ファビオ・ルイージ指揮 NHK 交響楽団 (ピアノ : ベアトリーチェ・ラナ) 2017年 4月22日 NHK ホール

e0345320_20081861.jpg
イタリアの名指揮者、ファビオ・ルイージ指揮による今月の NHK 交響楽団 (通称「N 響」) の定期演奏会の 2つ目のプログラム。今回の曲目は以下の通り。
 ベートーヴェン : ピアノ協奏曲第 1番ハ長調作品 15 (ピアノ : ベアトリーチェ・ラナ)
 ブラームス : 交響曲第 4番ホ短調作品 98

なるほど、今回は王道のドイツ音楽一本で勝負するルイージである。但し、4月16日にご紹介した前回のルイージと N 響の演奏会も、実はすべての演目がドイツ・オーストリアの曲目であったのである。なるほどなるほど。今回彼が採り上げた 2つのプログラムは、すべてドイツ・オーストリア系。これまでのキャリアでドイツ語圏のシュターツカペレ・ドレスデンやウィーン交響楽団を率いてきたルイージと、元来ドイツ物をバリバリ弾くという持ち味で勝負して来た N 響。これは面白いことになりそうだ。

まず 1曲目、ベートーヴェンの 1番のピアノ・コンチェルトを弾いたのは、イタリアの若手女流、弱冠 24歳のベアトリーチェ・ラナ。N 響には初登場だ。
e0345320_22403332.jpg
日本のオケには様々なソリストが登場して、大家もいれば中堅もおり、若手もいる。このような機会に新たな演奏家と出会うことは、コンサート愛好者の特権なのである。さしずめ今回のラナなどは、そのような特権を感じさせてくれる素晴らしいピアニストであったと言えると思う。彼女の経歴を見てみると、2011年、18歳でモントリオール国際コンクールで優勝、2013年にはヴァン・クライバーン国際コンクールで 2位ということで、これはこれで素晴らしいのだが、どのようなピアニストであるのかは、実際に聴いてみないと分からない。そして、実際に聴いてみて分かったことには、非常にクリアな音で鍵盤を駆け抜ける素晴らしいピアニストだということだったのである。このベートーヴェンのコンチェルトは、本当に溌剌とした元気の出る曲であり、それをこのように演奏してもらえれば、聴き手としてはまず第一に、曲の素晴らしさを感じることができるわけで、それこそが音楽の醍醐味なのだと思う。第 2楽章で彼女のピアノは、まるでバッハを弾くかのような透明感をもって、感傷的になることなく、だが大変に美しくて平穏な世界を紡ぎ出した。この楽章の終盤に出てくるクラリネットとの絡みも実に見事で、本当にいい音楽なのだと実感したのである。いつも私がこのブログで主張していることは、演奏家が若いか年寄りかは、音楽を聴く上では重要な要素ではなく、それぞれの演奏家はそれぞれのキャリアがあるのであって、若い時にピークを迎える人もいれば、老年に至って真価を発揮する人もいる。さらに言えば、何をもってその演奏家のキャリアのピークであるかは、誰にも分からないのである。その意味で今回のラナは、今の彼女の持てる力を巧まずして発揮することで、ベートーヴェンの若書きの音楽の素晴らしさを表現したと言えると思うし、彼女の音楽がまた今後変わって行くことがあるにせよ、今の彼女の音楽は充分に魅力的だということだ。そして彼女が演奏したアンコールは、ドビュッシーの「ピアノのために」の第 1曲。うーん、ベートーヴェンの後にドビュッシーを弾ける感性は素晴らしいと思うし、実際、常に輝きを保ちながら鍵盤を縦横に駆け巡った彼女には、聴衆が聴き惚れるものがあった。因みに、以前誰かが書いていたが、ドビュッシーは「ピアノのために」という曲をフォルテで始めているのである (笑)。ラナの溌剌とした演奏を聴くと、そんなこともどうでもよくなって来るのである。

そして後半、天下の名曲ブラームス 4番。これは事前の予想通り、ルイージらしいタメの効いた演奏。冒頭の滴り落ちるような音型は、うぅーんっとカーブを描いて絞り出されたが、そこはさすが N 響。ルイージの要求によく応え、音楽的情景の移り変わりを実に充実した音で描き出していた。弦楽器が重層的で深い音色を出していたのは当然で、また木管奏者のそれぞれが、実によい音で鳴っていたのである。だがルイージの音楽は、昔のドイツの巨匠のような重い音にはならず、第 2楽章で深々と歌う箇所でも、推進力のあるキレのよい音で一貫していた。終楽章ではオーボエが入りを間違えるハプニングもあったものの、その後見事に挽回。寂しげなフルートも実に表情豊かで、終演後に指揮者が真っ先に立たせたのも納得できよう。なるほどこれが、イタリアの魂を持ったドイツ音楽なのである。美しくも爆発力のある音楽は、まさにルイージの明確な個性であると思う。ルイージと N 響には今後も長い共同作業を続けてもらい、日本において新時代のクラシック音楽の水準を打ち立ててもらいたい。先頃発表された N 響の来シーズン (今年 9月から) の定期演奏会の指揮者陣にはルイージの名前はないが、またその次のシーズンを心待ちにしている。この写真は、上に掲げた今回のプログラムで使われたルイージの写真。眠そうに見えないこともないが、大丈夫。ひとたび指揮を始めると、マジカルな手腕が発揮されるのである (笑)。
e0345320_23181258.jpg

by yokohama7474 | 2017-04-22 23:22 | 音楽 (Live) | Comments(2)
Commented by usomototsuta at 2017-06-12 22:08
昨日例によって「クラシック音楽館」にてこの演奏会を見ました。7月9日(日)、私の住む大分市にて九州交響楽団の演奏会でブラームスの4番を聴きます。それへの気分を盛り上げることができました。指揮はセバスティアン・ヴァイグレという初めての指揮者です。他プログラムはワーグナーのタンホイザー、トリスタンとイゾルデ、リエンツィです。我が大分でプロのオケを聴く機会は毎年来てくれる日本フィルの他には3~4年に一度のN響と今回の九響。そして5~6年に一度来るでしょうか海外オケというのが現実。日本フィルはありがたいです。ちなみに今年は田園、去年がブラームスの2番、その前が幻想交響曲でした。N響は2年前、メインは悲愴でした。日本フィルが毎年なのだから九響は年に3回くらい来てくれると良いのですが。確か小泉和裕やコンサートマスターに豊嶋泰嗣らを招聘し、以前よりも数段充実していると聞く九響に指折り期待しております
Commented by yokohama7474 at 2017-06-13 01:22
> usomototsutaさん
そうでしたか。確かに日本の場合、オーケストラの東京一極集中という課題はあるものの、地方オケの活動も相当に盛り上がって来ていると思います。ヴァイグレはよい指揮者だと聞いていますし、この曲目はかなりアグレッシブなので、期待できるのではないでしょうか。私は、敬愛する秋山和慶の指揮で九州交響楽団の CD を何枚も聴いていますが、かなりのクオリティではないですか。あと、大分と言えば別府でアルゲリッチ音楽祭も開かれていますよね。逆に東京から聴きに行きたいと思っています。やはりその土地でサポーターがおられることが大事ですよね。その点、東京は大きすぎて一体感がないので、むしろ地方のオケを聴いて回りたいと思う今日この頃です。
<< アラン・ギルバート指揮 東京都... シャセリオー展 国立西洋美術館 >>