2016年 10月 06日
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK 交響楽団 2016年10月6日 サントリーホール
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N響との初めてのシーズンは極めて楽しいものでした。契約延長によって、今後数年にわたりN響の素晴らしい楽員達と演奏ができる機会を得ることとなり嬉しく思っています。2017年春にはN響との初めてのヨーロッパ・ツアー、そしてリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲に焦点を絞った我々のCDが、初めて海外でリリースされる予定もあり、来年に期待がふくらみます。今シーズンは我々にとってN響創立90周年という非常に大切なシーズンですが、今夕はそれに加えて、光栄にもサントリーホール開館30周年記念を祝う演奏会が行われます。
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実は私は、このニュースを帰宅してから知ったのであるが、N響さんも慎み深いというか、はっきり言うと、水臭いなぁ。なぜこのよいニュースを会場で大々的に宣伝してくれなかったのだろう。それとも、既に膨大な数の定期会員を抱え、特別演奏会や地方でのコンサートもほぼ常に満員になるオーケストラとしては、この世界の名指揮者を追加で3年も確保できたという素晴らしい成果も、それほど騒ぎ立てるほどのことではないということか。いやいや、でもこれは本当に意義あることではないか。N響さん、もっと宣伝しましょうよ。日本のシニアに向けてではなく、世界の聴衆に向けて!!
だが私は、何もこの演奏のすべてを手放しで絶賛しようと思っているわけではない。第1楽章にはもう少し重層的な響きと、木管楽器の鋭い絡み合いが欲しいと思ったし、音楽の呼吸自体も、それほど深かったとは思えない(例えばこの曲を得意としているハイティンクとかメータと比べると)。第2楽章も、野原に一陣の風が駆け抜けるような音楽を、もっとシャープに出す余地はあったと思う。第3楽章の舞台裏のポストホルンは、さらに幻想的に響いてもよかったかもしれない。どの楽章も若干速めのテンポ設定がなされ、いつものヤルヴィの要領のよいまとめ方であったが、マーラーの音響としては、若干の違和感も時に感じたことを白状しよう。だが、第4楽章で世界的なメゾ・ソプラノであるミシェル・デ・ヤングが深々としたまさに完璧に安定した歌唱を聴かせると、続く第5楽章のビム・バムという天使の合唱(東京音楽大学合唱団とNHK東京児童合唱団)も、この上なく瑞々しく響いたものである。つまりこのあたりまで私は、この演奏の美点と課題をともに感じ取っていた。だが、この世のものとは思われないような美しい第6楽章が始まると、細部を気にすることなく、音楽の流れに徐々に引き込まれていったのである。もしこの演奏が二度、三度と繰り返されれば、また違った洗練ぶりがあったかもしれないが、音楽は生き物。すべてが完璧に響く必要はなく、本当に素晴らしい音を聴ける箇所があれば、その演奏は感動的であるのだと思う。感傷が必要なわけではなく、プロフェッショナルな演奏団体による上質の音が聴ければ、コンサートに出かける価値があるというもの。その意味では、振り返って見ると、このミシェル・デ・ヤングの歌唱が、演奏家たち全員の霊感を引き出したとも言えるかもしれない。
ところで、このパーヴォ・ヤルヴィがかつての手兵、フランクフルト放送交響楽団(現hr交響楽団)を指揮した「マーラー 4つの楽章」というCDがある。
2016年 10月 05日
ニュースの真相 (ジェームズ・ヴァンダービルト監督 / 原題 : TRUTH)
【第一部】
モーツァルト: オペラ『フィガロの結婚』K492から 序曲 …(M)
シューベルト: 交響曲第7番 ロ短調 D759 「未完成」 …(O)
【第二部】
武満徹: ノスタルジア ―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に― …(O)
ドビュッシー: 交響詩『海』-3つの交響的スケッチ …(M)
【第三部】
J. シュトラウスII: オペレッタ『ジプシー男爵』から 序曲
: ワルツ『南国のバラ』 op. 388
: アンネン・ポルカ op. 117
: ワルツ『春の声』 op. 410
ヘルメスベルガーII: ポルカ・シュネル『軽い足取り』
J. シュトラウスII: 『こうもり』から「チャールダーシュ」
: トリッチ・トラッチ・ポルカ op. 214
第三部 全曲 … (M)
(M)=指揮:ズービン・メータ (O)=指揮:小澤征爾
指揮を執るのは、80歳のズービン・メータと81歳の小澤征爾。大変に仲のよい二人であり、文字通り過去30年間、いやそれ以上の長きに亘り、世界のトップで活躍して来た指揮者たちだ。そうして演奏を務めるのはあのウィーン・フィルなのである。これは文字通り歴史的なイヴェントであり、この世界的なホールにふさわしい世界的なイヴェントでもある。今回はロレックスがスポンサーであったようだが、このホールの小ホールであるブルー・ローズにはドリンクコーナーが設けられ、写真パネルも展示されている。あ、ドリンクコーナーと言っても、タダでドリンクが配布されているわけではなく、ホールの通常メニューの通常料金でしたがね(笑)。
第1部はオーストリア古典派からロマン派の音楽。最初はメータ指揮の「フィガロの結婚」序曲。この指揮者らしい重心の低い音でよく鳴っていたが、やはりそこはウィーン・フィル。重めの音でも優美さに欠くことはないのだ。2曲目は小澤の指揮でシューベルトの「未完成」。いつもの椅子を指揮台に置き、ほとんどが座っての指揮であったが、第1楽章の大詰めや、第2楽章の中間部の盛り上がりではすっくと立ち上がり、往年と変わらぬ歌心に満ちた演奏を展開した。この曲は、このホールのオープニングシリーズの中で、カラヤンに代わって小澤がベルリン・フィルを振って演奏した曲。30年を経て、今回はウィーン・フィルとの演奏である。こんなことのできる日本人指揮者は、もう今後出てこないであろう。何も感傷的になる理由はないが、正直なところ、涙腺が結構危なかったことを白状しておこう。
第2部はフランス的感性が求められる曲。最初は今年没後20年の武満の曲である。小澤は世界に知られた武満演奏のスペシャリストであるが、この「ノスタルジア --- アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」を指揮したことはあっただろうか。ちょっと記憶にない。ここでヴァイオリンを演奏したのは、まさに現代ヴァイオリン界の女王、アンネ・ゾフィー・ムターである。
http://www.imageforum.co.jp/tarkovsky/tkmt.html
そして、武満の感性に通じるフランス音楽の精華、ドビュッシーの「海」。メータのレパートリーとしては決して中核ではないと思うし、スコアを見ながらの指揮であったが、その演奏の美しいこと!!言葉であれこれ形容しても届かない。このコンビは後日ほかのオーケストラコンサートでもこの曲を演奏することになっている。行かれる方は是非楽しみにして欲しい。
そして最後の第3部は、ウィンナワルツである。メータはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに何度となく登場しており、もともとウィーンで学んだ人だけに、実に大らかに楽しそうに、暗譜でこれらの曲を指揮する。とても先頃80歳になったとは思えない。世の中にこんなに楽しい音楽はない。ただ、その享楽が退廃と紙一重であるからこそ、限られた人生を楽しもうという気になるのである。ここでは、ワルツ「春の声」と、喜歌劇「こうもり」からのチャルダーシュを、イスラエル出身のソプラノ、ヘン・ライスが美しく歌い上げた。
アンコールの2曲目には再びムターが登場。小澤だけでなくメータとの協演も披露しようということか。演奏したのは、クライスラーのウィーン奇想曲。ムターのヴァイオリンはまさに万能。なんとも言えないウィーン情緒が現出した。
そして次に小澤とメータが2人で登場。指揮台には小澤のための椅子は用意されていない。そこで小澤は指揮台に腰掛ける。それを見たメータは、自分もその横に腰掛けて笑いを取る。そして、腰掛けたままのメータの指揮で始まったのは、ヨハン・シュトラウスのポルカ「雷鳴と電光」。「こうもり」の劇中で演奏されることもある華やかな曲で、先頃の小澤征爾音楽塾の演奏でもそうであった。2人の巨匠指揮者はそのうち立ち上がり、譲り合うような競い合うような感じでそれぞれ指揮をする。小澤は踊るようなひょうきんなふりを見せ、雷鳴を響かせるトロンボーンが演奏の度に立ち上がる際に、逐一合図を送っていた。そうして最後の和音とともに、ホールの左右の壁のかなり高いところから、爆竹の破裂音とともに、金色のリボンが大量に吹き出し、客席はもう大盛り上がりだ。日本にしては珍しく、すぐに総立ちのスタンディングオベーションが始まり、この記念すべき30周年ガラ・コンサートは終わりを告げたのであった。これは終演後の様子。床に散乱した金色のリボンを拾う人たちが沢山いた。
2016年 10月 02日
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK 交響楽団 (ピアノ : デニス・マツーエフ) 2016年10月1日 NHKホール
プロコフィエフ : ピアノ協奏曲第2番ト短調作品16(ピアノ : デニス・マツーエフ)
ラフマニノフ : 交響曲第3番イ短調作品44
ご覧の通りロシア物なのであるが、その極めて器用な指揮ぶりで既にしてN響の聴衆に強い印象を残しているヤルヴィが、今回もやってくれた。だがそこには共犯者がいた。ピアノのデニス・マツーエフである。
そして後半、ラフマニノフの3番である。この作曲家の最後から2番目の曲で、ハリウッド調の甘美なメロディとリズミカルな音型の織りなす綾に、最後は作曲者得意のグレゴリオ聖歌「怒りの日」までが絡み合うごった煮交響曲。ここでもヤルヴィの面目躍如であり、充実した音の絨毯を見る思いだ。
2016年 10月 02日
岐阜県 可児郡 願興寺 / 瑞浪市民公園 / 多治見市 永保寺
まず訪れたのは、可児郡(かにぐん)というところにある願興寺。「かに」という地名からの連想で、蟹薬師とも呼ばれている。この寺にはなんと、24体もの重要文化財の仏像があるという。事前に電話連絡を入れ、ご住職のおられる時間帯に伺うこととした。
それから私は、大地の歴史を遥か遡る旅に出た。可児郡から少し西に行ったところにある瑞浪市(みずなみし)というところに、地下トンネルを利用した施設があると聞いたからである。そうして辿り着いたのは、瑞浪市民公園。
さてこの多治見市は陶器で有名なのであるが、私が見たかったのはもうひとつの全く異なった場所。それは多治見修道院だ。