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世界遺産ポンペイの壁画展 森アーツセンターギャラリー

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世界各地の様々な名所旧跡に興味がある私ではあるが、未だに現地を訪れたことがない有名な場所も、当然ながら枚挙にいとまがない。まあそれでこそ頑張って生きて行こうという大いなるモチベーションにはなるのであるが(笑)、いつかその地を訪れることを夢見る場所の筆頭のひとつが、このポンペイであるのだ。そもそも南イタリアには行ったことがないので、ポンペイのみならずナポリもシチリア島も訪れたことがない。なので、私の人生、まだまだこれからなのである。

ここでご紹介する展覧会は、先ごろまで東京六本木の森アーツセンターギャラリーで開かれていたもので、既に東京での会期は終了してしまったが、もうすぐ名古屋市美術館で開かれるはずだし、その後も神戸、山口と、未だ会場と期間は決まっていないようだが福岡にも巡回するので、この記事で興味を持たれた方には、そのいずれかで実物を目にするチャンスを追い求めて頂きたい。これは、昨年来開かれて来た日伊国交樹立150周年を記念する展覧会のひとつ。紀元 79年、ヴェスヴィオ火山の噴火によって埋もれてしまうことで、ローマ帝国時代の人々の日常生活がそのまま保存された奇跡の街、ポンペイから発掘された壁画を並べた興味深い展覧会だ。私はポンペイに行ったことはないと既に書いたが、負け惜しみではないが、これまで日本で開かれた展覧会、すなわち1997年横浜美術館での「ポンペイの壁画展」と2001年江戸東京博物館での「世界遺産ポンペイ展」は見ていて、2000年前のタイムカプセルに残された絵画作品における人間性の異常に豊かなことには、舌を巻いたものである。また、前者の展覧会開催に合わせて芸術新潮が組んだポンペイ特集では、展覧会には出ていない、ちょっとここに書くのが憚られるようなアダルトな内容も紹介されていて、その奔放さにまたびっくり!! それから、近年のハリウッド映画「ポンペイ」はもちろん見たし、さらには、ポンペイのシーンが重要な役割を果たすロベルト・ロッセリーニ監督の「イタリア旅行」(当時の妻イングリッド・バーグマン主演) まで、もちろんリヴァイバルだが昔劇場で見たものだ。
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まあ言い訳はこのくらいにして、この展覧会の内容について語ろう。ナポリ国立考古学博物館の所蔵になる 63点の作品が出展されていて、そのほとんどがポンペイまたは近郊の遺跡から発掘されたフレスコ画(壁面に漆喰を塗り、それが乾く前に絵具で絵を描く方法)である。会場にはまた、運命のその日、ヴェスヴィオ山がどのように噴火し、街をどのような速度で飲み込んでいったのかを再現するCGもあって、実際に起こった自然災害の猛威を想像することができるようになっている。展示は、1. 建築と風景、2. 日常の生活、3.神話、4.神々と信仰というセクションに分かれている。

最初の「建築と風景」コーナーでは、壁画の中に風景として建築を描きこんだような例が紹介されている。しょっぱなから度肝を抜かれることには、この「赤い建築を描いた壁面装飾」には、ちゃんと遠近法があるではないか!! 壁画としてだまし絵風にこのような神殿建築を描いた理由は、一体なんだったのだろう。これはヴェスヴィオ山周辺地域の別荘の壁画であったようである。なんらかの非日常性が表されているのだろうか。
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これは「詩人のタブロー画がある壁画断片」の一部。ポンペイの「黄金の指輪の家」のもので、楽器を演奏するデュオニソスの眷属たちが描かれた部分。この木のリアルな表現や、超人間的な存在の人間的な描き方を、どうやって2000年前のものと信じろと言うのか!!
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そしてこの壁画の中央には、額縁に収まった男女3名のタブローがあって、その左端の男性が、文学コンクールで優勝した男性と解釈されているらしい。ジグゾーパズルのように復元されているが、そこに漂うシュールな感覚は、まさに時空を超えている。
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これは「女のケンタウロス」。ソーラ地区の海浜別荘の個室から出てきた断片から復元された。図柄はいろいろあれど、ジグゾーパズル作業の末、ついにこのような造形を復元することができたときには、発掘に携わった人たちは嬉しかったことであろう。それにしてもこの青の鮮やかなこと!!
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このコーナーにはほかにもコンパスや折尺といった工具、また顔料入りの小皿などが展示されている。さて次の「日常生活」のコーナーだが、ここの目玉は、「カルミアーノの農園別荘」という建物の再現である。
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この別荘は約 400平方メートルの長方形の敷地のほぼ全体が発掘されているという。これが全体の敷地のスケッチだ。
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古代人の生活そのままが詰められた場所だが、居住用の部屋のひとつからは両手を顔に当てて縮こまった骸骨が発見されているとのこと。現代の我々はタイムカプセルだなんだと喜んでいるが、火山灰に埋もれて亡くなった方々には大いに気の毒である (この無常観が、映画「イタリア旅行」のテーマであった)。ま、ともあれ、ここの壁画の見事な出来を褒めることは、死者を貶めることにはならないので、じっくり鑑賞しよう。この別荘ではワイン作りが行われていたようで、酒の神デュオニソスに関連するテーマが描かれているほか、ポセイドンとアニュモネなどが描かれている。わぁ、なんだか現世肯定的だなぁ!!(笑)
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また、これも滅法面白い。犬の絵だが、なんと、上部に "Sincletus" = シュンクレトゥスという名前が刻まれているのだ。2000年の時を経てその肖像画が鑑賞され、名前も判明している犬とは、実に素晴らしい生命力ではないか。
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さてこれはなんでしょう。答えは「選挙広告」。なんでも、「頭巾屋は、ガイウス・ユリウス・ポリュビウスを二人委員に推薦します」と書いてあるらしい。今日で言うとさしずめ、"Stop TRUMP!!" のようなものでしょうか(笑)
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これも何やら異様な迫力。「戦車競走」だ。ローマ時代には映画「ベンハー」で見るような馬で引く戦車が走り回っていたようだが、ポンペイには競技場はなかったようなので、どこかほかの街で見たものを描いたものだろう。この地区の壁画では唯一これだけが戦車競走を主題として扱っているとのこと。
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さて、次の「神話」コーナーにも素晴らしい見ものがある。エルコラーノのアウグステウムという建物の壁画である。これは堂々たるもので、その身体表現は古代ローマのミケランジェロさながらの優れた画家の手になるものだ。この建物は学校であったという説があり、これらには教育的な意味が込められているとも解釈されているらしいが、まあそれにしても素晴らしい表現力ではないか。上が「ケイロンによるアキレウスの教育」。下が「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」。
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最後の「神々と信仰」コーナーでは、神秘的な小品のいくつかに出会うこととなる。これは「儀式的場面」。デュオニソス像の前で女性が何かいけにえを供えている。
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これは「イシス女神官のヘルマ柱」。おぉ、イシスというのはエジプトの女神ではないか。キリスト教が支配する前のヨーロッパの大らかさを感じることができる。
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「有翼のウィクトリア」。この色彩の鮮やかさはどうだろう。描かれたときの生命力をそのまま保っている。これはポンペイでしか見ることのできないものであろう。いや、ポンペイでも、これだけ近代的なまでに鮮やかな色使いに出会うことはそうそうあるものではないだろう。
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このように展覧会を振り返ってみると、改めてポンペイとその周辺から発掘された絵画作品の数々が、いかに変化に富んでいるかを実感できる。戦乱で破壊されたり、世界各地に散逸していないことも本当に意義深い。そんなわけで私は、ゴソゴソとこのようなCDを引っ張り出してきて、かの地と亡き巨匠に敬意を表しながら、深夜の音楽鑑賞でも始めようかという思いにとらわれるのである。
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by yokohama7474 | 2016-07-20 23:46 | 美術・旅行