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チャップリンからの贈りもの (グザヴィエ・ボーヴォワ監督 / 英題 : The Price of Fame)

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夏休み映画があれこれ封切されていて、とにかくキャッチアップだ!! と言いながら、ターミネーターでも進撃の巨人でもミッション・インポシブルでもジュラシック・ワールドなく、こんなマイナーな映画を見てしまうのが、私のひねくれた性格をよく表している (笑)。確かに、この前に見たアベンジャーズが CG テンコ盛りであったのに対し、ここでは一切そういう要素がなく、まあなんとも古風な映画ではある。でも、視覚に激しい刺激を受けるだけでなく、時々こういう手作りの映画を見たくなるものだ。

私がいつもタイトル欄に、邦題と併せて原題 (英語の映画以外は分かる限り英題。ちなみに本作はフランス映画で、原題はフランス語) を掲載しているのは、邦題の持つニュアンスが原題と異なることがかなり多いという問題意識による。この映画もそうだ。「チャップリンからの贈りもの」・・・うーん、違うと思うなぁ。ここでの主人公たちは、別にチャップリンに対する憧れで犯罪を犯すわけではなく、現実との対峙の中で、自らの決断で行動を起こすのだ。そこに多々人間的な要素があるからと言って、また、映画の結末で病院の治療費が賄われたからといって、何も主人公たちが「贈りもの」を望んでいるわけではない。とはいえ、英題の "Price of Fame" を、「名声の代償」とか「有名であることの価値」とか訳しても仕方ないからなぁ・・・(笑)。やはり日本語ではなかなか難しいものだ。

さて、この映画、1978年にスイスで実際に起こったチャップリンの棺の盗難事件を扱っている。当時私は小学生か中学生だったが、この騒ぎはよく覚えている。亡くなったのが確かクリスマスで、その数か月後に墓場から棺が掘り起こされて何者かが持ち去ったという事件であった。その当時、事件の解決や犯人像について報道があった記憶はないが、「有名人は死んでも大変だなぁ」と思ったことは、はっきりと覚えている。つまり、英題の Price of Fame とは、当時の人々が実際にこの事件に対して抱いた感情を言い当てた言葉なのである。実際の事件の犯人は、ポーランド人とブルガリア人であったが、この映画では、ベルギー人とアルジェリア人に設定を変えてある。東欧の 2人より、白人と有色人種の方が、コントラストもあり、欧州における移民の貧困という問題をより明確に描くことができるという意図であろうか。

この主人公たちは、貧困に耐えかねて、チャップリンの遺体の「誘拐」を行い、身代金を稼ごうとするというストーリーだが、その決意の悲愴さに比較して、主人公たちの行動の描き方には悲愴さはあまりなく、常にどこか人間的なゆるさがあって、観客の微笑を誘う。描かれている現実は実際には悲愴さはあるのだが、映画の意図は、それをリアルに描くことではなく、大真面目であることの可笑しさといった点に焦点を当てている。また、アルジェリア人オスマンには腰を痛めて入院中の妻と、幼い娘がいて、彼が追い込まれて行く過程には、この 2人への愛があるわけだが、その表現の不器用なことに、観客は笑わされながら、ちょっとほろりとさせられるのだ。

作中にはチャップリン作品へのオマージュが幾つか含まれているとのことだが、それよりも何よりも私が感心したのは、屋内、屋外を問わず、スイスのヴヴェイ (レマン湖畔) の澄んだ空気と、そこに住む人たちの確かな息遣いが、これはリアルに描かれていたことであった。雨の中、仕事を終えて帰ってきたオスマンが手をすり合わせたり、ベルギー人エディが、オスマンの娘サミラを連れてレマン湖の遊覧船に乗ったり、あるいはオスマンが脅迫電話をかける前に息を白くしながら公衆電話の前で煙草を吸ったり、そのような仕草や行動に、なんら特別でない人々の確かな生が感じられるのだ。生命賛歌といったような大げさなものではなく、普通の人たちの全く自然な生の姿が心に沁みるという印象。不滅の名声を残したチャップリンとの対比において、「それでも君らが生きていることは素晴らしい」というメッセージであろう。スクリーンでは庶民の姿を演じたチャップリンは現実世界では富豪となり、Price of Fame を払ったということか。尚、本作では実際にチャップリンの旧宅や墓でロケされているとのこと。

ところで、本作に出ているこの女優さんは誰でしょう。サーカスの団員で、エディと恋仲になって彼を道化師にしてしまう役柄だ。決して若くはないが、なかなかいい雰囲気を持っている。
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彼女の名前は、キアラ・マストロヤンニ。ということは、当然マルチェロ・マストロヤンニの娘だろう。では、母親は? なんと、カトリーヌ・ドヌーヴ。2011年のカンヌ映画祭で、こんなツーショットもあったらしい。マストロヤンニとドヌーヴは、結婚はしていなかったようだが。
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このお母さん、ン十年前はこんなだった。
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うーん。Fame があろうがなかろうが、人って年を取るものなのだね、やっぱり (笑)

あ、ひとつ書き忘れかけたことがあって、それは本作の音楽だ。なんとあの、ミシェル・ルグランなのだ。映画音楽史上最も有名な曲のひとつ、「シェルブールの雨傘」で未だ不朽の Fame を誇る作曲家だ。えー、まだ生きていたのという感じだが、1932年生まれ。「シェルブールの雨傘」は 1964年の作で、主演はほかでもない、カトリーヌ・ドヌーヴ。そう、上の写真の映画である。実は私はこの名作を見たことがなく、有名なテーマ曲しか知らないのだが、音楽の使い方はどうだったのだろうか。少なくともこの「チャップリンの贈りもの」における音楽には、正直、納得できない部分が多々あった。監督の意向であるのかもしれないが、もう少し繊細な仕事をする若手を選んだ方がよかったのでは・・・とも思うが、ま、カトリーヌ・ドヌーヴの娘に免じて、大目に見てあげることとしよう。

by yokohama7474 | 2015-08-21 01:14 | 映画