2015年 08月 11日
バイロイト音楽祭 ワーグナー : 楽劇「ワルキューレ」(指揮 : キリル・ペトレンコ / 演出 : フランク・カストルフ) 2015年 8月10日 バイロイト祝祭劇場
劇場正面に向かって左手から見たところ。平土間席の左側に座る観客は、こちらの入口から入る。
この曲、凄まじい嵐の音楽で始まり、傷つき疲れ果ててよろめきながら登場するジークムントが、「このかまどが誰のものであろうと、私はここで休まねばならない」と歌って倒れ込むのであるが、この大げさな表現が面白くて、好きなのである。「かまど」を「テーブル」とか「風呂」とか「トイレ」に換えると、家族内で場所争いをするご家庭においては、使い勝手がよく諍いを避けられる、応用の効くフレーズではなかろうか。昨今のこのオペラの上演においては、ト書きに忠実で、本当にかまどがしつらえてある (笑) 昔ながらの演出は MET くらいしかないだろうが、この「かまど」に代わるものが何かによって、その演出の前衛度を測ることができる。今日の演奏では、「農家の麦わら」。うーむ、決して遠すぎず、悪くないではないですか。幕が開いたときに目に入るのは、農家のサイロのような、また物見の塔のような木造建造物で、その薄暗い感じがこの作品に相応しく、「ラインの黄金」に辟易していた観客を、まずは安心 (?) させる。
また、第 2幕のヴォータンは、もじゃもじゃ髭がマルクスを思わせる。
というわけで、またもや映像にイライラしながらも、最後にはこのように実際の炎が出て、部分的には意外と堅実 (?) な面も見られた演出となった。
そして、最大の聴きどころは、ペトレンコの指揮。考えてみればこの「ワルキューレ」は、4作の中で最も Emotional なシーンが多い。つまり、登場人物同士が細やかな情を通わせるシーンが多いのだ (ジークムントとジークリンデ、ヴォータンとブリュンヒルデがもちろん中心だが、ブリュンヒルデのジークムント、ジークリンデ兄妹への同情も重要な要素だし、また実はフリッカもフンディングの願いを無下にできないという思いがあり、9人のワルキューレたちの間にも仲間意識が強い)。ペトレンコの指揮は、ときにテンポを落としてえぐるような表情づけをするなど、渦巻く Emotion を濃厚な密度で描いていた。演出にあれだけ足を引っ張られながらも (笑)、強い牽引力を発揮していた点、大変なものだと思った。