KUBO / クボ 二本の弦の秘密 (トラヴィス・ナイト監督 / 原題 : KUBO and the Two Strings)

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このブログではこれまでアニメ映画を採り上げたことがあっただろうか。どうも今すぐには思い出せない。なので、きっとこの映画が初めてか、あるいはほんの数本目ということになろう。私はアニメ映画だからといって何か思い入れがあったり、あるいは逆に軽んじたりすることは全くなく、ただ面白そうなら見たいという、それだけの動機で見る映画を選ぶ人間だ。この映画の場合、予告編を見たときから CG 臭があまりなく、何やら手作り感満載という印象であったし、何より、そう、ただ面白そうだったので、見に行くことにしたのである。そして知ったことには、これはパペットと小型セットを使ったいわゆるストップモーション・アニメ、つまり、一コマずつ撮影してその連続によって動きを作るという昔ながらの手法による映画なのである。エンドタイトルで少しメイキングが見られるが、職人たちの究極の手作業によって作られたことがよく分かる。プログラムの解説によると、制作には 94週 (つまりほぼ 2年間だ) を要しており、1週間で制作されるシーンの長さは平均 3.31秒 (トホホ)、総作業時間は 115万時間近く、主人公クボの表情の数 4,800万通り、等々の途方もない数字が並んでいる。これは、ストップモーション・アニメ史上最大の人形 (4.9m) と、最小の折り紙による人形。
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上記に見えるイメージと、クボという主人公の名前からも明らかな通り、この物語は古い時代の日本を舞台にしている。だがこれは米国映画であり、セリフもすべて英語 (もちろん日本公開に当たっては日本語吹き替え版もあったが、私はポリシーとして原語主義なので、日本語版を見ることはない)。なので、日本人から見れば、海外で見かけるようなナンチャッテ日本料理店のようなキッチュな雰囲気がないでもないが、細部に至るまで非常に凝った作りで日本を再現していることは、すぐ分かる。なんでも監督 (この映画を制作したライカという会社の社長であるトラヴィス・ナイト) は幼い頃から何度も日本を訪れており、日本の芸術・文化を深く愛している人であるらしい。特にここでは、黒澤明と宮崎駿へのオマージュが捧げられており、制作にあたっては日本人アーティストに何度もアドバイスを求めたという。監督のトラヴィス・ライトは 1973年生まれで、これが長編アニメ監督デビュー作となる。
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さてこの映画、すべての人が必見とまで言うつもりはないが、その丁寧な作りによる映像を追いながら、大変に楽しめる出来になっているので、ファンタジーが好きな人にはお薦めしたいと思う。ストーリーは簡単で、主人公のクボという少年が、追っ手に追われて三つの武具を探す旅に出るというもの。彼には不思議な力があって、折り紙に三味線の音色で命を吹き込むことができるのだ。
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この折り紙というものは、外国人から見ると東洋的な魔法のように見えるらしい。私が今読んでいる (そのうちこのブログでも採り上げるであろう) 中国系米国人ケン・リュウの短編集「紙の動物園」でも、そのような感覚の作品があるが、この映画のように見事な映像で見せられると、折り紙は本当に魔術であるかのように思われてくるのである。命ないものに命を吹き込むのがストップモーション・アニメであれば、それはまさしく魔法であり、そもそも映画とは、起源においてそのような魔法の一種であるのだという思いを新たにする。この映画に登場するキャラクターは、主人公クボをはじめとして、一応かわいいと思われる面もありながら、どこかでユーモラスであったりグロテスクであったりして、一度見たら忘れないものである。ただ、サルはともかくクワガタは、ちょっと日本風からは離れた造形かなぁ。まあ米国の作品だから仕方ないのだが、ミスター・インクレディブル風である。
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上でメイキング風景を見た巨大ドクロは、本編ではこんな感じで、そのぎこちない動きが、返って迫力を作り出していた。
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もちろんこの巨大ドクロのイメージの源泉は、この浮世絵であろう。歌川国芳の「相馬の古内裏」。私の手元にも、かつて国芳展で購入したこの絵の「紙のジオラマ組立キット」があるが、未だ組み立てていない (笑)。
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それから、水中に巨大な目玉が揺れるこのような不気味なシーンもある。
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これはもちろん、ルドンがヒントだろう。
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私が気に入ったキャラクターは、この敵役である。2人の女性がコンビで出てくるのだが、強い妖術の使い手で、現世の存在なのかあの世から来るのか分からず、その能面のような無表情な、それでいて笑っているような仮面が不気味。
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これに似たイメージを探すと、ヴェネツィアのカーニバルもさることながら、さしづめこれになるだろうか。
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私も子供の頃むさぼるように読みましたよ。エログロに満ちた乱歩文学の本質は、子供にはとても分からないということに後年気づいたものであるが (笑)、でもやはり少年期にポプラ社の少年探偵シリーズを読んでいればこそ、長じてから大正モダニズムの雰囲気にも、すっと入って行けたと思うのである。ともあれ、映画に出てくる映像にどんな既知のイメージを重ねるかは人それぞれであろうから、このようなイメージの連鎖は、この映画の本質とは必ずしも関係がない。だがそれでも、文化の作り手が何かほかの文化から刺激を受けることで、鑑賞者が得ることができるイメージはどんどん豊かになるもの。ここではあえて黒澤も宮崎も関係ないイメージだけを並べてみたが、それでもこうして脈絡なく並べてみることで、何か面白い発想が浮かんできはしないか。ここでのイメージに共通するのは、「恐怖との対峙」ということだろう。そして恐怖とは、他者からの攻撃もあれば、ルドンのモノクロ版画のように、自らの中に潜む感情であることもある。物言わぬパペットたちが、それぞれに恐怖と対峙し、それを克服することで成長して行く姿に、人は感情移入するのである。やはり魔術的ではないか。

それからここでは、何人ものハリウッドの名優たちが声の出演をしている。例えばサルはシャリーズ・セロン、クワガタはマシュー・マコノヒー、月の帝はレイフ・ファインズといった具合だ。彼らの声の演技はさすがだと思う。クボ役のアート・パーキンソンは 2001年アイルランド生まれで、「ゲーム・オブ・スローンズ」というテレビシリーズの子役で有名になったらしい。
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この映画は米国でも結構ヒットし、昨年のアカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされたらしいが、彼らから見ると、日本の風景やキャラクターがエキゾチックという点もあるにせよ、CG 流行りの今日、このような手作りのストップモーション・アニメに何やらほっとするという要素もあるのかもしれない。トラヴィス・ナイト率いるスタジオライカ、次回作を楽しみにしましょう。

by yokohama7474 | 2018-01-16 00:27 | 映画 | Comments(0)  

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