2016年 10月 16日
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 (ヴァイオリン : イザベル・ファウスト) 2016年10月15日 サントリーホール
ベートーヴェン : ヴァイオリン協奏曲二短調作品61 (ヴァイオリン : イザベル・ファウスト)
ショスタコーヴィチ : 交響曲第10番ホ短調作品93
トータルの演奏時間は結構長く、しかも全く異なるタイプの音楽だが、ここでもノットの言う、違ったスタイルの曲をそれぞれに合わせた柔軟性を持って演奏する能力が試されることになる。そして今回、会場に入るなりちょっと目を引くことがあった。ヴァイオリンの左右対抗配置は確かいつものことかと思うが、コントラバスを舞台の最奥部に横にズラリと並べる配置は、これはいつもと違うはずだ。これは昔のロシアのオケが取っていた配置だ(そう思っていくつかのロシアのオケの昔の来日プログラムの写真を見てみたが、そうでない配置も多くて、あまり参考になる写真を見つけることはできなかった)。
最初のベートーヴェンのコンチェルトを弾くのは、ドイツのイザベル・ファウスト。
驚いたのはカデンツァで、ティンパニの伴奏がつく。だがこれだけなら、誰の演奏だったか思い出せないが、以前にも実演で同じ光景を目にしたことがある。ところが今回は、第1楽章にもう一ヶ所短いカデンツァがあったり、第3楽章冒頭のロンドの主題に入る前に少し寄り道(いい言葉ですね!)があったりして、ちょっと珍しいなと思ったものである。演奏会終了後にホールの外にアンコールの曲目表示と並んで書いてあったことには、ベートーヴェン自身がこのヴァイオリン協奏曲をピアノ協奏曲に編曲した版のカデンツァに基づいているとのこと。あ、その曲なら知っていますよ。若き日のピーター・ゼルキンと小澤征爾が録音している。
そして後半のショスタコーヴィチ10番。曲の性格は謎めいていているものの、人間の心理に訴える刺激的な音響が次々に出てくる劇的な曲だ。実はこの曲、早くも作曲の翌年、1954年にほかならぬこの東響が、上田仁(まさし)の指揮のもと、日本初演を行っているのである。ノットがこの曲をヨーロッパに持って行きたいと思った理由のひとつは、それだろう。ここではノットは譜面を見ながら、やはり丁寧に、だが最近の彼の演奏会で必ず明確に見える「本気度」を持って、真摯に取り組んでいた。全体の仕上がりはかなりのものだと思った。だがあえてひとつ言うと、棒を縦に振ろうが横に振ろうが、もう一段パワフルな炸裂が聴こえてこない恨みがあったと思う。これは楽団というよりも指揮者の持ち味であろうか、この曲はとにかく、切れ味と整理された線だけでは表現しきれないところがあり、腹の底にずーんと来る鳴り方が欲しい。さらに狂気を。それが今後この指揮者に期待したいところである。尚、この曲でも第1楽章終了時に一部聴衆から拍手が起きたが、曲の内容に鑑みて、あそこで拍手はちょっとどうだったか。もちろん聴く人が感動すれば拍手することは自由とはいえ、曲のつながりに留意して、演奏者の邪魔にならない拍手を心掛けたいものだ。顔をしかめる作曲者(笑)。