東北ユースオーケストラ (音楽監督・ピアノ・一部指揮 : 坂本龍一、指揮 : 柳澤寿男) 2017年 3月25日 東京オペラシティコンサートホール

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とあるコンサート会場で、重ねて置いてあるチラシが目に入った。上に掲げた通り、ほとんど真っ白で、何やら記号のようなものが見える。なんだろうと思って手に取ると、東北ユースオーケストラとある。なるほど、震災復興イヴェントかと思い、そして、下の方に載っている不鮮明な写真に目を凝らしてみた。すると目に入ったのはこれだ。
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なに? これは坂本龍一ではないか!! 既に 65歳となり、癌の発表後、放射線治療をポリシーとして受けないと聞いてから、彼の健康状態を心配していたので、チラシの裏を見て「音楽監督・ピアノ : 坂本龍一」とあるのを見てビックリ!! このようなイヴェントがあるとは知らなかった。早速チケットを調べてみたが、軒並み完売。それからあちこち奔走し、何とかチケットを入手した。昔からやはり坂本ファンである家人とともに、このコンサートを聴けることになり、大変嬉しく思ったものである。

最初に、私にとっての坂本龍一を少し書いておきたい。当然最初は YMO で、私の世代は皆夢中になったものだ。ディスコなる場所では「ライディーン」に合わせてこういう振りをするらしいと教わり、友人たちと狂ったように踊っていた中学時代 (笑)。その曲が入った「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」というアルバム (もちろんアナログです。そう言えば英語の教師が、「どういう意味だろうね」と言っていましたね。笑) も購入して、クラシックの合間に飽くことなく聴いていた。その後何年も経ち、「戦場のメリークリスマス」、ベルトルッチの稀代の名作「ラスト・エンペラー」での映画音楽に魅せられ、生演奏にも足を運んだ (ちょうど「ラスト・エンペラー」でオスカーを受賞する直前で、自信満々のコメントをしていたのをよく覚えている)。それからは、ダンスリーとの「エンド・オブ・エイジア」、「千のナイフ」や「音楽図鑑」、そしてとりわけ「未来派野郎」等のアルバムが愛聴盤となった。あ、それから、高橋悠治が録音した新ウィーン楽派のアルバムで、連弾ピアノとして参加しているのも興味深かったし、また、私の友人がスタッフ関係のある、とある小さい劇団の公演を見に行くと、客席に矢野顕子と並んでいる彼の姿を見て驚いたこともあった。その他、最新の「レヴェナント : 蘇りし者」まで、数々の映画音楽にも注意して来た。総じて言えば、彼の作品においては、昔のテクノポップ時代とその続きのような、しっかりしたメロディラインでポップかつエスニックな雰囲気の曲がやはり好きで、あまりに抒情的なものにはそれほど興味を覚えない、というのが私の坂本感。せっかくなので、「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」のジャケットをここに載せておこう。1979年の発売ということは、ほとんど 40年前ではないか!! YMO のメンバーの 3人の若いこと!!
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さてこの東北ユースオーケストラであるが、東日本大震災で被災した東北三県 (岩手、宮城、福島) の小学生から大学生までをメンバーとするオーケストラで、坂本龍一の提唱により活動を開始し、本格的なコンサートは去年に続いて今回が 2回目。東京でのコンサートの翌日、福島の郡山でも演奏するとのこと。今回の内容は以下に紹介するが、最初に総括を述べておくと、さすが坂本の企画によるもの。大変に意欲的な曲目であり、実に勇気あるチャレンジをしたものであると思う。もちろんメンバーの中には家族を失ったり自宅に帰れなかったりという辛い経験のある人たち (コンサートで坂本は親しみを込めて「子供たち」と言っていたが、大学生まで含むとなると、我々部外者が「子供」と呼ぶのは失礼な気がする) もいるだろう。だがコンサートには湿っぽさは皆無で、ひたすらチャレンジと、未来に向けた溌剌とした希望に溢れていて、聴衆たちも大いに勇気づけられたことは間違いない。これこそ音楽の持つ力でなくてなんだろうか。坂本とオーケストラのメンバーたち。
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曲目を紹介する。前半は坂本自身の作品と民謡の編曲。そして後半は、なんとビックリのあの大作である。
 坂本龍一 : ラスト・エンペラー
 坂本龍一 : 八重の桜メインテーマ
 坂本龍一 : 映画「母と暮せば」より (朗読 : 吉永小百合)
 坂本龍一編曲 : 沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」(協演 : うないぐみ)
 坂本龍一 : 弥勒世界報 (みるくゆがふ) (協演 : うないぐみ)
 藤倉大 作・編曲 : Three TOHOKU Songs
 マーラー : 交響曲第 1番ニ長調「巨人」

坂本は自作のほとんどではピアノ (PA つき) を弾いたが、唯一、吉永小百合が子供たちによる 3つの詩を朗読した「母と暮せば」(これはもちろん、彼女が主演した山田洋二監督の映画の音楽である・・・それにしても既に 72歳の吉永、遠目にはせいぜい 40代にしか見えず、実物はまさに驚異だ!!) では自身で指揮をした。見たところ病気の影響は全く見られないほど元気で、安心したものである。そして、マーラーを含む残りの曲目において指揮を取ったのは、柳澤寿男 (やなぎさわ としお)。彼の活躍ぶりはテレビでも紹介され、本も出ているが、あの痛ましい内戦に揺れた旧ユーゴスラヴィアで、互いに殺し合った民族間の協和を求めて、様々な民族の混成オケを指揮するという、大変に勇気ある活動を行っている指揮者である。指揮棒を使わずに、大変明快な指揮をする人だ。それから、吉永は昨年に続く出演で、今回は北海道ロケを抜け出して会場に駆け付けたという。
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全体の司会をアナウンサーの渡辺真理が務め、坂本、吉永、柳澤のコメントも聞くことができて、大変興味深かった。もともと坂本は、震災後に傷ついた心を持つ人たちを慰めるため、音楽を聴く機会を提供したとのことだが、そこから発展して、若者たちを集めてオーケストラをやってみようということになった由。今回のコンサートに向けて 8ヶ月に亘って準備をし、合宿を何度も行い、今回も合宿先で集中的に最後の仕上げをしてから、コンサート会場にそのまま乗り込んできたという。尚、若者たちだけでなく助っ人の大人も入っていると聞いて、なるほど、要所要所にいるのかと思えば、たったの 4人。すべて東京フィルのメンバーで、ヴィオラが 2人と、コントラファゴット、そしてハープ。つまり、今回の大編成 (総勢 104名) での演奏に当たり、どうしても奏者を集めることができなかったパートに限って、これら助っ人が入ったということだろう。実際の演奏は、猛練習の成果あって、なかなかに熱の入ったもの。前半で面白かったのは、東北の人たちがメンバーであるにもかかわらず、沖縄の音楽が演奏されたこと。坂本には沖縄民謡風のメロディを使った作品が数々あることは周知であろうから、これは彼らしいユニークな試みであった。本人も、「東北と沖縄は地理的には遠いけれども、音楽には近い点があって、日本の音楽が各地で深いところでつながっている証拠。実際に福島の僧が沖縄に渡って民謡を興したとも言われている」と説明した。協演の「うないぐみ」は、このような沖縄の伝統楽器による 4人組。なんとも沖縄らしい音楽が楽しかった。
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ほかに面白かったのは、前半最後に演奏された、ロンドン在住の作曲家、藤倉大が編曲した 3つの東北の民謡 (大漁唄い込み、南部よしゃれ、相場盆唄) である。藤倉はまさに日本が世界に誇る現代音楽のホープであり、今年 40歳になる気鋭の作曲家である。このブログでは、つい先日、3月18日の記事で、彼が作曲してパリで初演されたオペラ「ソラリス」に言及したばかり。本人の言がプログラムに載っていて、「(前略) 編曲というよりかなり作曲の域に入っていると思います。(中略) プロのオーケストラが弾いても弾きごたえのある楽譜になりましたし、ユースオーケストラなら元気いっぱい、掛け声も高々としたものになるだろうな、と思ってやりました。(後略)」なるほど、楽員が掛け声をかける場面もあって、実に溌剌とした演奏になったのである。藤倉はこんな人。
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さて後半のマーラー 1番であるが、なんでもメンバーから出た案によるものらしい。坂本は、「志が高いというと聞こえはいいけど、ユースオケにはちょっと難しすぎるよねぇ・・・」とコメント。もちろんそれは容易に想像できることであり、もちろんプロの演奏のレヴェルに達するのはさすがに難しいが、だが今回の演奏を聴いて、やはりこの曲の素晴らしさを改めて認識することができた。第 2楽章の冒頭など大変に勢いがあり、また終楽章の灼熱のコーダも、(ホルンの起立はなかったが) 全員一丸となって突き進む音楽になっていて、ここに至るまでの若者たちの努力と、何よりも 100人が力を合わせて難曲を演奏するというチャレンジに、爽やかな感動を覚えたのである。この演奏に参加した若者たちは、この経験を一生忘れることはないだろう。震災復興という意味合いだけでなく、彼ら彼女らの人生における大きな勇気の源になるであろう。音楽には本当に素晴らしい力があるのだなと、再認識することとなったのである。坂本や柳澤も主演後、「心配したけど大変よかった」「完全燃焼だったね」と、ねぎらいの言葉をかけていた。皆さん、お疲れ様!!

そしてアンコールが演奏されたのだが、そのステージの準備が行われている間に、男女 5人のメンバーがコメントした。皆一様に「楽しかった!!」と言っており、本当に充実感いっぱい。中には「演奏のときよりも、今ここで喋っている方が緊張します」と発言して笑いを取る子もいて、なんとも穏やかな雰囲気に包まれた。そして、再び坂本がピアノを弾き、柳澤指揮のオケとともに、自作の「ETUDE」を演奏した。おっ、これは、上で書いた私のかつての愛聴盤のうち、「音楽図鑑」に入っていた曲ではないか。そうそう、こういう坂本龍一、好きなんです。これがそのアルバム、「音楽図鑑」。もちろん自宅に戻ってから、久しぶりに家人とともに聴き入ったことは言うまでもない (笑)。
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せっかくの機会であるから、何かチャリティになるものを、と思ったが、残念ながら選べるアイテムがごく限られている。その中で、三越伊勢丹が 3年前から毎年制作していて、今年も 3月 1日から発売している「どんぐりバッヂ」なるものを購入。たった 300円だが、この収益から命を守る森を作るとのこと。もしこのオケが来年以降もコンサートを続けるなら、前年の演奏のライブ CD を発売して、その売り上げを震災復興に活用してはいかがでしょう。
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上述の通り、全体を通して、湿っぽくならずに前向きになれる、そして音楽の力を信じることのできる、素晴らしい演奏会であった。今の坂本は、永井荷風と藤田嗣治を足して 2で割ったような風貌であり (笑)、それだけでも私の好みであるが、何よりこのような企画を実現できる行動力も兼ね備えていて、やはり日本の音楽シーンにとってなくてはならない人である。今後も是非健康にご留意頂き、ご活躍下さい!!
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by yokohama7474 | 2017-03-26 01:54 | 音楽 (Live) | Comments(0)
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