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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2017 井上道義指揮 新日本フィル (マリンバ : 安倍圭子) 2017年 5月 4日 東京国際フォーラム ホールC

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2017 井上道義指揮 新日本フィル (マリンバ : 安倍圭子) 2017年 5月 4日 東京国際フォーラム ホールC_e0345320_23381534.png
今年もゴールデン・ウィークの東京に、熱狂の日々がやってきた。3連休の間、文字通り朝から晩まで入れ替わり立ち代わり、世界的な名声を持つ人たちを含む多くの音楽家が登場する大規模な音楽祭、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンである。今年も会場の東京国際フォーラムは大勢の人で賑わっている。沢山の屋台でエスニックや B 級グルメを含む食べ物・飲み物が販売され、コンサートのハシゴを楽しむ人たちの胃袋を満たしている。また、無料コンサートも開かれており、押し合いへし合いだ。例年のことながら、クラシック音楽を聴く人ってこんなに多かったっけ??? という嬉しい悲鳴の上がる大盛況なのである。
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この音楽祭には毎年テーマがあるのだが、今年は「La Danse 舞曲の祭典」というもの。もともとフランス発祥の音楽祭であるので、もともとのテーマはフランス語で設定されているのだが、まあ要するに、ダンスに関係する音楽を集めている。なるほどこれはよい着眼点だ。なぜなら、バロックの世俗音楽はその多くが舞曲だし、近代のオーケストラ曲には沢山のバレエ音楽の名曲がある。実際のプログラムを眺めてみると、リズムのある音楽ならすべてダンス音楽に分類できるだろうというばかりの幅広い曲目が並んでいる。作曲家として見当たらない名前は、そうだなぁ、ウェーベルンとブーレーズくらいかな (笑)。まあそれは冗談としても、毎年のことながら、よくもこれだけの音楽家を揃えてこれだけ多彩なプログラムを組めるものだと感心する。公式プログラムには、3日間で 350公演、2,000人のアーティスト (これはさすがにオーケストラの楽員数もすべて含めての数字であろう) が出演するという。尚この音楽祭、一回のコンサートの演奏時間は約 45分で、途中に休憩がない。それゆえ人々は、コンサートからコンサートへハシゴすることが可能なのである。

そんな中、初日の 5/4 (木・祝)、私が出かけたコンサートは二つ。スケジュールを眺めていると、ピアニストやヴァイオリニストを中心に、本当に一日中聴いてみたい音楽家の名前が並んでいて悩んでしまうが、とりあえず今日はオーケストラコンサート二つに絞ることとした。そのいずれもが井上道義指揮の新日本フィルによるもの。この記事でご紹介するのは、13:45 から行われたコンサート 143 というもので、曲目は以下の通り。
 伊福部昭 : 日本組曲から 盆踊、演伶 (ながし)、佞武多 (ねぶた)
 伊福部昭 : オーケストラとマリンバのためのラウダ・コンチェルタータ (マリンバ : 安倍圭子)

なるほど、日本の土俗的なリズムを使った曲を多く書いた伊福部昭 (1914 - 2006) の音楽は、まさに踊りの音楽の恰好の例である。フランスをはじめ世界各国で開かれているラ・フォル・ジュルネであるが、日本での開催では日本ならではの曲を聴く意義が大きい。また、このブログであまり関連記事を書けていないが、私は伊福部音楽のかなりのファンで、CD もわんさか持っているのである。
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伊福部昭は一部ファンには大変な人気なのであるが、一般にはあまり知られていない名前かもしれない。そういう人には、あの「ゴジラ」の音楽を書いた人だと言えば通じるというのがまあ共通認識ではあろう。伊福部本人は、あまりに「ゴジラ」の作曲家と呼ばれすぎるのを嫌がっていた気配はあるが、もちろんオリジナルの 1954年の「ゴジラ」だけでなく、一連の東宝怪獣映画において彼の音楽はまさに欠かせないものであったし、「大魔神」を含めた昭和の特撮映画において、何か巨大なものがうごめくその迫力は、誤解を恐れずに言ってしまえば、あたかもブルックナーの交響曲のように壮大な響きを持って、今も人々の心を揺さぶるのである。そして、こちらはこのブログでは再三ご紹介してきた、指揮者の井上道義。今の彼の指揮をできる限り聴きたいと私はいつも思っているし、今回のコンサートでの曲目ならなおさらだ。
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演奏前に指揮者の井上 (愛称ミッチー) が舞台に出て来て、「1分半だけ喋ります」とのこと。この人の語りは面白いので、聴衆は大喜びなのだが、いわく、この GWの「みどりの日」(これは以前は 4/29 だったものが、今では 5/4 に変更になっているのですな) に伊福部の音楽を聴くのは大いに意義のあること。今回はほぼ満席で嬉しい。自分は伊福部と生前面識があったが、彼の音楽は日本人の心に深く根差していて、まさに大地の泥を踏みしめた音楽。騎馬民族の西洋人の音楽とは違う。今回演奏する「日本組曲」(注 : オリジナルのピアノ版は 1934年作曲) については、あまりに日本的なので「こんな音楽を書いて恥ずかしい」という声も当時あったが、とんでもない。そもそも日本は、昔は泥だらけ。自分の生まれた成城学園のあたりもそうだったし、このあたり (東京・有楽町界隈) だって、50 - 60 年前だったらまだ泥もあったはず。どうせ人間死んだら泥に返るのだから、是非このような音楽を楽しんでほしい。これがミッチーのメッセージであり、私は席でウンウンと大きくうなずいたのであった。

そして演奏された音楽は実に力に満ちて説得のある、かつクリアな音質のもので、最高の伊福部音楽の演奏であったのではないだろうか。井上の指揮はまさに、自らが踊っているようなもの (笑)。この人はもともとバレエダンサーであったので、昔から身振りが派手ではあったが、最近の彼は、その身振りに合うだけの素晴らしい音が鳴っている点、毎回感服するのである。実は今調べてみて分かったことには、この「日本組曲」の管弦楽編曲版は 1991年に作られていて、それを初演したのが、今回と同じ井上道義と新日本フィルであったのだ!! なるほど、井上はそのような言い方はしなかったものの、このコンビとしてはやはり思い入れの深い曲であったのだ。聴衆には若い人もいたので、我々の世代とは異なる耳で、伊福部音楽を聴いて行って欲しいと思うが、そのためにはこのような演奏に数多く触れて欲しいものだと思う。

さて、2曲目に演奏されたのは、マリンバ奏者として長らく世界でもトップを走り続ける安倍圭子が登場し、彼女の委嘱によって書かれた伊福部の「ラウダ・コンチェルタータ」(1976年) である。ここでも舞台転換の間に井上が出て来て説明することには、安倍より前にマリンバがオケの前で独奏を弾くようなことはなかったが、彼女の功績で沢山のマリンバのための曲が書かれた。弟子の数は既に、5000人や 1万人でない、大変な数だろう。既に 80歳だが、男の 80 よりも女の 80 の方が元気なのだと発言して会場を笑わせた。それから、一度袖に引っ込んでからまた出て来て、ひとつ言い忘れたが、安倍さんは今回アイヌの恰好で出てくるが、これは、北海道出身の伊福部の音楽がアイヌの文化の影響を濃く受けているからだと説明した。もちろん私は安倍の実績を知っているし、以前にもやはりこの曲を井上の指揮をバックに演奏したのを聴いたことがあるが、80歳と聞いてびっくりだ。
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演奏の質の高さについては改めて言うまでもないだろう。時に激しく、時に瞑想的に、安倍のマリンバは縦横無尽だ。若い頃はさらに切れ味があったかもしれないが、依然として技術的には申し分ない上、表現が大変に多彩であると思った。それにしてもマリンバの音の温かいこと。壮大な森林の中に響き渡る木霊の声といった風情である。ここには、日本でこそ味わえる日本の音楽がある。伊福部音楽の懐の深さを改めて実感できる、素晴らしい演奏であった。

これもダンスの一形態。何よりも、聴き終えて満足そうに会場を出る人たちの顔に、通常のコンサートではあまり巡り合うことのない高揚感があった。ラ・フォル・ジュルネ、今年も大盛況なのである。

by yokohama7474 | 2017-05-04 23:47 | 音楽 (Live)