなのである。ブラピは私生活のトラブル (?) とは関係なく、一貫して問題作に出ているし、一方のマリオン・コティヤールは、フランス人にしては異例なくらい英語がうまい人であり、それゆえに多くの映画で活躍している。実際今も、この映画以外に「たかが世界の終わり」(これはフランス映画であり、彼女は珍しく (?) フランス語を喋っている) が公開中だし、もうすぐ公開される「アサシンクリード」にも出演している。昔の女優のような気品があり、芯のある女性を演じられる得難い女優であると思う。

監督のロバート・ゼメキスについては触れるまでもないと思うが、1952年生まれの 64歳。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで名を上げ、「フォレスト・ガンプ / 一期一会」でアカデミー賞を受賞。現代ハリウッドを代表する監督であり、前作の「ザ・ウォーク」はこのブログでも絶賛したし、その前の「フライト」も素晴らしかった。ただ、彼の作品には本当の意味でのドク、じゃないや毒はなく、その作風には過激さは皆無であるが、その真摯な制作態度には好感が持てる。彼のフィルモグラフィを見ていて気付いたのだが、この作品は彼としては恐らく初めての歴史ドラマ。手堅い手腕を発揮していると思う。
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平和な時代に暮らしている我々、いや正確には現代でも戦乱はあちこちで起こっているので、平和な地域に暮らしている我々というべきか、その我々がつい忘れがちな、平和を獲得し守るための代償。そんなことに思いを致すことになる映画である。上に書いたような疑問を疑問のままにしておける日常生活に、我々は深く感謝しなければならない。それゆえの複雑な感想である。

by yokohama7474 | 2017-02-28 23:04 | 映画