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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2016 ピエール = ロラン・エマール ピアノ・リサイタル 3 2016年 5月 5日 東京国際フォーラム ホール C

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3日間に亘って朝から晩までクラシック音楽が演奏される祭典、ラ・フォル・ジュルネ (と今まで律儀に書いて来たが、しばしば LFJ の略号で呼ばれる) 音楽祭も今回が最終日。以前の記事でも書いた通り、私はこの音楽祭でそれほど頻繁にハシゴを楽しむわけではなく、今回は基本的に 2つの演目に絞ったのであるが、そのうちの 1つは、長い曲がたまたま 3日間に分かれて演奏されたわけで、今回はその最終回。フランス人ピアニスト、ピエール = ロラン・エマールによるメシアンの大曲「鳥のカタログ」の第 3回である。

この音楽祭、以前にもご紹介した通り大変な規模なのであるが、動員されているスタッフ (若い人たちばかりだ) の数も大変なもの。3日間つつがなく終えるだけでも相当な苦労が伴うものであろうと思う。ただ、会場に当日券を求めて長蛇の列ができるということにはなっていないようだ。以下は、昨日と今日の表示である。
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これらの表の縦の列はホール別になっていて、貼ってある黒地に白文字の札は "SOLD OUT" である。そうすると、いちばん左端、緑色の表示のホール A と、左から 4番目、赤色の表示のホール C の公演を除いては、ほとんど SOLD OUT ということだ。このホール A は収容人員実に 5008名、ホール C は 1494名。つまり、その席数の多さゆえに、売切れにまではなっていないわけで、例外的にそれらのホールで売切れになっている公演は、主に家族向けの内容だ。まぁなんと盛況であることか。ここにはマニアックさは感じられず、非常に開かれた音楽祭の姿勢が見える。それゆえにこの音楽祭はこれだけポピュラーなのであろう。

さて、今日のエマールの演奏は、これまでの 2日間の会場であったホール D7 (221名収容) とは異なり、その数倍の規模を持つホール C (1494名収容) である。あえて言えば、この LFJ の会場となっている東京国際フォーラムの 6つの会場のうち、このホール C は、まともにコンサートを開くことのできる唯一の会場ということになろう。まともという意味は、それなりに音響が音楽鑑賞に適しているという意味で、これまでの彼の演奏で使われていたホール D7 は、大きすぎることはないものの、音楽演奏用というよりは、完全にレクチャー用のスペースであった。その点今日の演奏は、それなりにステージに近い席で聴けた私としては、これまでの 2回とは比較にならないほど鮮烈に、ピアノの響きを堪能することができたのである。
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そして今日のエマールは、会場の大きさのせいであろうか、過去 2回と異なり、鳥の映像を壁に映すこともなければ、ピアノを弾きながら細かい解説をすることもなかった。ただ開演前には今回も通訳を連れて出てきて、今日演奏する残りの 3曲についての説明を行ったのである。その意味においては、最初の 2日間を聴くことなくこの 3日目だけを聴いた人には若干気の毒だ。これはやはり 3回合わせて初めて完結するシリーズなのである。今回は過去 2回と違う試みとして、エマールの友人らしいベルナール・フォールなるエレクトロ・アコースティック音楽 (って妙な言葉だが) の作曲家であり鳥類学者である人が作成した、このメシアンの「鳥のカタログ」へのオマージュとしての 13種類の鳥の鳴き声から、今回演奏される 3曲の題名になっている鳥に絞って、それぞれ録音が流された。今回の 3曲は以下の通り。
 モリヒバリ (第 3巻から)
 モリフクロウ (第 3巻から)
 ヨーロッパヨシキリ (第 4巻から)

ここでエマールいわく、最初の 2種類は夜行性なので暗い中で鳴く鳥、そしてちょうど最後の曲の途中で正午になって午前から午後に移る頃合いに最高音域のトリルが奏されると説明して、そのトリルを (最高音域だから当然右手で奏されるべきところを、右手にはマイクを持っていたので) 左手で弾いたのである。そういえば昨日の解説でも、左手のパートと右手のパートをまずは別々に弾いて、それが合わさるとこうなりますという実例を聴かせてくれたし、メシアンがこの曲を作曲するにあたって腐心した要素として、音の色彩感を挙げていた。その色彩感も、これだけ自在な演奏でなければ感じることはできないわけで、やはりその卓越した技術と探究心、そしてショーマンシップが組み合わさることでエマールならではの世界が出現していたと思う。

このメシアンの大曲の中で最長、30分の演奏時間を要する曲の題名は、ヨーロッパヨシキリ。こんな鳥で、さほど珍しそうにも見えないが、日本には生息していない種類の鳥のようである。曲は千変万化の多彩なもので、聴いているうちに神秘的な感情に満たされるのである。
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この 3日間、エマールの恐るべき演奏技術が余すところなく描き出した鳥たちの音楽は、この世界の成り立ちについての瞑想を伴う深遠なものであり、これからもそうそう体験できないものであろう。私の手元にはメシアンの全作品を収めた 32枚組 CD セットがあるが、正直なところ、なかなかそれを取り出して 1枚ずつ聴く気にはなれない。でも今回のような体験をすることで、まだまだその創作活動の全容を理解したとは言えないこの作曲家に少しでも近づくことができるような気がする。これだけ多くの人たちを動員するポピュラーな音楽祭でそのような経験ができるとは、うーん、本当にすごいことだと思う。

以前、群馬交響楽団がメシアンの代表作、トゥーランガリラ交響曲を演奏したときの記事に掲載した、私自身が 1986年の来日時にメシアンから直接もらったサインの写真を再度掲載して、この記事をしめくくろう。音楽経験にもいろいろあるが、ゼロから音楽を創作した作曲家への敬意を感じる瞬間は、大変貴重であると思う。
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by yokohama7474 | 2016-05-05 21:21 | 音楽 (Live)