東京は全く油断ならないところで、このサントリーホールでは、2日前の大野和士と庄司紗矢香の共演に心躍り、前日のティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンのワーグナーに圧倒され、やれやれと思っていたら、今度はこのコンサートである。あたかも、ザルツブルク・イースター音楽祭 in Japan の演奏会の合間を縫うように入っているこの演奏会、誠に侮りがたい。いや、正確に言うと、このホールの小ホールであるブルーローズではこの日、その音楽祭の一環として、シュターツカペレ・ドレスデンの首席奏者たちによる室内楽が演奏されていたのである。それと同時並行で開催された、マイケル・ティルソン・トーマス指揮のサンフランシスコ交響楽団の演奏会だ。この指揮者はロサンゼルス出身で、1995年から20年以上の長きに亘ってサンフランシスコ交響楽団の音楽監督を務める。愛称はMTT。
彼女が9月に行ったリサイタルについては2度に亘って記事にしたので、もうあまりユジャユジャ言う気はないが、いや、グジャグジャ言う気はないが、まあ相変わらずスーパーなピアノで、考えられないくらいの表現力の幅である。例えば、上に軽妙と書いたが、実はこの曲は洒脱一辺倒ではなく、第2楽章には影のある情緒がひたひたと漂っているのだ、ということを再認識した。チェロの合奏との掛け合いなど、絶妙なものがあり、陶然としてしまう音でしたよ。もちろん疾走する部分は、もう誰か止めてくれーという感じ(笑)。因みにトランペット独奏は、このオケの首席であるマーク・イノウエ。その名の通り日系人で、名門エンパイア・ブラスに所属した経歴もある。輝かしくモダンな響きを堪能した。そして、ユジャ・ワンが登場するところ、アンコールが演奏されないわけはない。まず最初は、トランペットとの共演で、「二人でお茶を (Tea for Two)」。コントラバス、というかこの場合はベースと言うべきか、の伴奏つきでジャズ風の楽しい演奏であった。このポピュラーナンバーを演奏したのは当然、ショスタコーヴィチがこの曲をオーケストラ編曲しているからだろう。まだ若い頃に、ある指揮者に「君は天才だそうだから、今聴いたこの曲を思い出して、何も見ずに1時間で編曲版を作りなさい」と言われて、難なく編曲したという有名なエピソードのある、あれだ。そして2曲目は、チャイコフスキーの「白鳥の湖」の「小さな白鳥の踊り」であったが、即興的にアレンジされていた。実はこのユジャ・ワンは、2012年にもMTTとサンフランシスコ響のソリストとして来日しており、楽員とも息の合った仲なのであろう。ちなみに今年のハロウィンには、サンフランシスコで共演していたらしく、同地のジャイアンツのユニフォームを来たMTTとユジャの写真を発見。