2016年 11月 20日
大野和士指揮 東京都交響楽団 (ヴァイオリン : 庄司紗矢香) 2016年11月19日 サントリーホール

フォーレ : 組曲「ペレアスとメリザンド」
デュティユー : ヴァイオリン協奏曲「夢の樹」(ヴァイオリン : 庄司紗矢香)
シェーンベルク : 交響詩「ペレアスとメリザンド」作品5
クラシック音楽を聴く人なら、この曲目を見て期待するなと言う方が無理というもの。大野らしく知的でいて大胆な組み合わせだ。この3曲、いずれもそれぞれに共通点があるのだ。すなわち、
(1) 1曲目と3曲目は、同じ題名(これは誰でも分かりますね 笑)
(2) 1曲目と2曲目は、フランス音楽(これもさほど難しくない)
(3) 2曲目と3曲目は、全曲切れ目なく演奏されるEmotionalな曲
ということだ。しかもここでソロを弾くのは庄司紗矢香である。この指揮者とソリストの組み合わせは、間違いなく現代日本(もっとも、二人とも海外在住者ではあるが)を代表する高い芸術性を保証するものだ。特に、音楽バカではなく、ほかの芸術分野に対する造詣や新たなことに対する挑戦という意味で、この二人の芸術家の相乗効果には素晴らしいものが期待できるであろう。私の記憶ではこの二人、最初に共演が決まったのは2003年7月。オケは同じ都響で、曲目はマックス・レーガーの大作、ヴァイオリン協奏曲(日本初演!!)であった。このときにはあいにく大野が体調不良でキャンセルとなり、大野の盟友である広上淳一が代わりに指揮を執った。そして初共演がなったのは、私の記憶が正しければ、実に9年後の2012年6月、オケはやはり都響、曲はシマノフスキの1番の協奏曲であった。そして2013年のウィーン交響楽団の来日公演でのブラームスを経て、今回は、今年生誕100年を迎えるデュティユーのコンチェルトである。これらはいずれも(大野がキャンセルしたレーガーを含めて)、このコンビであればチャイコフスキーやシベリウスではなく、まさにこのような曲が聴きたいという、そんな選曲なのである。


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デュティユー作品は、楽想が目に見えるように変わりますので、聴きやすいと思います。響きに透明感があり、何ともいえない香りがある。私たちの意識に、すっと垂直方向の光を当てるような・・・。
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これは壮年期のデュティユー。

そして、庄司も客席で傾聴したであろう、シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」。今回の1曲目も同じ題名だが、これはベルギー象徴派の詩人で劇作家のモーリス・メーテルリンクによる1892年の作品。まさに世紀末の象徴主義の雰囲気を一杯にたたえた作品で、現在知られているだけでも4人の錚々たる作曲家がこの戯曲をもとに曲を作った。最も有名なものはドビュッシーのオペラであり、ついでフォーレの劇付随音楽、そしてシェーンベルクの交響詩、最も知名度が低いのが、シベリウスの劇付随音楽であろう。その中でこのシェーンベルクの作品は、後年12音技法を発明して現代音楽の元祖となるこの作曲家の初期のもので、マーラーやシュトラウスから続く後期ロマン派の濃厚な音楽だ。決して秘曲というほど珍しい作品ではないが、実演ではあまり演奏されない。もちろん録音では、カラヤンがあの画期的な新ウィーン楽派集のひとつとして録音していたが、そのカラヤンにしても、録音した1974年にはベルリンやルツェルンで演奏しているようだが、それ以前もそれ以降も、ほとんど生演奏しなかったレパートリーである。そして、ほかのメジャーな指揮者は、この「ペレアス」をあまりレパートリーにして来なかったきらいがある。と書いていて思い出したが、ウィーン・フィルのアンソロジーで、珍しくもカール・ベームがこの曲を指揮したライヴ録音があったが、それはかなりのレア物なのである。



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都響は、近年とみに音の圧力が増しています。まず、物理的なヴォリュームが以前とは違う。さらにもう一つの側面として、私たちの身体に浸透してくるような、持続力のある、人の心を揺り動かす力のある音圧。それがこのオーケストラの特徴だと思うのです。その個性が生きるプログラムを、今後も作っていきたいですね。
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まさに私が普段感じていることそのままではないか。来シーズンの都響のプログラムを眺めていると、今回のシェーンベルク作品と時代精神を共有するツェムリンスキーの「人魚姫」(随分以前に大野はN響でも指揮しているはず)や、スクリャービンの3番、あるいはメシアンのトゥーランガリラ交響曲など、必聴のプログラムがいくつもある。東京でしか聴けない内容の音楽で、世界を羨望させてやりたいものだ。高まる期待を、抑えられません!!


