すみだ北斎美術館を支えるコレクター ピーター・モースと楢﨑宗重 二大コレクション すみだ北斎美術館

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江戸時代後期の画家、葛飾北斎 (1760 - 1849) は、言うまでもなく海外にまで広くその名を知られた巨人である。その彼が生まれたのは、現在の東京都墨田区亀沢と言われている。当時の名前で本所割下水。「割下水」とはその名の通り、通りを掘り割ってを通した下水路のことで、本所には北割下水と南割下水があったらしい。これが明治 41年頃の南割下水の写真。北斎の時代よりは 150年ほど下った頃のものだが、彼が幼時に見ていた風景の痕跡はあるのではないか。
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その南割下水は暗渠として地下に潜り、現在では「北斎通り」と改められている。両国に江戸東京博物館が建設された際にその名になったという。その通りは、その江戸東京博物館の正面から錦糸町方面に向かっており、新日本フィルハーモニー交響楽団の本拠地、すみだトリフォニーホールもその北斎通りに面しているが、同ホールから 1kmほどの距離の場所に昨年 11月 22日、新たな美術館がオープンした。その名もすみだ北斎美術館。かつて弘前藩津軽家の上屋敷があった場所が緑町公園になっていて、その一角にその美術館はある。
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北斎はその長い生涯に 93回も転居したと言われるが、その多くが現在の墨田区内ということもあり、まさに墨田区が生んだ巨匠であったのである。墨田区に北斎の美術館を作ろうという動きは既に 1989年からあり、実に 30年近くかけてようやく実現の運びとなった。開館記念展の第一弾、「北斎の帰還」展に足を運ぶことはできなかったが、現在開催中 (4月 2日まで) の開館記念展第二弾、「すみだ北斎美術館を支えるコレクター」展を見ることができた。この美術館の収蔵作品に含まれる二つの個人コレクション群、つまり、米国の北斎収集家ピーター・モースのコレクションと、浮世絵研究の第一人者であった楢﨑宗重のコレクションの一部を紹介する
企画である。この展覧会はこの 2つのコレクションから、北斎の作品以外にもあれこれの作品が展示されていて興味深い。何よりも、郷土の芸術家を称揚することは、その芸術家の根源にある何かを尊重することであり、大いに意義深い。この日は空も青く、展覧会の旗も誇らしげにはためく。ちなみにポスターの左側の絵は北斎の富嶽三十六景から「甲州石班沢 (こうしゅうかじかざわ)」だが、右側は北斎の顔でもコレクターの顔でもなく、高橋由一の作品で、三河田原藩主を描いた楢崎コレクションの 1枚。
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私が撮った写真だけではこの美術館の建築のユニークさが分かりにくいので、全体が分かる写真を借用して来よう。このように銀色に輝くメタリックな外見。
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あの世界的建築事務所 SANAA を西島立衛とともに運営する建築家、妹島和世 (せじま かずよ) の最新作である。真ん中の切れ目から人が出入りするようになっていて、外光が燦々と降り注ぐようにはなっていないが、これはもちろん、繊細な浮世絵や肉筆画の展示にとって強い光は禁物であることによるのだろうか。敷地面積はかなり狭いが、3階と 4階の 2フロアを効率的に使った展示が行われている。展示室内は暗くとも、ホワイエはこんな感じで明るく清潔である。もちろん東京スカイツリーも、斜めの格子越しとはいえ、よく見える。
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今回は展覧会の図録は作成されておらず、300円の小冊子が売られているだけなのでこの記事では展示品の紹介は行わないが、前期 (2/4 - 3/5) と後期 (3/6 - 4/2) をあわせて 131点の作品が展示される。モースのコレクションからの出品はすべて北斎であり、楢﨑のコレクションからは様々な作品が展示されることになる。簡単にご紹介すると、ピーター・モース (1935 - 1993) は、大森貝塚を発見したあのエドワード・モースの子孫 (弟の曾孫) にあたる人で、その北斎コレクションは、欧米におけるものとしては最高・最大の内容とされている。総数 600点近くに上り、本人の死後、散逸を恐れた遺族から墨田区に譲られたもの。一方の楢﨑宗重 (1904 - 2001) は美術史家で、戦前より浮世絵研究に携わり、もともと趣味的な分野とされていた浮世絵を、美術史の中で学問的に位置づけることに尽力した人。北斎のみならず幅広く中国の古美術から近代絵画までを含む 480点は、墨田区に寄贈された。これらが、このすみだ北斎美術館のコレクションの根幹をなすこととなったわけである。

また、北斎の画業を辿る定常展示のスペースも面白い。ここでは、4点の作品を覗いてフラッシュなしの写真撮影が可能。こんなふうに資料や北斎の作品が並んでいて興味深い。
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また、北斎晩年の住居が再現されていて、大変リアルである。北斎の人形は、筆を持つ手が動くようにできている。横にいるのは娘の応為 (おうい、またお栄、阿栄とも)。この応為については最近見直されていて、数年前に太田記念美術館で展示された「吉原格子先之図」の実物を見て私も驚嘆したし、杉浦日向子の漫画「百日紅」にも登場し、最近アニメ映画にもなった。晩年の北斎作品のかなりの部分は実は彼女が描いたという説すらあるようだが、ここではただのうらぶれた婆さんのようだ (父があまりにも高齢なので、実際応為本人も年齢的にはこの頃は婆さんだったわけだ)。
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このシーンは、「北斎仮宅之図」というこの版画に基づいて制作されたものであるようだ。なるほどリアルなわけである。
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北斎の偉大さについて書き始めるときりがないし、昨年 8月に長野県小布施市を訪れた際に記事も書いたので、この記事ではただ新しい美術館のご紹介をするに留めるが、前述の通り、その土地ゆかりの芸術家を称揚することは大変に意義深く、この美術館がこれから多くの人に愛されることを願ってやまない。売店でこのような飴のセットを購入 (中身は榮太樓飴の詰め合わせ)。まぁ、自分ではさすがにこんなアホなことはしないものの (笑)、願わくばどんなときもこのようなひょうきんさを持って、楽しく毎日を過ごしたいと思い、書斎のデスクにあるスピーカーの上に置くこととした。あっ、なぜか後ろには 1990年代のレコード芸術誌が山積みになっていますが・・・。
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by yokohama7474 | 2017-03-04 22:44 | 美術・旅行 | Comments(0)