キング・アーサー (ガイ・リッチー監督 / 原題 : King Arthur : Legend of the Sword)

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このブログで映画を採り上げる際には、つまり私が劇場で映画を見る際には、いくつかの見たいと思うポイントがあって、その中でも最大の要素は監督であるということは、ここで映画関連の記事を読んで頂いている方にはご理解頂けよう。例えばこの作品は、監督がガイ・リッチーであるがゆえに、私にとっては必見の作品であったわけである。この監督の作品としては、2015年12月 2日の記事で「コードネーム U.N.C.L.E.」を採り上げ、その際に私のこの監督への敬意を明確に表しておいたのであるが、今自分で読み返してみて、ちょっと興味深い表現を発見した。それは、その映画の入りがよくないことに触れた後の、「この監督の次回作、大丈夫だろうか・・・」というくだり。いや、大丈夫。ガイ・リッチーは無事、この新作を撮って世に問うた。だが。だがである。封切から 3週間くらいでほとんどの劇場からこの作品は姿を消し、現在でも上映しているのは、東京の丸の内ピカデリーと、それから長野の長野千石劇場というところの、全国でもたったの 2ヶ所だけなのである!! ネット上の評価を見てみても、そこそこ誉めているものもあれば、手抜きだの、ストーリーに必然性がないの、本当のアーサー王伝説とは違うのと、手厳しいものも多い。もちろん映画は見る人によって様々な見方があってしかるべきだし、それが映画の面白いところだから、私は他人様の評価をとやかく言う気はない。だが、もし映画を文化的文脈に沿って作家主義の立場で語るなら、ガイ・リッチーこそは現代における代表的な監督と位置づけ、何はともあれ劇場にかけつけるべきであろう。なので私は、どんな映画館か全く知らない長野千石劇場さんの英断を支持するし、東京の方には丸の内ピカデリーに駆けつけて欲しいのと同様、長野及び中部地方の方には、この作品が上映されているうちに千石劇場に駆けつけて欲しいと言わせて頂こう。

さてこの映画についての基本を確認しておきたい。題名の通り、イングランドの伝説であるアーサー王の物語。この伝説はもちろん広く人口に膾炙したものであり、これまでにも様々なイメージが創造されてきた。映画においては、「エクスカリバー」や、クライヴ・オーウェンとキーラ・ナイトレイ共演の 2004年の「キング・アーサー」という作品があったし (あ、もちろん、「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」もありました)、音楽においてはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」や「パルシファル」がこの伝説と関連している。英国には実際、アーサー王とその妃グイネヴィアの遺骨が掘り出されたとも言われるグランストンベリや、アーサー王生誕の地とも伝わるティンタジェル城など、興味深い場所があれこれある。そのイメージは常になにやら神秘的なのであるが、その一方で、魔術との関係や、円卓の騎士のひとりランスロットとグイネヴィアとの恋愛関係など、アーサー王関連のイメージの神秘性は、輝かしさ一辺倒の英雄の姿でない点にもあると思う。だからまず、アーサー王の人物像とはもともと複雑であるという前提で、物事を考え始めよう。因みにこれが、ほかのサイトからお借りしてきた、コーンウォール半島 (ワーグナー好きにはおなじみですね!!) のティンタジェル城の写真。我が家もロンドンから犬を連れてドライブでこの地を訪れたことを懐かしく思い出すが、なんとも荒涼とした場所であった。なんでも昨年、この地域で 5~ 7世紀のものと見られる遺跡が新たに発見されたとかで、アーサー王伝説もあながち非現実的な話ではないと、専門家もコメントしているという。
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実はこのガイ・リッチーのアーサー王シリーズは全 6作の予定で、今回が第 1作。監督のみならず、製作・脚本もリッチー本人が担当している。ということは、彼としてもこの作品に相当な思い入れがあるに違いないし、今回興行成績がコケてしまうと、この先の製作に暗雲が垂れ込めるかもしれないという由々しき事態に陥る恐れがある。これは、マドンナと結婚していた頃のガイ・リッチー。
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では映画について語ろう。私の見るところ、確かにこれは、誰もが絶賛を惜しまない傑作とは言えないと思う。また、新たなアーサー王像を作ろうという意欲が空回りしている部分も、あるかもしれない。だが、素直に見て、ここにはあの長編デビュー先「ロック、ストック & トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998年) から変わりない彼の冴えた映像センスが感じられて、ファンとしては嬉しい限り。もっとも、デビュー時期に比べると CG も当然格段に進化しているし、それをふんだんに使えるだけの予算を取れる監督になっているという事情もあろう。だがこの 360度回転カメラのシーンで、吹っ飛ぶ敵たち、舞い上がる小石、輝く刀身というイメージが時に速く時に遅く、ときにストップモーションとなって目まぐるしく動くのを見るのは、素直に楽しい。最新のオモチャで遊んでいるという印象もあるが、それこそガイ・リッチー。そうして彼の描き出す、まさに「スラムのガキから王になる人物」の成長ぶりは、やはり只者ではない。聖剣エクスカリバーを抜くシーンも遊び心いっぱいで、私はよいと思いましたよ。
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後で知ったことには、このシーンで悪役を演じているのは、あのベッカムなのだ。大根役者と酷評されているようだが、でもこのルックスは悪役でもイケると思う。
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もしこの映画で人々の共感を得られない点があるとすると、話の流れが分かりにくいことと、それから、ナポレオンへの言及などに見られる不可解な時代設定だ。前者の点は確かに致し方ないかもしれない。登場人物が多く、敵なのか味方なのか分からない人もいるし、なぜここでこの人がアーサーを助けるか、という点で納得いかないことも起こるからだ。だが、その一方で、アーサーが度々見る父の映像や、そこに佇む異形の者の姿は極めてイメージをつかむことが容易であり、物語は何かというとそこに返って行くので、細部に惑わされることなくアーサーの言動を中心に見て行くべきではないだろか。その一方、時代錯誤的なセリフについては謎なのだが、ネット上での評価の中に、これは 19世紀の英国に舞台を変えているというのだという解釈があって面白かった。後半に出てくる政府による娼婦の暗殺は、切り裂きジャック事件だというのだ。なるほど、その解釈もありかもしれない (私は切り裂きジャックには随分と興味があり、何冊も本を読んでいるばかりか、真犯人ではないかと言われる画家ウォルター・シッカートの画集まで、しっかーりと持っている)。だが、視覚的にはどう見ても舞台の設定は 19世紀ではなく、中世以前である。なのでこの時代錯誤にもあまり囚われることなく、部分的な設定にリッチーの遊び心が発揮されている例であると私は思いたい。

どうやらひいきの引き倒しの感も否めないが (笑)、私としてはこの小ネタ満載の映画を大変楽しんだということである。大規模な作品においてこれだけ自己のテイストを明確に盛り込む手腕を持つ監督が、現在何人いるだろうかと思うのである。また、上記のベッカムはさておき (笑)、主要な役を演じたのは素晴らしい役者たちである点は特筆できよう。まず主役のチャーリー・ハナム。ハリウッド製の怪獣 vs ロボット映画「パシフィック・リム」の主演であったとのことだが、はて、全く覚えていない。だがここでの役は、まさにスラム街に育った、どこの誰とも知れない男 (決して若者といえる年ではない) が、実は前王の息子であったという設定なので、あまりメジャーな役者でない方がよいし、その一方で、高い身体能力及び、陰のある英雄を演じられる演技力が必要。その意味では適役だったと思うし、身体性に富んだ凄みのある演技を見ることができる。
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それから、亡き父、前王を演じるエリック・バナが素晴らしい。昔ハルクを演じていた若者が、今や悲劇の王を堂々と演じているのは感慨深い。
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それから私が注目したのは、魔術師マーリンの部下として、様々な魔術を操るメイジを演じるアストリッド・ベルジュ=フリスベだ。スペイン人の父とフランス系アメリカ人の母を持つため、スペイン語やフランス語にも堪能とのこと。この不思議な役を演じるには適材適所だと思った。だが、ちょっとネットで調べてみると、この役がこのシリーズで今後重要になっていくらしいことが判明する。彼女の今後の変貌やいかに。
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あと、敵の王役にはおなじみのジュード・ロウ (というファミリーネームの表記が日本では定着しているが、綴りは "Law" なので、正しい表記は「ロー」だろう)。もちろん熱演であるとは思うものの、正直なところ、この役者はこれまでのキャリアの中で、その豊かな才能に見合うだけの重要な役柄を、未だほとんど演じていないように思う。この程度の悪役では、満足したとは言いたくないのが素直な感想である。今後の作品に期待したい。
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とまあ、私としても手放しで絶賛する傑作とは思わないものの、しつこい繰り返しで恐縮ながら、ガイ・リッチーの映画としてその捻りを楽しみたいという観客にとっては、見応えはかなりあるものだと思う。願わくば、予定されている 6作が無事すべて映画化されますように!! 遠い日本の地における長野千石劇場の英断に、作り手たちも是非報いて欲しいものである。

by yokohama7474 | 2017-07-25 23:49 | 映画 | Comments(2)
Commented by dd907 at 2017-07-27 00:43
しっかーり読んでいます。アーサー王は誰だったのか調べた事がありますが、漠然としていてよく分かりません。最近ではローマ軍の隊長(名前は忘れましたが)だったという説もあるようです。ウェールズ人だとか色々言われていますが。パルジファルのクンドリはグィネヴィアがモデルではないかと思っています。コーンウォールで遺跡が見つかったのですか?「トリスタンとイゾルデ」という映画があり、去年見ました。ワーグナーかと思ったら、中世の騎士物語でしたので、この話をヒントにオペラを作ったのですね。
Commented by yokohama7474 at 2017-07-28 01:07
> dd907さん
寒いギャグに反応頂いてありがとうございます。アーサー王に関する伝説は、本文にも書いた通り、どうもすっきりしません。このあたり、いろんな点でどうもすっきりしないことが多い英国の人々のメンタリティのルーツではないかと思ったりもします (笑)。なので、今回の映画のようなスタイリッシュな作りは、その「すっきりしない」点に新たな光を当てるのではないかと思っています。その点、伝説をもとにオペラを書いたワーグナーの方は、ストーリー自体は単純化していますよね。
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