2016年 04月 17日
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 2016年 4月16日 東京オペラシティコンサートホール
リゲティ : アトモスフェール (1961年作)
パーセル : 4声のファンタジア ト調Z.742、ニ調Z.739
リゲティ : ロンターノ (1967年作)
パーセル : 4声のファンタジア ヘ調Z.737、ホ調Z.741
リゲティ : サンフランシスコ・ポリフォニー (1973-74年作)
リヒャルト・シュトラウス : 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
映画好きの方なら一目見てピンと来るであろう、最初のリゲティの「アトモスフェール」と最後の「ツァラトゥストラ」はともに、スタンリー・キューブリック監督の不朽の名作映画「2001年宇宙の旅」で使用されていた曲だ。
上記にツラツラと曲名を記載したが、ラストのツラツララストならぬ「ツァラトゥストラ」以外、つまり前半の 5曲は連続して演奏された。要するに、3曲のリゲティの代表作の間にバロック時代の英国の作曲家、ヘンリー・パーセル (1659 - 1695) による作品を 2曲ずつ 2回に分けて、古楽器であるヴィオラ・ダ・ガンバの四重奏による演奏を挟んだというユニークな構成。ヴィオラ・ダ・ガンバの合奏は、神戸愉樹美 (かんべ ゆきみ) を代表とする合奏団。
そして後半の「ツァラトゥストラ」は、申し分のない名演となった。前半のリゲティの嵐を無事通り過ぎたオケの面々の解放感だろうか、このスペクタキュラーな曲に対して全力で取り組む姿には、凄まじい集中力が感じられたし、リゲティの響きが耳に残っているので、過去を向いたシュトラウスではなく、現代音楽につながるシュトラウスを聴くことができたように思う。誰でも知っている堂々たる導入部からして気合充実。そこから始まる 35分間に目まぐるしく移り行く音楽的情景が、ノットと東響の共同作業によって鮮やかに描かれて行く。ノットは丁寧な指揮ぶりながらも前へ前へと進める推進力が凄まじく、指揮者自身が音楽にのめり込んで行く様を目撃するのはなんとも刺激的で、何度か鳥肌立つ瞬間も訪れた。本当に素晴らしい演奏であった。ただ、この曲にはトランペットの難所が多く、冒頭のファンファーレこそ、「展覧会の絵」とかマーラー 5番のようなソロではなく、4人で吹くのであるが、後半に出てくる、「ハイ、どうぞ」とばかりにうねる弦楽器と甲高いピッコロの上をソロトランペットの高音が響き渡る箇所などは、奏者にとっては、いかにプロであっても心臓バクバクではないかと思う。今回はそのような細部で若干の課題が残りはしたものの、大したことではない。例えばカラヤンとベルリン・フィルの絶頂期のライヴの FM 放送でさえ、冒頭のファンファーレに固唾を飲んで聴き入っていると、トランペットのうち 1本がプゥッ、というなんとも気の抜ける音を出していたのを覚えている。重要なことは細部の不備ではなく、大きな音楽の流れなのであって、今回の演奏には実に素晴らしい流れがあった点、大変に感動的であった。聴いているうちに上を見上げると、そこにあるホールの反響板が、「2001年」のモノリスのように見えてきたものである (笑)。