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インデペンデンス・デイ リサージェンス (ローランド・エメリッヒ監督 / 原題 : Independence Day : Resurgence)

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地球全体が危機に陥り、世界の、そして人類の滅亡が目前に迫ったとき、人間はいかに戦うべきであり、どのように愛する人を守れるか。ハリウッド映画は繰り返しそのようなテーマを描いてきた。世界が破滅の危機に瀕する理由は、エイリアンの来襲であったり、自然現象であったり、あるいは地球上の悪党や超人の仕業であったり様々だが、映画を文化的なひとつの表現行為と考えたときには、荒唐無稽な中にも人間心理のリアリティが描かれているとか、切なくなるような終末感が漂っているとか、そのような面が評価の対象になると私は考えているのだが、そういう意味でガッカリさせられる出来のこの手のカタストロフ作品を、これまで数多く見て来た。正直なところ、1996年に公開された「インデペンデンス・デイ」は、私にとってはそのような作品の代表例であって、同作品の監督ローランド・エメリッヒは、この映画と、その次の作品「ゴジラ (Godzilla)」によって、私の中ではダメな監督の範疇に勝手に分類してしまったのであった。この「インデペンデンス・デイ」の1作目は何より、お定まりの米国が世界の中心であるという大前提(つまり、メインの登場人物がすべて米国人で、物事の解決も勇気と知恵のある米国人が行うという設定)だけならまだ我慢しても、自国の実際の独立記念日である7月4日を人類の独立記念日にしようと高らかに宣言するあたりの傲慢さが、なんともいやであったし (まあもっとも、監督のみならず脚本、製作総指揮を務めたエメリッヒ自身はドイツ人なのだが)、「オレは空の男だ」と言って戦闘機に乗って行ってしまうビル・プルマン演じる大統領の人物描写のぶっとんだ単純さには、座席からずり落ちそうになったのを覚えている。そんなわけで、この2作目も見に行くか否か迷ったのだが、一応どんなところに物事を考えるヒントが見つかるか分からない。予告編で見た以上には何の予備知識のない状況ではあったが、本作の鑑賞のために劇場に向かったのである。

まず役者を見て行こう。20年前の1作目における米国大統領役、ビル・プルマンだ。
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それから20年が経ち、この2作目の映画の中で描かれている世界では、その間に様々な変化が起こっている。エイリアンとの戦争で人類の半分は死んでしまったが、世界の各国は団結して平和を維持。また、エイリアンの技術を応用した戦闘機や武器が開発されており、今や月と地球の間は、東京-大阪間(?)のごとき気楽な往来がなされている。そんな中、同じビル・プルマン演じる元大統領は、前半ではこのような、いささか変人じみた風体だ。あっ、でも、ネクタイを緩めているのは前作からそうだったのですな(笑)。
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前作で英雄的なパイロットであったウィル・スミス演じるヒラー大尉は今はなく(プログラムの記載によると、2007年に新型戦闘機の試験飛行における異状によって墜落死との設定)、その息子が活躍する。また、ビル・プルマンの娘役とその許嫁はともに優秀なパイロットであり、加えて、中国人の女性パイロットと、その叔父の月面基地のリーダーも登場。これらが新顔だ。その一方、前作でエイリアン撃退案を考案した中心人物であるエンジニアを演じたジェフ・ゴールドブラムが今回も登場。この人は「ザ・フライ」の頃から基本的に変わらない。二枚目ではない点に独特の味わいがあるのだ。
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そして、何の予備知識もなく見た中で、驚いたキャスティングがあった。フィールドワークを通してエイリアンとの交信を研究する女性学者を演じているのは、なんとなんと、あのシャルロット・ゲンズブールではないか!! 最近では、性描写が極めてショッキングだった「アンチクライスト」に続いて、既に違う世界に行ってしまったようなラース・フォン・トリアー監督の猥褻な作品世界(?)に閉じ込められているのかと思っていたので、このようにハリウッドのメジャー作品への初出演は、誠にめでたいことである。さすがにお年は隠せませんが・・・。
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それから、なかなかよかったのは、主役級のパイロットのひとり、ジェイク・モリソンを演じる、オーストラリア出身のリアム・ヘムズワース。
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顔と名前ですぐ分かるのは、マイティー・ソー役その他で現代を代表する若手俳優にのし上がったクリス・ヘムズワースの弟である。彼、そういえば「ハンガーゲーム」シリーズにも出ていましたな。実は長兄のルークも俳優だそうである。これが3兄弟。長男がいちばん背が低いのですな。きっといろんなところで言われ続けているのだろうが(笑)。
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それから、大変フレッシュな演技を見せてくれる女優として、ビル・プルマンの娘役のマイカ・モンローを挙げておこう。カイトボーディングというウォータースポーツのプロ選手でもあるという。
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このように、なかなか面白い役者陣による映画であったわけであるが、私が1作目に対して抱いたある種の嫌悪感は、ここではどうであったか。それが実は、あまりなかったのである。もちろん、世界の終末を耽美的に描いた芸術的大作と言うつもりはないが、映画の中で描かれたこの20年間と、現実におけるこの20年間との微妙な関係を考えると、大変興味深い内容であったと思うのである。誰でもすぐに分かる通り、20年前の現実世界は、未だ911 同時多発テロも知らないし、サブプライム問題もリーマンショックも知らないし、ましてやIslamic Stateなどという存在は知る由もない。また、当時は黒人大統領も女性大統領もまだいなかったし(もっとも後者はこの映画の中では実現しているが、現実でどうなるかは今年11月にならないと分からない)、中国は未だ改革開放路線などと言っていた頃だ。また、我々日本人にとっては、東日本大震災の未曾有の被害は、当時は未だ想像もできなかったわけである。そして現実と架空の交差する映画の中の2016年には、前作と同じ7月4日に人類はエイリアンとの対決を行うにも関わらず、もはや今回は「独立宣言」はなされないのだ。また、エイリアンの撃退方法も、前作のようなちょっとしたアイデアから来る人類の知恵の勝利ということではなく、もっともっと単純かつ、他力本願な面もある。つまり、前作ほど能天気な作品にはなっていないということだ。もちろん、カタストロフ映画であるゆえに、こんなことや
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こんなことが起こってしまうのだが。
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だが、世界各地が絶望的なまでに壊滅状態になる様子が描かれているかと言えば、さほどでもない。それはやはり、既に我々は過去20年間、現実世界の中で、絵空事ではない絶望的な事柄に直面して来たからではないか。一方で、これだけのスケールの出来事が起こるにしては、偶然必然の家族の邂逅が、大変沢山起こる映画である(笑)。もちろん、非常時に愛する人たちを守れるかというテーマはハリウッド映画の中心的テーマではあるし、ここでも、いつもいつも全員が生き残るように描かれているわけではないので、素直に家族愛についてのメッセージを受け取ればよいのであろう。だが、現実世界で本当に絶望的な思いを抱いている人たちが多くいるがゆえに、今の時代の映画の作り手も、家族の大切さをことさらに強調しなければすまないような気がしているのかなぁ・・・と考えてしまったものである。米国が世界の中心で、家族を守って戦えば正義は必ず勝つという単純な信念は、映画作りにおいて既に過去のものになってしまっているのであろうか。

そういえばローランド・エメリッヒ監督の近作で、「もうひとりのシェイクスピア」という、大変よくできた面白い歴史ものの映画(2011年)があった。あれを見て私は、そろそろ「インデペンデンス・デイ」の悪口を言うのをやめようかと、実は密かに思っていたのだ。今回の映画を見て、また今後の彼の行く末が楽しみになった。自分なりに映画監督の持ち味に対するイメージを築くことには意味はあるが、先入観をもって接するのは極力排除するようにしたい。その方が、いろいろ楽しめたり考えたりする余地がありえますからね。
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因みに本作の題名に含まれる"Resurgence"とは馴染みのない言葉だが、農業用語で、「害虫駆除のために農薬を散布すると、かえってその前よりも害虫が増えてしまうこと」という意味らしい。なるほど、面白い言葉もあるものだ。予告編には全く現れないし、ネットでの画像検索でもなかなか出てこないが、この映画では実はエイリアンたちはわんさか登場して、その醜い姿を惜しみなく(?)さらしており、まあそのあたりの分かりやすさも、今回は素直に見ることができたので、私としては結構楽しんだと申し上げておきましょう。ところで現実にこんなエイリアンの襲撃が起こると、人間のあらゆる経済活動、例えば工場などにも大きな被害が出るものと思うが、それによる製品の納期の遅れはやむを得ない。製品の売買契約交渉のときに、そんな事態まで想定する法務部の人がいたら面白いだろうなぁ。そんな現実と架空の交差を楽しむ法務マン、いるわけないか(笑)。

by yokohama7474 | 2016-08-01 01:31 | 映画