パトリオット・デイ (ピーター・バーグ監督 / 原題 : Patriots Day)

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世界各地でテロが起こっている今日、人々にはそのような事態への備えはできているだろうか。日本を歩いていると、あまりそういう感じがしないのであるが、そのことはここ日本が平和である証拠であると思っており、それは感謝しないといけないことなのだろう。そんなことを考えるのは、この映画が、未だ記憶に新しい 2013年のボストン・マラソンでの爆弾テロを扱っているからである。米国の場合、ほんの数年前に起こった事件を映画にすることは普通に行われていて、それはかなり思い切ったことであると思う。というのも、当事者たちがほとんどの場合は生きていて、英雄視するならまだしも、中には人間的な弱さを見せるキャラクターもいるからだ。この映画では、あまり悪い人たちは出てこない (犯人たちの描き方は後で触れよう)。だが、それぞれの立場の違いというものはどうしようもなく存在し、鑑賞者の中には、何人かのキャラクターに対して反感を抱く場合もありえよう。このような思い切った描き方は本当に米国ならではと思うのである。この映画においてテロ犯人に立ち向かった勇気ある人々はこんな感じ。
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主役及び製作は、今やハリウッドを代表する俳優のひとりであるマーク・ウォールバーグである。「トランスフォーマー」シリーズや「テッド」で見られるように、決して完全無欠のヒーローという役柄を演じてきたわけではなく、どこか人間的な弱さのある、だがいざというときには頼りになる、そんな役柄がメインであり、この映画もその例に漏れない。彼がここで演じているのはボストン警察巡査部長であるが、決して優等的な警官ではない上、別の事件の捜査過程で膝を痛めているのだが、その痛みを押して「パトリオット・デイ」(「愛国者の日」という意味)、つまり 4月の第 3月曜日に行われるボストン・マラソンの警備に当たる。以下が映画における爆発シーン及び本物の爆発シーン。映画が非常にリアルに作られていることが分かるのだが、後述の通り、このリアリティがこの映画の生命線であるのだ。
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そうなのだ。この映画で描かれるドラマは、ほとんどドキュメンタリーに近いと言ってもよい。そのリアリティゆえ、平和な日本に住んでいる我々には、まさに脳天をガツンとやられるほどの衝撃だ。というのも、映画はこのテロ事件に巻き込まれる、それぞれに全く無関係の人たちの前日からの様子を描いているからで、それはつまり、本人たちがあずかり知らない運命という奴が無慈悲に人間世界を翻弄する様子であるからだ。爆弾のすぐ近くにいることになる若いカップル、犯人たちに乗っ取られた車に同乗することになる中国人留学生、銃を求めた犯人に殺される未だ若い警官、逃亡した犯人が潜伏することになる田舎町のベテラン刑事、そして、犯人たちとその家族の生活すら、克明に描かれる。もちろん犯人たちは悪人であるというトーンではあるものの、彼らの犯行の動機については詳しく描かれておらず、狂信的なイスラム教徒というよりは、現実世界に埋もれることが嫌で、何か目立つことをしてやろうという未熟な若者たちというように見える。つまり犯人たちも人間であるということであり、そのような描き方は、この映画のひとつの見識であると思う。この世界においては、何かが絶対的に悪いという評価になることはむしろ稀であり、多様な価値観の混在こそが、クラクラするような現代社会の病巣でもあるという、極めて深刻な事態を見る者に突きつけるのである。これは映画の中でテロリスト兄弟を演じる役者たちであるが、かわいそうなことに、プログラムを見てもその名前は出ていない。二人とも、かなりの熱演であると思うのだが。
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このような仮借ないリアリティを映画にもたらしたひとつの要因はもちろん、役者たちの貢献であると思う。見よ、この豪華出演人。まず、FBI 特別捜査官を演じるケヴィン・ベーコン。そして、ボストン警察警視総監を演じるジョン・グッドマン。さらには、ウォータータウン署巡査部長を演じる J・K・シモンズ。いずれの役者も最高の出来である。
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この手の映画の最後には、劇中の人物の本物が出てきて語ることが多いが、この映画の場合も、事件がほんの 4年前ということで、主要登場人物全員がその姿を見せる。それがいちいち映画でその役を演じている役者とそっくりであることは驚くばかり。以下、左が本人、右が役者。
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このような徹底したリアリティによって凄まじい迫力で明らかになるのは、人間というものは危機に瀕したときには素晴らしい団結力と行動力が生まれるということ。吐き気を催すようなテロに対して、人間世界はまだまだ捨てたものでない強さを持っている。そのようなことを信じることができるこの映画を、平和に恵まれた我々日本人は心して見なくてはいけないと思うのである。この作品の監督ピーター・バーグは、その単純な名前にもかかわらず (笑)、様々に複雑な人生のひだを余すところなく描いていて素晴らしい。マーク・ウォールバーグとは既に「ローンサバイバー」「バーニング・オーシャン」でコラボしている。これがウォールバーグとバーグのツー・ショット。
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このようなリアルなテロの恐怖を味わうことは、やはり意味のあることだと思う。米国のすべてがよいとは全く思わないが、尊敬すべきところは尊敬したい。この映画の米国公開時のポスターに、彼らの強さを感じることができるのである。
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by yokohama7474 | 2017-07-10 00:16 | 映画 | Comments(0)
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