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パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊 (ヨアヒム・ローニング/エスペン・サンドベリ監督 / 原題 : Pirates of Caribbean : Dead Men Tell No Tales)

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「パイレーツ・オブ・カリビアン」は言うまでもなく、現代ハリウッドを代表する人気シリーズ。もともとディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」からの映画化という珍しいパターンで、アメリカンコミックや過去のキャラクターを活用していることが多いほかのシリーズとは一線を画している。2003年に第 1作が公開され、今回が 5作目となるわけだが、実のところ私はこのシリーズは、最初の作品「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」しか見ていないことに気がついた。なので今回はこの最新作を見に行くことにしたのであるが、正直なところこのシリーズでは、深い意味での人間の生きる意味とか、身を引き裂かれるような強い感動というものはあまり期待できないし、する方が無理というものなので (笑)、まあ半ば義務感であった点は否めない。こんなことを言うと、このシリーズのファンに怒られてしまうかもしれないが、それが偽らざる私のこの映画に対する姿勢であったのだ。

とは言うものの、主演のジョニー・デップは私としても大変にお気に入りの俳優であって、彼の数々のコスプレはいつも楽しいのであるが、ふとここで冷静に考えてみると、彼が普通の恰好で熱演を披露するという映画を見た記憶があるだろうか? ここでも実に楽しそうに当たり役ジャック・スパロウを演じていて、私にとってはその点こそこの映画の第一の価値である。
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彼がこのジャック・スパロウ役について語る言葉がプログラムに掲載されているので、一部引用しよう。

QUOTE
彼は不遜な奴だけど、それは無邪気さから生まれるもの。つまり、ジャックには純粋さがあるんじゃないかと思う。思ったことをそのまま口にしてしまい、その後で言ったことに対処しようとするようなところがあるね。おそらく彼は、頭の中がゴチャゴチャだから、言ってから 5.5秒後に自分が何を言ったか気づいているんだよ。観客は、この男は何でもなんとか乗り切ってしまう奴だぞ、と思っているんだろうけど、誰だって物事をうまく乗り切る様子を見るのは好きなはずさ。
UNQUOTE

面白いことを言うものだ。そもそも「5.5秒」の根拠は一体どこにあるのだろう (笑)。だがこのとぼけ方がいかにもジョニー・デップらしい。名実ともに今日のハリウッドを代表する俳優でありながら、このとぼけっぷり。まさにジャック・スパロウよろしく、観客に支持されるゆえんであろう。ちなみにこの映画の予告編では、かなりのサービス精神で、本編における重要なシーンの映像があれこれ流れているが、そのひとつが若き日のジャック・スパロウだ。こんな感じで、雰囲気あるではないか。演じている俳優の紹介はプログラムに見当たらないが、まさかジョニー・デップ本人の顔の CG 加工ではあるまいな。エンド・タイトルでは "Young Jack Sparrow" という役名があったような気もするが、定かではない。
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だが、予告編にない驚きのシーンももちろんあって、ひとつは、冒頭の銀行の金庫をジャックらが強奪するシーン。いや正確に言うと、雰囲気は予告編にも出ているのだが、これだけ大掛かりにやられるとは予想していなかった。ある意味で、無声映画時代のスラップスティック・コメディのようでもある。それから視覚的に瞠目すべき映像は、クライマックス、ポセイドンの槍 (作中では "Trident" と言っている。これは三又の槍のこと) を巡る攻防シーンに出て来る。詳細の記述は避けるが、海があのようになり、人や船が水にあのように翻弄され、そして海中のはずなのに断崖絶壁での絶体絶命のシーンが現れるとは、まさに意想外。それから全編を通して、敵である「海の死神」サラザールとその手下たちの動きの不気味なこと。呪いをかけられ、死してなおジャックに恨みを抱き続ける彼らは、髪はまるで海の中で漂うように空中を揺らめき、人によっては顔が半分ない。こんな奴らに襲われたら本当に怖いに違いない (笑)。
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もちろん随所に最新の CG を駆使しているわけだが、まあその技術の高度なこと。さすがに人気シリーズだけある。と、このように映像を誉めておいてから言ってしまうのも若干気が引けるが、映画として抜群に面白いかと訊かれれば、正直なところ、そうとも思えない。ストーリーにはそれほど意外性があるわけではなく、気の強いヒロインも最近のお決まりだし、親子の情を描く作品も、ほかに枚挙にいとまがない。また、何かあるひとつのモノ (この場合はポセイドンの槍) だけがすべての鍵を握っているという設定も、ひねりがない。だから私はこの映画を絶対にお薦めと申し上げるつもりはない。やはり、このシリーズが好きな人や、あるいはジョニー・デップのファン以外にとっては、もうひとつインパクトのない作品にとどまっているのではないだろうか。

その一方で、ジョニー・デップ以外にもユニークな役者が出ている点は評価すべきだろう。シリーズの常連である英国の名優ジェフリー・ラッシュも、当然よい味を出しているし、サラザール役のスペイン人、ハビエル・バルデムも怪演である。この人は「ノーカントリー」でアカデミー助演男優賞を受賞しているほか、最近では「007 スカイフォール」でこんな憎い敵を演じていたことが記憶に新しい。もともと悪役だけ演じていたわけではないのでしょうがね (笑)。
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ヒロインを演じるカヤ・スコデラリオは、どこかで見た顔だと思ったら、私がこのブログで絶賛した「メイズランナー」シリーズのヒロイン役であった。キャリアを見ると、その前にも「月に囚われた男」や「タイタンの戦い」などに出ていたようだが、全く覚えていない。未だ 25歳という若さなので、まだまだこれから活躍することであろう。
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それから、ジャックの叔父役で意外なビッグスターが特別出演している。この人である。
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なんと、ポール・マッカートニーである。登場シーンはごくわずかだが、どう見てもこれは喜んでやっている。なんでもジョニー・デップ本人がダメモトでお願いしたら、面白そうだと言って乗ってきたらしい。実際の撮影現場でも、ジョニーが少しリハーサルと違ったことをやると、ポールの方もそれに反応して違うことをやったりと、創造性あふれる現場であったらしい。なお、ポールが劇中で口ずさんでいるのは「マギー・メイ」というリヴァプールの民謡で、ビートルズもアルバム「レット・イット・ビー」の中で歌っているらしい。今度聴いてみよう。また、役者としては、最初の 3作に出演していて、今回 10年ぶりに出演している人たちがいる。
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もちろん、劇中で夫婦を演じるオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイである。だが、彼らの出演シーンは極めて限定的で、上に見る通り、オーランド・ブルームは既に死して海中で呪いをかけられている身であるため、フジツボつきの姿で最初は登場するし (笑)、一方のキーラ・ナイトレイは最後の方にだけ出て来るが、こちらはセリフなしである。ちょっと残念な気がしないでもない。

このように、映像や役者の点で、興味を惹く点がいろいろありながら、作品の充実度という点ではもうひとつという印象なのである。とまとめようとして、監督について一言も触れていないことに気がついた。なじみのない 2人の名前が監督としてクレジットされているが、この 2人はノルウェイ人で、小さな街で育った幼馴染であるらしい。本作が長編 4作目であるが、第 1作はリュック・ベッソン脚本、ペネロペ・クロスとサルマ・ハエック共演のコメディ・ウェスタン「バンディダス」、第 2作は実在したノルウェイ人のレジスタンス活動を描いた「ナチスが最も恐れた男」で、この 2本は日本未公開。第 3作目は、筏で太平洋横断に成功した冒険家ヘイエルダールを描いた「コン・ティキ」であるらしい。なるほど、全く違ったタイプの作品を作ってきた 2人であるが、ここでは海洋ドラマ「コン・ティキ」での実績を買っての起用であったのか??? ともあれ、このような大作の監督に起用されることで、また次へのステップとなるだろう。この作品の場合にはやはり、制作過程でジョニー・デップの強い発言力があったものと思われるが、そのジョニー・デップと監督たちの仲よさそうな写真もある。
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そうそう、本作は邦題が「最後の海賊」とあって、シリーズ最終作かと思わせるが、どうやらそういうことではないようだ。実は原題は "Dead Men Tell No Tales" で、日本語ではちょうど「死人に口なし」となるのだろうか、劇中で敵役であるサラザールが口にする言葉である。まあ、邦題が「パイレーツ・オブ・カリビアン 死人に口なし」ではやっぱりちょっと変なので、直訳でないことも理由があるとは思いつつ、もうちょっとよい題はなかったのかなぁ・・・と思う次第。

by yokohama7474 | 2017-08-15 18:25 | 映画