2015年 09月 05日
うらめしや~、冥途のみやげ展 東京藝術大学大学美術館 / 谷中全生庵 幽霊画コレクション
題名で明らかな通り、これは幽霊画の展覧会である。既に多くの方がご存じであろう、初代三遊亭圓朝 (1839 - 1900) が収集した幽霊画コレクションが東京・谷中の全生庵というお寺に所蔵されていて、これはその圓朝コレクションを中心とした展覧会である。もともとは 2011年の夏に開催予定であったところ、東日本大震災の発生によって延期となり、ようやく今年開催の運びとなったものだという。さしもの幽霊たちも、現実に起こった悲惨な大規模天災の前に、出番を差し控える必要があったわけである。幽霊が人を怖がらせるには、人間の側にもある一定の平安がないといけないのだろう。
さて、初代三遊亭圓朝は、幕末から明治にかけて活躍した落語家であるが、ちょうど彼の活躍した時代は、社会の急激な変化の中で、人々の価値観も大きな変化を余儀なくされた頃。言文一致運動で知られる二葉亭四迷が「浮草」を書く際に、圓朝の落語を参照にしたというから、まさに現代の日本語の基礎を作った人ということになる。もっとも、その圓朝が昨今の若者の日本語を聞いても、同じ言葉とは分からないかもしれないが (笑)。これは、鏑木 清方描くところの圓朝像 (国立近代美術館所蔵)。重要文化財指定で、今回の展覧会の図録に載っているが、私が行ったときには展示されていなかった。明治のプロフェッショナルの頑固さと品格をうまく表現した素晴らしい作品ではないか。今回の展覧会には、圓朝愛用の湯呑やパイプ、湯タンポ等も展示されており、かつて生きた名人の息吹を感じることができて興味深い。
さて、美術館を出ようとすると、この圓朝ゆかりの寺、全生庵で幽霊画展が開かれているとの案内が。ここ芸大から谷中は目と鼻の先。随分以前に一度行ったことはあるが、久しぶりに行ってみるとするか。炎暑ではないことを残念だなどと言っていたものの、今となってはこの薄曇りが幸いして、歩いても行けるではないか。これぞ超自然の存在のお導きというものか。
さて全生庵に着いてみると、お、やってるやってる。幽霊画展。
本堂の裏には墓地が広がり、巨大な観音像が立っている。8月のギラギラした日差しが・・・映っていませんが、まあ、雨が降っているわけではなく、過ごしやすい天気ではありました。