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リピーテッド (ローワン・ジョフィ監督 / 原題 : Before I Go to Sleep)

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製作総指揮リドリー・スコット、主演ニコール・キッドマン、共演コリン・ファース。大した顔ぶれである。にも関わらず、多くのシネコンのスクリーンからは既に消えており、上映している劇場を見つけるのに苦労してしまった。世間の人たちの評価と私自身の評価は一致しないことが多いので、もしや浮かばれない傑作ではないかと期待したが (笑)、実際に見てみて、今回ばかりはヒットしないのもやむなしと呟いてしまった。

主人公が同じ場面を繰り返すという設定は、ある種ありがちであって、よほど驚愕のトリックが仕掛けてあるか、映像と音響の織り成す流れが卓越しているかでなければ、今日びの観客は満足しない。ニコール・キッドマンの綺麗なブルーの瞳の横に真っ赤な毛細血管が走る接写によって始まるこの映画は、その冒頭の流れにはなかなか謎めいた雰囲気があってよい。ところが、その後段々と失望に駆られるようになる。絵が汚いのだ。手持ちカメラで不安定な心理を表すつもりかもしれないが、映画とは不思議なもので、細部の集積がうまく行かないと、このような映像表現に説得力がまるで生まれて来ない。そして観客は思うのだ。・・・最近の映画にしては、随分と低予算だなぁ・・・。2人の有名俳優へのギャラだけで、予算がつきてしまったのかなぁ・・・。しかし、リドリー・スコットが製作総指揮なのである。資金不足などあってもよいものか。

いやいや、映画の良しあしは、使われた金の多寡ではない。この映画、やはり流れを欠いている。低予算はよしとしよう。これはほとんど主役 2人の室内劇に近い。ニコール・キッドマン主演の室内劇・・・おお、あの変人監督ラース・フォン・トリアーの「ドッグヴィル」があるではないか。思い出してみると、そもそも演技力抜群というわけではないこの女優から、なんという表現力をあの映画は引き出していたことか。また、主人公が目覚めて同じシーンを繰り返す映画と言えば、ニコール・キッドマンのかつての伴侶、トム・クルーズの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」があったではないか。あの映画の持っていた、有無をも言わせぬ迫力は、残念ながらここにはない。あるいは、コリン・ファースの近作、ウッディ・アレン監督の「マジック・イン・ムーンライト」を思い出してみようか。あの映画でのこの俳優とここでの彼の役柄は大きく異なる。でも、どうだろう。あの映画のラストでエマ・ストーンが呼びかけに答えるシーンに溢れる万感の思いと、それを表す彼の表情のカケラでも、この映画にあるだろうか。それから、主人公が記憶をなくす映画には、クリストファー・ノーランの出世作「メメント」もあれば、寺山修司の「さらば箱舟」もあった。これらの映画と比べて、さてどうだろう。

私にとっては、やはり映画とは監督のものなのだ。演出が冴えなければ、どんな俳優も力を発揮できない。この作品のラストシーンで、監督は何をどのように表現したかったのか。私にはそれを理解することができず、観客がたったの二人だけだった劇場を後にした。

by yokohama7474 | 2015-06-24 23:32 | 映画