2016年 02月 04日
ザ・ウォーク (ロバート・ゼメキス監督 / 原題 : The Walk)

というのも、この映画のクライマックスはこんな感じだからだ。



IMAX とは、通常よりも巨大なスクリーンを使い、しかも最高の音響を実現するシステム。これは IMAX 社の登録商標で、国外でも共通のロゴが使われているが、日本では 109シネマズでのみ IMAX を見ることができるのだ。なので、109 シネマズで映画を見ると、予告編の前に上映される宣伝の中で、いかに IMAX がすごいかを口々に語る人たちがいて、その熱狂ぶりが笑えるのであるが、ある女性は「多分よけちゃったもん、私」と笑いながら語っている。私はこれまで何度も IMAX で映画を楽しんでいるが、「なにを大袈裟な」と冷ややかにその宣伝を見てきた。画面に何かが飛んできて、それを思わずよけてしまったことはない。いや、なかった。この映画を見るまでは・・・。正直に白状する。この映画で主人公が綱渡りの練習中に失敗して落ちてしまうシーン、バランスを保つ棒だか何かが、すごい勢いで振ってきて、ああなんたること、私はそれを思わずよけてしまったのである・・・。
だから私は言おう。初めてリアルにゾクゾクする IMAX 3D を経験したと。だが、この映画の特徴がそこだけにあると思ったら大間違い。実は、このようなバカなウォーキングに至るまでの紆余曲折と、ギリギリまで様々な困難とアクシデントにつきまとわれた主人公たちの信念と実行力こそが、この映画の大事な点なのである。この映画の予告編を見たとき、ワールド・トレード・センターの 2本のタワーの間を歩いたバカがいたことは分かったが、それがどのようにして成し遂げられたのかは、全くヒントがなかった。考えてみれば、こんな命にかかわるパフォーマンスを、当局が許すわけはない。ではどうしたか。ゲリラである。共犯グループを結成し、入念な下調べをし、そして当日はビルの屋上に不法侵入し、ちゃんと写真を撮るカメラマンも身内で用意し、それから最も重要なことに、ちゃんと渡れるワイヤーを張るために 2本のタワーの間に補助ワイヤーも通し、万全の準備を徹夜で行って、そして夜明けを待ってコトに及んだわけである。なのでこの映画のひとつの大きな見どころは、手に汗握る事前の準備の描写なのだ。いや実際、何度も挫折が訪れかける。仲間内でも確執が起こり、計画は困難に次ぐ困難に直面するのだ。この過程は、繰り返すが、本当にスリリングで面白い。こんな破天荒なことを企んだ男に、よくぞこれだけのサポートがあったものだ。これがその共犯チームだ。あ、その意味では、1974年当時のニューヨークを見事に再現したこの映画のスタッフも、立派な共犯者と言えよう。




さて、もうひとり、ビッグな俳優が出演している。サーカスを率いる座長で、フィリップを指導するパパ・ルディを演じる、あのベン・キングズレーだ。

そんなわけで、なかなかに充実した映画であって、決して高い場所でのクラクラするシーンのみを楽しむべきではない。いやそれどころか、この一大イヴェントを成功させるまでの主人公グループの苦労が多いだけに、クライマックスシーンは静粛で感動的なものになっている。人は彼を無謀なバカ者と呼ぶであろうが、想像するに、彼が空中 411mのワイヤーの上にいたときほど、生きているという深い実感を抱いたことはなかろう。普通の人には経験できない、究極の生を生きたわけである。そんな経験をすれば、きっと人生が変わる。本当に命をかけることで、命の尊さが分かるであろう。まあ私の場合は、そこまでして生を実感したくはないが、でも、想像の翼を働かせて、フィリップの思いをこの映画を通して追体験するのだ。ワイヤーの上のシーンは結構長く、やってくる警官やヘリ、地上の群衆、そして神の化身かとすら思われる鳥、吹いてくる風、揺れるワイヤー、そういったものたちに対するフィリップの思いが語られることで、ただの見世物でない彼の行為が、なんとも素晴らしいものに思われてくるのだ。
この写真は、現在のフィリップと、主演のジョゼフ・ゴードン・レヴィット。多分、この二人の間だけで通じる言語があるのであろう。


