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イーデン・フィルポッツ著 溺死人

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いわゆる古典的な推理小説の名作の中に、「赤毛のレドメイン家」という作品がある。私は子供の頃、古今の推理小説 (という言葉自体、今では死語になってしまったが、この場合はやはり、「ミステリー」などというよそよそしい呼び方はそぐわない) についての本をそれなりに読んでおり、その中でこの作品の名を知ったのである。特に、江戸川乱歩が激賞しているとのことで、興味を惹かれたのであった。ところが、今に至るもその「赤毛のレドメイン家」を読んだことがない。にもかかわらず、ある日書店でこの本が陳列されており、「『赤毛のレドメイン家』のフィルポッツが贈る長編推理小説」とあるのを見て、迷わず購入したのだ。帯にはデカデカと「名著復活 入手困難だった名作をお届けします」とあって、これがまた好奇心を激しく刺激。東京創元社復刊フェアに乗ってみようと思ったわけである。実は同じシリーズの復刊で、アーネスト・ブラマ作の「マックス・カラドスの事件簿」は既にこのブログでも採り上げた。さすが創元推理文庫。食指をそそる復刊だ。

イーデン・フィルポッツ (1862 - 1960、長生きだ!!) は英国人で、これは 1931年の作品。とある海岸で発見された溺死体が失踪したバンジョー弾きの格好をしていたところから物語は始まる。その謎に、警察署長のニュートン・フォーブズの友人である医師のメレディス (苗字の記載はない) が迫るというストーリー。作品はメレディスの一人称で語られる。冒頭部分については、実は上の描写は正しくなく、メレディスとその友人の刑務所長とが犯罪論をかわすシーンから始まっていて、その後物語の展開に入って行くのである。そして読者は、メレディスが正規の捜査権限を一切持たないままに、事件の謎に迫って行く過程を辿ることになる。真相は最後の 30ページ以降で明らかになるが、まあそれなりになるほどという感じではあるものの、うーん、驚いてひっくり返るというほどのものでもない。その一方、冒頭に出てきた犯罪論の続きが物語の合間合間に何度も延々と出てきて、正直なところ、ストーリーの流れをその度に分断し、鬱陶しいことこの上ない。当時の英国では、このようなペースで時間が流れていたのであろうか。約 300ページの本で、それほど分厚いわけではないものの、そのストーリー展開の遅さに、現代人である私は終始イライラし、時には 1ページを読む間に、残りの何百ページのことを考えて憂鬱になったこともある。そんなわけで、読み始めてから読む終わるまで、結局数ヶ月を要してしまった。通勤のカバンの中には大概入っていたし、出張にも携えて行ったが、実際に手に取って読む気になかなかなれず、なんとも遅々たる歩みであったわけだ。

そんなわけで、残念ながら推薦に値する作品とは思えず、読み終えたときの解放感のみがせめてもの救い (?) となってしまった。この本の解説によると、フィルポッツの名前は、上記の「赤毛のレドメイン家」によって日本では知られているものの、米国や、あるいは本国英国でも、現在ではほとんどその名を見ることはないという。だが、彼は十代の頃のアガサ・クリスティの隣に住んでいて、彼女の書いた小説について適切に助言を行ったらしい。なので、きっと頭のよい人で、小説のプロット作りにはそれなりのものがあったのだろうが、いかなる理由でか、余分な要素を沢山小説に盛り込んで、その小説自体を台無しにしてしまった・・・??? 残念なことだ。かくなる上は、名作と評判高い「赤毛のレドメイン家」を読んで、その真価に迫ることにしたい。尚、この作品を絶賛した江戸川乱歩は、その翻案を書いたという。その作品は「緑衣の鬼」だ。おー、子供の頃全巻読んだポプラ社の少年探偵団シリーズにも入っていた、あれだ。
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ただ、便利な時代になったもので、このシリーズでもこのあたり (第 34巻) になると、乱歩のオリジナルではなく、別の作家が子供用に書き直したものであったことが分かる。もちろん私は、大人用の版でもこの作品を読んでいるが、内容はよく覚えていない。「赤毛のレドメイン家」と併せて、このブログでまた感想を書ける日がくるかもしれない。

by yokohama7474 | 2016-03-26 00:53 | 書物