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乾くるみ著 イニシエーション・ラブ

映画を見たあと、本屋でたまたま原作を見かけて、この本を読むことにした。映画のポスターと同じ表紙なのだが、1枚めくると違う (これがもともとのものなのでしょう) デザインの表紙が出てくる。奥付を見ると、2007年4月に第 1刷、2015年 6月には実に第 63刷とのこと。売れていますなぁ。
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作者の乾くるみは、1963年静岡生まれとのこと。女性のような筆名であるが、文章を読めば一目瞭然、絶対に男である。賭けてもよろしい。

さて、映画を先に読んで原作を後で読む場合、洋の東西を問わず、伝統的には大概は原作の方が映画より面白いことは論を俟たない。その理由は、本の方が映画よりも、自分勝手なイマジネーションを自由に羽ばたかせることができるからだと思うが、さて、昨今の小説はどうだろうか。

映画では、「最後 5分」ですべてが変わるとされていたが、原作の方は、「最後の 2行」とのことである。これは明らかに、原作の方がアグレッシブということですな。うーん。先に映画を見ている身としては、そのカラクリを小説がどう表現するかを少し考えてみるという楽しみがある。後半 (映画でも原作でも、Side B と称される) を一人称で語るというアイデアは読む前にすぐに浮かんだが、実際そうなっているのを見て、一瞬、「よっしゃ」と得意な気になる。まあこれは誰でも思いつくアイデアか。映画で少しうるさいと思った 80年代の歌は、それぞれのタイトルが原作でも使われていることが判明。本の場合は、実際にその音楽は流れて来ないから、もしその曲を知らない人にとっては、その方が余分な抵抗がないかもしれず、その点で原作は結構読みやすいと言える。また、映画は原作のストーリーを細部に至るまでかなり忠実に再現していると言える。なので、映画と原作の違いは、やはりクライマックスということになる、

私の率直な感想は、映画の「最後の 5分」は、原作の「最後の 2行」よりも秀逸ではないか、というもの。映画のラストに向かう場面には運動性があり、季節特有の高揚感や凛とした空気がある。なんとなく懐かしく甘酸っぱい想いを抱かせる、幸せなカップルの笑顔と、必死に自分の思い込みを証明したい一人の男がいる。一方で原作の方は、「おっとそうだったのか」という単発ショットで幕切れになる。その意味では、映画の方が小説よりもカタルシスがあるという珍しいケースになるかもしれない。そもそも、映画の種明かしは大変に懇切丁寧で分かりやすいので、映画を先に見てしまった身としては、その理解なしに文章を読むことはなく、もし先に原作を読んでいたら、カラクリを充分理解できたか否か、心もとない。

まあ、先に本を読んだ人が映画をどのように思うのかは分からないので、どなたかに試して頂きたい。

by yokohama7474 | 2015-06-20 23:00 | 書物