グスターヴォ・ヒメノ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (ピアノ : ユジャ・ワン) 2015年11月13日 サントリーホール

チャイコスフキー : ピアノ協奏曲第 2番ト長調作品 44 (ピアノ : ユジャ・ワン)
リムスキー・コルサコフ : 交響組曲「シェエラザード」作品 35
さて、いかに私がオーケストラコンサートが好きと言って、同じ内容のものに 2回出掛けるのは稀だ。いや、もしかしたら初めてのことかもしれない。実情を明かすと、月曜の名古屋での演奏会は、某所のご厚意で会社に招待状が数枚来たうちの 1枚を私が首尾よくせしめた、いや、厳正なる抽選の結果私が権利を頂いたものであったが、この 9/13 (金) のコンサートは、もともと自分でチケットを購入していたものであった。しかし、よくしたもので、このような高水準の内容のコンサートにもなると、2回聴いても全く飽きることがないどころか、様々な発見があった。従って今日は、前回との比較を主に書き留めたいと思う。
と言っても、演奏自体の違いには、特に書くことがない。なぜなら、今回もユジャ・ワンは完璧だし、その銀色で背中の大きく開いたドレスまで前回と同じだ。オーケストラは相変わらず美音で鳴っているし、弦も管も、なんとも鮮やかでたおやかで、かつ迫力もある。もともとこのオケの楽員であった指揮者、グスターヴォ・ヒメノは、やはり楽員との強い信頼関係に基づいて、堂々たる指揮ぶりだ。これ以上何か書くことがあるとすると、この日私が改めて思ったことと、実際に見たことということになろうか。
ユジャ・ワン。このスーパー・ピアニストについては、前回絶賛しつくしたので、今さら贅言を付け加えることはない。

この日のアンコールは実に 4曲。実は私の席はステージに向かって右側の RA ブロックで、出演者の出入り口の正面だったのでよく見えたのだが、彼女はステージから下がると汗をふいたり飲み物を飲んだりしながら、何やら考えながらウロウロしている風情だ。スタッフと何か相談しているようにも見える。聴衆のしつこい拍手に応えてアンコールを弾こうか否か思案していたようにも見え、実際、ステージに出てきてからも思案顔であった。究極のプロでありながら、職業で淡々とピアノを弾いていますという感じとは異なる自然さというか、あえて言えば初々しさのようなものを感じる (そういえば、なんともぎこちないあのお辞儀にしてもそうだ)。この不思議な自然さが、彼女の演奏にもよく表れていると思う。この日のアンコールは、まず、シューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」、次にポピュラーナンバーの「二人でお茶を (Tea for Two)」、それから例のヴォロドス編曲のトルコ行進曲があって、最後はグルックの「精霊の踊り」であった。シューベルトとグルックでは、ここでも感傷的にならずに情緒を丁寧に描き出してみせ、前者などあたかも上品な演歌の雰囲気だ。もうなんでもできてしまうのである。
コンサートからは離れるが、彼女の演奏を未だお聴きになったことのない方のために、手頃な映像で、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」をご紹介しよう。
https://www.youtube.com/watch?v=OJRfImhtjq4&feature=player_embedded
ネット上ではインタビューなどを含む彼女の動画が沢山見つかるが、興味深いのは、中国時代のものもいくつかあることだ。1987年生まれの彼女は 15歳でフィラデルフィアのカーティス音楽院に入学したとのことなので、これらはその前の映像だろうが、前者のショパンのエチュードはどう見ても 10歳くらい。後者のクレメンティのソナチネは、渡米直前くらいだろうか。でも驚くのは、10歳くらいの演奏でも、今日の片鱗があることだ。衣装はちょっと今と違うが (笑)、まさに栴檀は若葉から芳し、である。といっても、まだほんの 10数年前だから、ついこの間でもあるわけですが。おそるべし。
http://nicogachan.net/watch.php?v=sm16021947
https://www.youtube.com/watch?v=zUfF4UMl20c&feature=player_embedded
さて、後半の「シェエラザード」、今回も本当に鮮やかな名演であった。前回ご紹介した第 2楽章のファゴットのミスであるが、今回は奏者がその箇所の少し前に楽器を手入れしていると思ったら、前回音の抜けた箇所に来ると、ほんの一瞬早く出るくらいの周到さで見事に切り抜けていた (笑)。終演後のカーテンコールでは、指揮者はしばし思案したのち、今回もファゴット奏者を最初に指名。前回と同じようにファゴット奏者は指揮者を指差して大笑い。名古屋での椿事をご存じないほとんどの聴衆には、なぜファゴットが最初に指名されたのか全く分からなかったであろう (笑)。尚、今回のコンセルトヘボウ管の来日公演は全部で 6公演あるが、「シェエラザード」の演奏は、名古屋とこの日の東京の 2回だけであった。従って、この指揮者とファゴット奏者のやりとりは、名古屋での前編と東京での後編の 2回。私は幸運にも両方とも見て聴くことができたわけだ。そしてこの日のアンコールは前回の名古屋と同じ。まずはマスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」前奏曲と、リゲティのコンチェルト・ロマネスク (ルーマニア協奏曲) 第 4楽章であった。
さてここで、またまたコンサートを離れて、このグスターヴォ・ヒメノという指揮者について考えてみよう。




終演後、指揮者とソリストのサイン会があったので、参加した。若い頃はよく演奏家のサインをもらったものだが、最近は面倒くささが先に立って、ほとんどその習慣がなくなっていたところ、ブログを書くようになってから、ネタ探しのためにその習慣が復活しつつある (笑)。前回のチェコ・フィルのときと違い、今回は撮影禁止とうるさく言われたので、残念ながらその場の写真はないのだが、ユジャは、とても私服とは思えない、肩を出し、胸を締め付けて谷間を強調した黒い服に、長い黒革ブーツといういでたちで現れたが、その笑顔はなんとも人なつっこいもので、サインを求める年輩の人たちが何人か、なぜだか英語なり中国語で話しかけるのにも、いやそうな顔もせずに、よく喋りながら応対していた。そして、驚きの発見。その右の肩ひもの下には、なんと湿布薬が (白いものではなく、よくある濃いめの肌色の小さいもの)!! 言ってみれば、野球のピッチャーが登板後に肩をアイシングするようなものなのかもしれないが、せっかくファッショナブルに決めているのに、これでは台無しである。見せたくなければちょっと何か羽織ればよいのだから、きっと本人は気にしていないのだろう。さすがスーパー・ピアニスト。余裕です。大物なのだと思います。
せっかくなので、お二人に頂いたサインを披露しましょう。


by yokohama7474 | 2015-11-14 01:56 | 音楽 (Live) | Comments(0)