2015年 11月 17日
歌舞伎 神霊矢口渡 (しんれいやぐちのわたし) 2015年11月15日 国立劇場



この歌舞伎、作者が面白い。福内 鬼外 (ふくうち きがい) という、節分の豆まきのような人を食ったこの作者の正体は。





さて、本題に入る前に寄り道しすぎですね。そろそろ作品について書きましょう。今回上演されたのは以下の 4幕。
序幕 : 東海道 焼餅坂 (やきもちざか) の場
二幕目 : 由良兵庫之助 新邸の場
三幕目 : 生麦村 道念 (どうねん) 庵室の場
大詰 : 頓兵衛 住家 (とんべえ すみか) の場
実はこれらの場の中で比較的頻繁に演じられるのは、最後の「頓兵衛住家」だけで、序幕は 109年ぶり、二幕目は 100年ぶり (前回、1915年に兵庫之助を演じたのは、初代中村吉右衛門)、三幕目は実に 119年ぶりとのこと。従って、今回の上演は歴史的なものなのだ。とりわけ二代目吉右衛門にとっては、齢 70を超えて、初代からちょうど 100年後に同じ役を演じるというのは、いかにも感慨深いことだろう。
序幕では、義興の奥方である筑波御前 (中村 芝雀) と家臣、由良兵庫之助の妻、湊 (中村 東蔵) が、来るべき新田家再興のために、生き別れになった義興の遺児、まだ幼い徳寿丸 (とくじゅまる) を探す旅に出ている。駕籠かきに言い寄られるのを巧みに切り抜ける (笑えるシーンあり) が、そのならず者の駕籠かきたちは、修行者に扮して背中に背負う行李にその徳寿丸を隠して落ち延びる新田の家臣、南瀬 六郎 (みなせのろくろう) に標的を替える。六郎は足を傷つけられながらも、このならず者たちを片づける。




このように、見どころ満載の演目であるので、大田区民であろうとなかろうと、一見をお奨めする。
さて、せっかくなので、新田次郎、いや違った、新田義興を祭神とするパワースポット、新田神社を紹介しておこう。東急多摩川線の武蔵新田駅から、徒歩で 3分というところだろうか。決して大きくはないが、なんとも言えずそこだけ空気が澄んでいるような気がするのだ。








新田義貞なら教科書にも出てくるが、義興の名前は、たまたまこの新田神社を訪れた人くらいしか知らないと思う。それでも、今でもこの土地に残る伝説と、その場所に漂うただならぬ雰囲気に触れると、長い時間の人々の生活が偲ばれよう。大田区民の皆様はもちろん、そうでない方も、今回の貴重な上演から、そのような歴史に思いを馳せてみませんか。ついでに大田区特産物も、よろしく!!