グリーンルーム (ジェレミー・ソルニエ監督 / 原題 : Green Room)

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これは低予算の、いわゆるインディーズ系の映画であるが、上のようなポスターを目にした瞬間、これは見る価値ありと判断した。このイラストの乾いた感覚はどうだろう。最近ご無沙汰だが、まるで大友克洋の作品の一場面のようではないか。この映画のチラシを見てみると、このようなコピーが。「理不尽に囚われた楽屋 (グリーンルーム) からの決死の脱出劇 --- 内臓で感じろ! 新世代の傑作アクション・スリラー」・・・なるほど面白そうではないか。また、「全米初登場第 1位」とある。これはますます期待が高まる。

さらに、このようなインディーズ系の映画であるにもかかわらず、ハリウッドのメジャーなシリーズ物に出ている俳優が 2人、ここには出演している。まず一人は、この映画の主演俳優、アントン・イェルチン。
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彼が出ている (いや、残念ながら「出ていた」と過去形にする必要があるのであるが) ハリウッド映画は「スター・トレック」シリーズで、そこで彼はパヴェル・チェコフというロシア系乗組員を演じていた。この役者自身、もともとロシア出身であるらしい。
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なぜに「出ていた」と過去形にする必要があるかというと、彼は既にこの世の人ではないからだ。昨年 6月、自宅で車と門の間に挟まれて死亡しているのが発見された。享年 27歳。この「グリーンルーム」の撮影は 2015年で、日本では先に公開された「スター・トレック BEYOND」の方が後で撮影されている。そしてその「スター・トレック BEYOND」が彼の遺作となってしまった。正直なところ、「スター・トレック」シリーズでは脇役であるが、この「グリーンルーム」では堂々の主役。私はここでの彼の演技は素晴らしいと思う。これから大ブレイクかというときに逝ってしまったことは、残念でならない。

そしてもうひとり、メジャー映画に出ているのは、パトリック・スチュワート。ここでは悪の親玉を演じている。
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この顔はおなじみ。言わずと知れた「X-Men」シリーズのプロフェッサー X 役である。一度見たら忘れまい。
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そのような俳優たちを擁したこのインディーズ映画、ストーリー自体は至って単純で、売れないパンクロックグループがドサ回りをしていて出演することになったライブハウスが、実はネオナチの巣窟で、メンバーたちはそこから脱出すべく努力するが、敵に阻まれるというもの。因みに題名の「グリーンルーム」とは、楽屋と舞台の間にある出演者たちの控えのスペースのことを指すらしいが、上のポスターでも明らかな通り、文字通りグリーン系の色彩が、室内外を問わずあらゆるところに出て来て、見る者を不安にさせるのである。設定はなかなかうまくできている。
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この映画のひとつの特徴は、かなりエグい殺戮シーンが頻繁に出て来ることであり、その手の映画が苦手な人は見ない方がよいだろう。脚本・監督を担当したのはジェレミー・ソルニエという 1976年生まれの新鋭で、これが長編 3作目。どこかで「現代のサム・ペキンパー」という表現を目にしたことがある。うーん、だが私の見るところ、かのヴァイオレンスの巨匠とは未だ格段の差があると言わざるを得ない。むしろこの映画を比較するなら、最近日本でも公開された「ドント・ブリーズ」(フェデ・アルバレス監督) がよいだろう。今年の 1月 6日付の記事で私が絶賛した映画である。この 2つの映画には設定に共通点があり、それは、ある場所に閉じ込められた若者たちがそこから脱出するために命を賭けるという点。最後の方で犬を使っている点も似ている。だが、明らかにこの「グリーンルーム」の完成度は「ドント・ブリーズ」に遥か及ばない。それにはいくつかの理由があるが、例えば、登場人物が多いがその個性が充分に描かれていないばかりか、敵・味方ともに、人の区別すらつきにくい点があること。また、若者たちが敵に立ち向かうための方策に、なるほどっと唸るような工夫がないこと。それから、ネオナチとされている敵の集団が取る行動の理由が説明されず、見ているうちに不気味さを感じなくなること。そして何より、ラストの決着のつけ方。納得がいかないばかりか、多分に拍子抜けである。「ドント・ブリーズ」の息をもつかせぬ展開と、最後の最後まで安心して見ていられないサスペンスは、この映画にはないと言わざるを得ない。時に感覚の冴えを覚えさせるシーンがあるだけに、全体の仕上がりがこの程度であることは、大変に残念である。

ここで再度ペキンパーの名前を出さずとも、映画には鮮血の美学というものがあり、いわゆるスプラッター映画にも (私の感覚では) 美しい作品は数多くある。この作品はそのような美学を目指していることは分かるし、評価できる面もある。また、アントン・イェルチンの鬼気迫る演技が、かなり全体の出来を引き上げているとは思う。だが、残念ながら全体を貫く美学というものまでは感じられなかった。やはり夭逝したヒース・レジャーが、「ダークナイト」での凄まじい演技によって、死後、アカデミー助演男優賞に輝いたようなことがここで起こらなかったことは全く残念だが、致し方ない。

ともあれ、もし自分がどこかに閉じ込められ、決死の脱出を図るときに、一体いかなる心構えで臨めばよいのかについては、なにがしかのヒントが得られたものと思う。・・・そんな目に遭わないことを心から願っておりますが (笑)、いざというときはこんな感じで敵に立ち向かおう。
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by yokohama7474 | 2017-03-02 00:29 | 映画 | Comments(0)
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