2017年 03月 26日
小澤征爾音楽塾 ビゼー作曲 歌劇「カルメン」(指揮 : 小澤征爾 & 村上寿昭 / 演出 : デイヴィッド・ニース) 2017年 3月26日 東京文化会館
主要歌手陣は、米国人の若手が中心。ドン・ホセのチャド・シェルトン、ミカエラのケイトリン・リンチ、エスカミーリョのボアズ・ダニエル、それぞれに持ち味を出していたとは思うが、全体的な出来はまずまずというところであったと思う。カルメン役のサンドラ・ピクス・エディは、そのスリムで華やかな容姿がまさにこの役にぴったり。心が震えるような歌唱とまでは言わないが、終幕の情念の表現は卓越していたと思う。
演出は、このシリーズではおなじみのデイヴィッド・ニース。それなりに気が利いていて、しかも過激すぎたり理屈っぽくならない安定した演出を行う人である。プログラムに寄せた文章では、この「カルメン」には (先の 2月 6日の記事にも書いた通り) フランス語のセリフを入れるか、音楽に乗せたレチタティーヴォにするかという版の選択の問題があるが、ニースと小澤は、迷うことなく、オリジナルのセリフ版 (オペラ・コミック版) を選んだという。ただ、フランス語を母国語としない歌手たちのために、フランス語による演技は極力少なくすべしという方針から、セリフはかなり切り詰めたとのこと。それはそれで一見識だったと思う。演出の細部には興味深いものが多々あり、例えば、冒頭の前奏曲のあとの「運命の動機」では、終結部でドン・ホセが銃殺される場面の前兆になっていて、円環構造を示していた。また、1幕でミカエラとホセが二重唱を歌う場面では、カルメンが煙草を吸いながらこっそりそれを見ているという設定で、その後カルメンの起こす騒動が、彼女がホセの気を惹くための自作自演ではなかったと思わせる作りとなっていた。終幕では闘牛士たちの入場に対して真っ赤なテープが門の上層階から投げ入れられるが、その長いテープが地面で渦を巻いているところに、その後ホセに刺されたカルメンが横たわり、祝福のテープが一瞬にして鮮血に変わってしまうのである。なかなかに奇抜な演出で、面白かった。終演後はもちろんスタンディング・オベーション。すべての音楽ファンが慕い、その音楽を熱望する小澤の、その健在ぶりが本当に嬉しいのだ。これは京都公演のカーテンコール。