2015年 12月 03日
ラストナイツ (紀里谷 和明監督 / 原題 :Last Knights)
前回の記事に倣って、まず題名から行こう。「ラストナイツ」とは、きっと Last Night (昨夜) の複数形であろう。とすると、自堕落な生活を送っているプレイボーイが、様々な夜を過ごすものの、「昨夜のことは忘れたよ」とうそぶいて夜な夜な遊びまわるというストーリーだろう。なんちゅうけしからん映画だ。そもそもその内容なら、クライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンという役者は明らかにミス・キャストではないのか。・・・と思ってよく見ると、題名の後半は Nights ではなく Knights だ。つまり、ラストナイトは、「最後の騎士たち」ということだ。でも、このカタカナの題名を見ただけでは、とてもそこまで思いつかないですよ。それは、「ラストサムライ」や「ダークナイト」なら分かる。まあ公平に言えば後者は「暗い夜」と思った人がいたかもしれないが、バットマンのイメージがもともとあるので、タイトルの意味は想像できる。その点この映画は、観客は全く先入観ゼロで見るわけだから、この邦題は厳しいだろう。
で、タイトルの意味は分かったのだが、ストーリーについて何の情報もないまま劇場に入ったのだ。そして途中から極めて明確になるのは、これは日本人が大っ好きなある歴史的な物語の翻案であるのだ。年末にはちょっと早いが、大詰めのシーンでこんな感じの雪の中の攻撃となると、大概の方々にはもう明らかであろう。モーガン・フリーマンが義憤に駆られて殿中で刀を抜く役。クライヴ・オーウェンが昼行燈の役である。
さて、次に気になるのは映像である。上記ポスターや写真で見る通り、この映画は終始薄暗い空の下で進行する。監督の意図は、西洋絵画を意識した画を作ることであり、カラヴァッジオやレンブラントやフェルメール、あるいは西洋絵画的な小津安二郎の映画を念頭に置いたらしい。だがその点は正直、どの程度成功したかは疑問だ。絵画と映画は全く別物。それは、絵画と違って映画には、動きと、それ以上に時間が関係してくるからだ。画の作り方に凝った割には、見終った印象は残念ながら単調なイメージで、実際に屋内のシーンはもちろん、どんなに壮大な野外のシーンが出て来ても、あたかもすべては屋根の下で行われる室内劇という印象だ。小津の映画は、よく畳に腹ばいになって撮った映像が特徴と言われるが、屋外のシーンを含めて、実は様々なヴァリエーションがある。この映画はその点、画から広がりを感じることは、残念ながらあまりない。以下のようなシーンもその例に漏れない。