2016年 10月 10日
マリインスキー劇場来日公演 ヴェルディ : 歌劇「ドン・カルロ」 (指揮 : ワレリー・ゲルギエフ / 演出 : ジョルジョ・バルベリオ・コルセッティ) 2016年10月10日 東京文化会館

1996年の来日時のプログラムを見てみると、その曲目の過激さに打たれる。つまり、「カルメン」「オテロ」という名作に加え、ショスタコーヴィチの問題作「ムツェンスク郡のマクベス夫人」と、それを改訂した「カテリーナ・イズマイロワ」の両方を上演しているのだ。当時私は、その中から「カルメン」と「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を見たものだ。その当時42歳のゲルギエフのインタビューが、当時はまだ存在したFM雑誌に載った記事がこれだ。さすがに若い。ちょっとユアン・マクレガーみたいですな。

ヴェルディの傑作「ドン・カルロ」は、もともとはパリで初演されたフランス語による5幕のグランド・オペラであるが、その後改訂され、イタリア語4幕版が最もポピュラーとなっている。作曲者が中期から後期に差し掛かる頃の円熟の作品で、この後のヴェルディのオペラと言えば、「アイーダ」「オテロ」「ファルスタッフ」しかない。ヴェルディはもともと、ソプラノ歌手が高音域を駆け巡るような華麗なアリアはそう沢山は書いておらず、結構渋いバス・バリトンを主役に据えることもしばしば。そんな作曲家が同い年のワーグナーの作曲に刺激を受け、ただ美しい声を求めるのではなく、オペラに演劇的な要素をどんどん求めて行ったのは、歴史的必然ということだったのであろうか。この「ドン・カルロ」の際立った特徴は、男声同士の二重唱が多いこと。第1幕第1場からいきなり登場する、ドン・カルロとその盟友ロドリーゴの勇壮な二重唱は、その後の劇中でも何度か繰り返される。また、ロドリーゴとフィリッポ2世、ドン・カルロとフィリッポ、フィリッポと宗教裁判官、そしてまたドン・カルロとロドリーゴといった具合で、これでもかとばかりに(?)男同士の歌が聴かれる。その渋さがこのオペラのひとつの醍醐味で、ゲルギエフとマリインスキーはまた、軽妙洒脱というよりは重厚長大にその演奏の特長があるので、今回も、期待にかがわぬ素晴らしい充実感のある名演となった。
今回の上演、もともとは5幕版での上演(但し、オリジナルのフランス語版ではなくイタリア語版)と発表された。当初のチラシは以下の通り。5幕版と明記され、演奏時間は休憩を含んで4時間20分とある。







もちろん、その他のキャストもそれぞれに素晴らしく、マリインスキー劇場の現在の勢いをそのまま感じさせるものであった。題名役を歌った韓国人、ヨンフン・リーは、今や世界中の名門歌劇場で主要な役を演じているらしい。確かに声量も豊かで表現力も素晴らしい。ただ、飽くまで私の好みであるが、もう少し力を抜いて自然に歌えば、さらによくなるのではないだろうか。



そんなわけで、来日公演の規模はかつてより縮小したとはいえ、その内容はむしろ充実度を増しているとも見られるマリインスキー劇場。「オネーギン」の上演も楽しみだ。ゲルギエフさん、あなたは凄い!!
