2015年 09月 14日
英国ロイヤル・オペラ来日公演 モーツァルト : 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(指揮 : アントニオ・パッパーノ / 演出 : カスパー・ホルテン) 2015年 9月13日 NHK ホール
さて、コヴェント・ガーデンでの「ドン・ジョヴァンニ」は、1962年以降、6つのプロダクションが制作されており、私は今回そのうちの 3つめのプロダクションを見ることになる。1992年に現地で見た、ヨハネス・シャーフの演出 (ハイティンク指揮、トーマス・アレン主演。尚、同じ年の日本公演でも同じプロダクションが上演された)。2007年にやはり現地で見た、フランチェスカ・ザンベッロの演出 (パッパーノ指揮、アーウィン・シュロット主演。このウルグアイ出身のバリトン歌手は、あのスーパー・ソプラノ、アンナ・ネトレプコとその後結婚するのだが、私が見た日、ネトレプコはドンナ・アンナ役で出演していたにもかかわらず、第 1幕終了時に降板して代理が歌ったのをよく覚えている。もしかして妊娠していたのか?!)。今回のプロダクションは、昨年初演されたばかりの新しいもの。演出家のカスパー・ホルテンは、1973年コペンハーゲン生まれのデンマーク人で、2000年から2011年までデンマーク王立歌劇場の芸術監督を務めたとのこと。指揮のアントニオ・パッパーノは、2002年からこのオペラハウスの音楽監督を務める名指揮者だ。両親はイタリア人だが英国で生まれている。知らないうちに Sir の称号をもらっていたようだ。今や名実ともに英国を代表するイタリア人指揮者だ (?)。正直言うとこのコヴェントガーデン、格式の高いオペラハウスの中では、オーケストラが必ずしも上質とは言えないのだが、私の経験では、このパッパーノが指揮するときだけは、いい音で鳴るのである。
さて、今回の演出は、大変に凝ったものであった。舞台には 2階建ての建物が 3棟、密着して建っているが、両端が離れて、真ん中の部分が回転するようにできている。それですべてのシーンを賄うという点では、経済的かもしれない。ユニークなのは、この建物自体がスクリーンのようになり、そこに様々な色や文字 (ドン・ジョヴァンニの女性リストであるらしい)、また模様などが表れ、意表を突く。
さて、最後にパッパーノだが、自らフォルテピアノ (チェンバロより一歩ピアノに近づいた楽器) を弾きながらの指揮で、特に早い場面での音楽の煽りが充実していた。オケの編成はコントラバス 2本の小さなものであったが、迫力に不足する場面は特になかった。本当に優美な音が出ていたかといえば、その点は若干不足があったかもしれないが、モーツァルトでもこの作品にはデモーニッシュな雰囲気が必要であるので、その点はまあよいのではないだろうか。
総じて、なかなかに楽しめた公演であった。