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ラストナイツ (紀里谷 和明監督 / 原題 :Last Knights)

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あるとき映画館で、クライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンの写真を掲載した薄暗いポスターを発見。明らかにハリウッドの新作だ。近づいてみると、何やら漢字が書いてある。なになに、紀里谷和明? キリヤカズアキ? お、あの「新造人間キャシャーン」の監督ではないか。あれから随分時間が経ったが、ハリウッドのトップ俳優を使った映画を撮ることができるという大出世を果たしたわけだ。その間に撮ったという「Goemon」は、私が海外在住中の公開なので、どのような映画であるのか全く分からない。しかし、これはやはり見るべき映画であろう。前回の記事で採り上げた「コードネーム U.N.C.L.E.」は、もとマドンナの旦那が監督であったが、この映画は、もと宇多田ヒカルの旦那が監督だ。だからなんだと言われても困るのだが。

前回の記事に倣って、まず題名から行こう。「ラストナイツ」とは、きっと Last Night (昨夜) の複数形であろう。とすると、自堕落な生活を送っているプレイボーイが、様々な夜を過ごすものの、「昨夜のことは忘れたよ」とうそぶいて夜な夜な遊びまわるというストーリーだろう。なんちゅうけしからん映画だ。そもそもその内容なら、クライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンという役者は明らかにミス・キャストではないのか。・・・と思ってよく見ると、題名の後半は Nights ではなく Knights だ。つまり、ラストナイトは、「最後の騎士たち」ということだ。でも、このカタカナの題名を見ただけでは、とてもそこまで思いつかないですよ。それは、「ラストサムライ」や「ダークナイト」なら分かる。まあ公平に言えば後者は「暗い夜」と思った人がいたかもしれないが、バットマンのイメージがもともとあるので、タイトルの意味は想像できる。その点この映画は、観客は全く先入観ゼロで見るわけだから、この邦題は厳しいだろう。

で、タイトルの意味は分かったのだが、ストーリーについて何の情報もないまま劇場に入ったのだ。そして途中から極めて明確になるのは、これは日本人が大っ好きなある歴史的な物語の翻案であるのだ。年末にはちょっと早いが、大詰めのシーンでこんな感じの雪の中の攻撃となると、大概の方々にはもう明らかであろう。モーガン・フリーマンが義憤に駆られて殿中で刀を抜く役。クライヴ・オーウェンが昼行燈の役である。
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さてここで疑問を呈そう。この監督、自分の骨肉の中に、この仇討ちストーリーがどの程度入っているだろうか。何か日本的なものが作品を作る原動力になったのであろうか。この疑問に対する答えは、映像を見るだけではなかなか難しいものがあるが、どうやら原案が日本発であっても、世界のどこでも通用する物語を描きたかったようだ。プログラムに載っているインタビューによると、黒澤明がシェイクスピアを翻案して日本を舞台にした作品を作った、ちょうどその逆をやりたかったとのこと。なるほど。では、日本的なものを描きたいわけではないということで、ここは整理しよう。そもそも脚本はカナダ人によるものらしく、始まりからして大変インターナショナルな作品なのだ。実際、この映画の設定はどこの国でもない。登場人物も、様々な肌の色の人たちがいて、特定の国の特定の民族の話ではないということが大前提である。

さて、次に気になるのは映像である。上記ポスターや写真で見る通り、この映画は終始薄暗い空の下で進行する。監督の意図は、西洋絵画を意識した画を作ることであり、カラヴァッジオやレンブラントやフェルメール、あるいは西洋絵画的な小津安二郎の映画を念頭に置いたらしい。だがその点は正直、どの程度成功したかは疑問だ。絵画と映画は全く別物。それは、絵画と違って映画には、動きと、それ以上に時間が関係してくるからだ。画の作り方に凝った割には、見終った印象は残念ながら単調なイメージで、実際に屋内のシーンはもちろん、どんなに壮大な野外のシーンが出て来ても、あたかもすべては屋根の下で行われる室内劇という印象だ。小津の映画は、よく畳に腹ばいになって撮った映像が特徴と言われるが、屋外のシーンを含めて、実は様々なヴァリエーションがある。この映画はその点、画から広がりを感じることは、残念ながらあまりない。以下のようなシーンもその例に漏れない。
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だが、ストーリーにはいろいろ伏線もあり、なかなか面白い。主役の 2人以外は知らない俳優ばかりだが、唯一、クライヴ・オーウェンの敵役として、伊原剛志が頑張っている。ハリウッド映画の日本人俳優というと、渡辺謙がダントツで、真田広之や浅野忠信が時々出ているくらいであり、組合の制約だか何かがあるらしく、高い壁が存在している。ここでの伊原は、日本人という設定には必然性はなく、不気味な雰囲気を持った、いわば「敵ながらあっぱれ」な役柄であり、いい演技をしていると思うので、今後の活躍に期待したいものだ。ハリウッド第 1作かと思ったら、クリント・イーストウッドの「硫黄島からの手紙」で馬に乗るバロン西を演じていた。あれも印象に残る役であった。
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役者の演技では、まあやはりクライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンは大したものだ。前者は、昼行燈の状態から最後の討ち入りに向けてシャキッとするあたりの変貌ぶりが目覚ましいし、一旦シャキッとしてしまうと、この上なく頼もしい。男の理想ですなぁ (笑)。
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モーガン・フリーマンも、一本気に正義を貫徹する姿にリアリティがあり、素晴らしい存在感。こんな役者を使うことのできる監督は幸せだろう。
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ひとつ気づくのは、この映画、悪い奴は、かたきとなる大臣くらいしか出てこないことだ。下の写真の右端の人物。ただこの人物とても、過激な悪ではなく、保身に汲々としている弱い人間であり、決して積極的に悪を実行しない。極悪人なら、クライヴ・オーウェン役を野放しにして観察するのではなく、問答無用に暗殺するだろう。そのあたりが、この映画がもうひとつ臓腑をえぐる衝撃を与えてくれない理由かもしれないと思う。
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この映画のエンドタイトルを見ていると、チェコ人の名前と韓国人の名前が沢山出て来る。ロケは全編チェコの各地で行われたらしく、韓国資本に相当頼って製作されたことが原因のようだ。例えばラストシーンが撮影されたのは、チェコで最も美しいと言われるフルボカー城であるらしい。こんなところだ。おーなんと素晴らしい。行ってみたい!!
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あれこれ勝手なことを書きつらねているものの、もともと我々日本人のよく知っているストーリーでもあり、うるさいことを言わなければ結構楽しめる。少なくとも、夜な夜な遊びまわるプレイボーイの話かと思って見に行くと、意外な展開で面白いと思うこと必定 (笑)。頑張っている紀里谷監督を応援しよう!!

by yokohama7474 | 2015-12-03 00:22 | 映画