2015年 12月 31日
プラド美術館展 スペイン宮廷 美への情熱 三菱一号館美術館
東京の中心地、丸の内に 5年前に開館したこの美術館は、意欲的な企画を数々世に問うてきた。今回の展覧会は、プラド側の提案による企画であるようだ。私は実はマドリッドには何度か、1ヶ月超の張り付き出張をしたことがあって、同地で何度も週末を越えたので、このプラドには優に 10回以上は足を運んでいる。エル・グレコ、リベラ、ヴェラスケス、ムリリョ、ゴヤなど、スペインで活躍した画家たちに、ルーベンスやティントレットや、その他幾多の西洋絵画の傑作を蔵する世界屈指の美術館だ。今回の展覧会では、どうやらそのプラドから、小品が沢山やってくるという。このブログで最初に文化関係の話題を採り上げた、今年の 6月 3日の記事では、ルーヴルからやってきた小品による展覧会を題材にしたが、それと似た趣向の展覧会だ。それにしても、今その記事を読み返してみると、短いなぁ (笑)。最近の記事では、どうも無駄口が多くなっている。ちょっと気をつけよう。
上述のルーヴルの記事で既に私はプラドに何度も通ったと書いている。また、その記事で話題にしたムリリョやティエポロの作品は、今回の展覧会にも含まれている。いや、この展覧会、ほかにもこのように豪華な、綺羅星のごとき画家たちの作品が並ぶ (50音順)。
ヴァトー、ヴェラスケス、エル・グレコ、ゴヤ、サルト、ティツィアーノ、プッサン、ブリューゲルの息子や孫たち、ボス、ルーベンス、レーニ、ロラン・・・。
ただ、このような歴史上よく知られている画家たちのみならず、スペインやイタリアやフランドルの様々な画家たちが紹介されていて、中には大変ユニークなものもある。正直なところ、先のルーヴル展と同じく、実際にプラドに行ってみると、これらの作品の前を足早に素通りしてしまうことがほとんどだろう。このような展覧会の意義は、隠れた小品の持ち味をじっくりと鑑賞できることだ。作品点数は実に 102点。以下、私が特に興味を持った作品を一部ご紹介する。
まず、今回の目玉である、ヒエロニムス・ボス (1450頃 - 1516) の、「愚者の石の除去」。上に掲げたものとは別のポスターにはこの絵が掲載されていて、「世界に 20点しか存在しない奇想の画家ボスの真筆、初来日!」と謳われている。入り口から入って数点目に早くも飾られている。このような変わった絵だ。
この作品を含む最初のセクションのテーマは、「中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活」。領主や中産階級の居室に置かれたらしい、小さな作品ばかり。日本的に言えばさしずめ念持仏か。まあ、礼拝の対象になる宗教的な題材ばかりではないが、ここではボス以外は美しい宗教画がほとんど。このハンス・メムリンク (1433頃 - 1494) の「聖母子と二人の天使」など、手元に置いておきたくなる、本当にきれいな作品だ。
さて、最後の第 7セクションは、「親密なまなざし、私的な領域」。既に宗教や王侯貴族の束縛を離れ、画家の表現力は自由に羽ばたいている。スペインの強い陽光を思わせる風景画は、大変に素晴らしい。特に、光が強いと陰も濃くなるのだという空気感が、どの作品にもよく表れている。ここでは 2点、マリアノ・フォルトゥーニ・イ・マルサス (1838 - 1874) の「フォルトゥーニ邸の庭」(未完のまま作者がなくなり、義父が完成させた) と、ビセンテ・パルマローリ・ゴンザレス (1834 - 1896) の「手に取るように」である。作風は違えど、いずれも素晴らしい作品ではないか。19世紀の美術のメインストリームからは外れてはいるものの、我々の知るほかのヨーロッパの国々の画家たちの作風とも一脈通じるものがある。例えばスイスのセガンティーニであったり、あるいはイギリスのラファエロ前派やフランスの印象派であったり・・・。