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ユーリ・テミルカーノフ指揮 読売日本交響楽団 (ピアノ : ニコライ・ルガンスキー) 2018年 2月11日 東京芸術劇場

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読売日本交響楽団 (通称「読響」) の指揮台に、名誉指揮者であるロシアの巨匠、ユーリ・テミルカーノフが帰ってきた。これは 2年半ぶりのこと。以前も何度か書いた通り、私はこの指揮者の大ファンなのであるが、なんと彼は、今年 80歳になる。この年でも日本で指揮活動を繰り広げてくれることは本当に有難いことだ。今回彼は読響と、3つのプログラムで 7回の演奏を行う。今回はそのうちの最初のプログラムで、以下のような堂々たるロシア物である。
 チャイコフスキー : ピアノ協奏曲第 1番変ロ長調作品23 (ピアノ : ニコライ・ルガンスキー)
 ラフマニノフ : 交響曲第 2番ホ短調作品 27
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そして、今回のマエストロ・テミルカーノフの 3種類のプログラムのうち 2つに登場するのは、現代ロシアを代表する名ピアニスト、ニコライ・ルガンスキーである。1994年のチャイコフスキー・コンクールで 1位なしの 2位。今回読響とは初共演になる。
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テミルカーノフとルガンスキーの共演であるから、最初の曲目であるチャイコフスキーが悪かろうはずもない。コントラバス 8本の大型編成のオケをものともしないルガンスキーの強いタッチには、毎度のことながら恐れ入る。それでいてこの人のピアノは不思議なことに、がさつな感じは一切ないのである。長身であるため、弾いている姿にも迫力があり、このチャイコフスキーのコンチェルトにはうってつけだ。タッチの正確さも特筆もので、曲の持ち味を充分に引き出す名演であった。それにしてもこの曲、人生で何度聴いてきたか分からず、もう大概聴き飽きそうなものだが、聴くたびにダイナミックな音の広がりに圧倒されるのである。今回の演奏で初めて気づいたのだが、序奏のあと、跳躍するピアノのバックでオケが演奏する華麗な旋律は、最初は第 1ヴァイオリンとチェロだけが弾いて、第 2ヴァイオリンは沈黙、ヴィオラ (と、コントラバスも?) はピチカートでリズムを刻むだけだ。だが同じ旋律が還ってくるときには、今度は弦楽器全部が堂々たる合奏をなして、全身全霊で旋律を弾くのである。さすが、オケを鳴らすことにかけては古今の作曲家の中でも図抜けた才能を持っていたチャイコフスキーならではの細かい工夫である。また、いつものようにきっちりスコアを見ながら、指揮棒なしに腕全体で指揮をするテミルカーノフは、間違いなく巨匠の技を見せてくれた。そしてルガンスキーはアンコールとして、ラフマニノフの前奏曲ハ短調作品 23の 7の、いかにも情緒溢れる演奏を披露し、音楽的な感興は大いに盛り上がったのである。

さて、後半はロシアの情緒満載のラフマニノフ 2番。この曲はこのところ演奏頻度が高く、今やポピュラー名曲の仲間入りしていると言えるだろうが、テミルカーノフの持ち味にはまさにぴったりの曲目だ。そして今回、我々の前で展開された演奏はまさに期待通りの、むせかえるようなロマンの香り溢れるスケールの大きい感動的なもの。冒頭、何か大きなものが動き出す予感から、それぞれのパートに分かれて多層的に歌う弦楽器の流れを経て、無限の憧れを秘めたような旋律が紡ぎ出される箇所には、実に纏綿たる情緒があって、理屈抜きに心に入ってくる音楽であった。私はいつも思うのであるが、このテミルカーノフの音楽には、このような抒情性が際立っていて、昨今ではなかなかほかに聴くことができない彼の個性に、本当に圧倒されるのである。第 2楽章の小股の切れ上がったリズム感、第 3楽章のとことん歌い抜く情緒、そして終楽章の山あり谷ありの旅路まで、本当に一時も聴き手を飽きさせることのない充実の音楽を聴くという体験は、本当に得難いもの。危うく目頭が熱くなるところであった。

さて、このテミルカーノフは、ロシアのサンクト・ペテルブルク・フィルの音楽監督の地位に、なんと 1988年以来あるのである。あの孤高の巨匠エフゲニ・ムラヴィンスキーの後任で、つまり今年は、マエストロの 80歳の年であるとともに、サンクト・ペテルブルク・フィルの音楽監督 30周年でもあるわけだ。実はこの日、2月10日に発売された 1冊の本がある。それは、「ユーリ・テミルカーノフ モノローグ」という自伝である。
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私は会場で早速この本を購入。未だ読み始めてはいないが、パラパラめくってみたところ、実に興味深い写真が満載だ。そもそも、ロシアという国は様々な要素が実に複雑にできていて、私のビジネス上の経験では、かの国で重要な地位を維持するには、それなりの知恵も人脈も必要であると思う。テミルカーノフのような芸術家が、政治的な動きをどのくらい得意としているのか分からないが、全く政治力ゼロでは、彼ほどの実績を残すことはできないだろう。これは 5年前、マエストロ 75歳の式典での一コマ。
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もちろん、この本の中には、様々な芸術家と一緒に写っているマエストロの写真が沢山あって、若い頃の渋さ (まるでヴァンサン・カッセルのようだ) もなかなかの見ものである。以下、エフゲニ・ムラヴィンスキー、ユージン・オーマンディ、ウラディミール・ホロヴィッツ、そして小澤征爾と。
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それから、今回会場で配られていた速報のチラシにおいて、今年の 11月にテミルカーノフが手兵サンクト・ペテルブルク・フィルと行う来日公演のプログラムが発表されている。ひとつは、度々共演している庄司紗矢香を迎えてのシベリウスのコンチェルトと、今回と同じラフマニノフ 2番。もうひとつは、プロコフィエフのオラトリオ「イワン雷帝」である。これらも是非聴いてみたいが、その前にまず、今回の読響との共演の残りの演奏会を楽しみにしたい。

by yokohama7474 | 2018-02-12 00:00 | 音楽 (Live)