無限の住人 (三池崇史監督)

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最近の邦画には、マンガを原作とするものが多い。だが私は、最近のマンガは全く知らない人間なのである。過去の記事でも何度か触れてきた通り、私自身はそのことを特に恥ずかしいこととは思っておらず、むしろ映画を予備知識なしに楽しむという意味では、原作を知らない方がよい場合もあると思っている。この映画の場合もしかり。三池崇史監督、木村拓哉主演の「無限の住人」。ここには相当に強烈な視覚イメージが横溢している。その凄惨な殺しの場面の数々、異様としか形容できないキャラクターたち。マンガと映画では、そのあたりの感覚は違ってくる面があって当然かと思うが、ここで様々な役を演じているのは日本を代表する俳優たちであり、監督は、独特のハードな映像美で知られる三池崇史。よくも悪くも、ここには今日の日本映画の特色がよく出ていると思うし、総合的に私は、この映画をなかなか面白いと思って見ることとなった。これが監督の三池崇史。
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まずはキムタクから始めようか。このブログでは彼は初登場 (笑) となるが、私は以前から彼はよい役者であると思っている。もちろんこの場合は、テレビドラマではなく、映画においてきっちりと歴史的な役割を果たしうるという意味である。だが、残念ながらと言うべきか否か正直分からないが、彼はこれまで、映画にはそれほど出演していない。香港の世界的映画監督、ウォン・カーウァイの「2046」に出演した頃 (2004年) には、その後素晴らしい出演作が相次ぐかと期待したのであるが、結局そのようにはならず、海外の出演作はそれ以降は皆無だし、日本映画にしても、それほど多くには出ていない。なんと言ってもテレビでの活躍だけで、彼のスケジュールは満杯であったことであろう。それが悪いと決めつける気は毛頭ないが、映画ファンとしてはこの才能がスクリーンにあまり出てこないことは惜しいと思ったことは事実。先ごろ国民的な話題となった SMAP の解散 (申し訳ないが私のようなオッサンには、なぜにそんなに世間が騒ぐのか理解に苦しむ事態であった) を経て、さてこれからはいかなる活動を展開して行くのか。既に今年 45歳になるという年齢であるから、若いときとは違った懐の深さを見せて欲しいものである。
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ここで木村が演じている万次は、百人斬りの異名を取る凄腕の剣士であるが、あるとき八百比丘尼 (やおびくに --- 妖怪ファンにはもちろんおなじみの名前で、人魚の肉を食ったために不老不死となった女性である) から不思議な虫を体内に注入されることで、不死身の体になった男。上のポスターにある「不死身って、死ぬほどめんどくせぇ」とはまさに言い得て妙のフレーズで、いくらからだが傷ついてもすぐに治癒してしまうので、斬られても斬られても、死ぬことはないのである。その彼はあるトラウマを抱えて苦しんでいるのであるが、そんな彼の前に現れたのは、一途に父のかたき討ちを目指す少女、凛。その二人に、善悪が明白でないこともある(あ、一部は見たまんま悪い奴だが 笑)異形のキャラクターたちが入り乱れて絡み合い、くんずほぐれつ物語が展開する。
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凛を演じる杉咲花は、子供のように幼く見えるが、今年 20歳。NHK 朝ドラの「とと姉ちゃん」で高畑充希の末の妹を演じ、また映画では既に「湯を沸かすほどの熱い愛」での宮沢りえの娘役で、様々な賞を受賞している。その勢いが持続しているのであろう、ここでの凛の役は大変な熱演である。そもそもスクリーンで鼻水を垂らすのも厭わずに演技できるのは大変立派であり、それも彼女の女優魂のなせるわざだろう (笑)。但し、ちょっと子供っぽく演じられた凛像を見ると、原作は知らないながらも、もっとほかの演技の選択肢がなかったかなという気は、若干しないでもない。尚、彼女が甲高い声で「万次さん」のことを「卍さん」の発音で呼ぶのが耳についたが、これは原作の設定と何か関係があるのだろうか。
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この映画に出演している俳優たちの名を列挙すると、山崎努、田中泯、市川海老蔵、福士蒼汰、北村一輝、市原隼人、金子賢、満島真之介、山本陽子、栗山千明、戸田恵梨香。そのほとんどが、夢にまで出てきそうな、一度見たら忘れない派手ないでたちで、それぞれの存在感を出している。中でも私にとって印象的であったのは、福士蒼汰である。三池監督の前作「神さまの言うとおり」は、やはりマンガが原作の不思議な味わいの佳作であったが、そこでの福士は、若さの特権のような未熟さがリアルであった。だがこの作品では、いくら大量に人を斬っても汗をかかず息も上がらない爽やかなイメージを保ちつつ、陰のある役を面白く演じている。いや、ここでもさらに違った演技の可能性は感じるものの、これはこれで、この役者の今後に期待を持たせる出来であると思う。
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それにしても、この映画に渦巻く憎悪はいかばかりであろう。目を覆うばかりの殺戮が何度も起き、そこでは善悪の境も定かではなく、誰が敵で誰が味方かも、判然としないことがあるばかりか、時折反転すらすることになる。従って、登場人物たちが何に命を賭けているのかを考えることは、なかなかに複雑な作業になるのである。だが、そんな不安定で暗鬱な設定でありながら、見た印象は陰鬱一辺倒のものではないのだ。そのことについて改めて考えると、主役二人のキャラクター設定が巧みであるからであろうと気づくのである。原作マンガがどうであるかには関係がない、この映画としての特徴がそこには表れていると思う。その立役者である木村は、「死ぬほどめんどくせぇ」という口ぶりが似合うキャラクターとして、得難い実績をここで残したと思うので、今後はまた違う凄みを目指して欲しいものだと思う。それから、是非書いておきたいのは、この映画の冒頭と大詰めで、二度に亘り大規模な殺陣を見せること。ここに私は彼の意気込みを見る。その身のこなしは実に見事なものであり、その点では 20歳ほども若い福士の殺陣よりも、数段上を行っているであろう。そうであれば今後キムタクの負った使命としては、若い俳優たちにその背中を見せ、スクリーンで凄みのある演技を次々と見せて行くことではないか。私は彼にはその才能はあると思うし、これからも大いに期待したいところなのである。

ところで、この映画ではクラシック音楽は使われていないので、音楽に関して私が何か語れる要素はほぼ皆無であるが、面白い発見をひとつ。ここで音楽を担当している Miyavi というアーティスト、実は俳優として映画にも出演している。それは、先般このブログでも称賛を捧げたハリウッド映画「キングコング 髑髏島の巨神」なのである!! 冒頭、米兵と争う日本兵が彼なのだ。このような風貌だが、うーむ、この「無限の住人」のキャラクターとして出て来ても遜色ないインパクトではないか。
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このように、あれこれ留保しながらも、私がこの映画をかなり楽しんだことはお分かり頂けたかと思う。現在邦画は大変な隆盛であるだけに、とにかく質の高いものを見たい。鑑賞する方も、きっちりと映画の質を見極めて行きたいものだ。その意味では、日本のマンガが持っている質の高さに映画が影響されることもあるだろう。日本ならではのストーリーテリングを期待しよう。

by yokohama7474 | 2017-06-07 00:19 | 映画 | Comments(0)
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