2017年 01月 09日
ストーンウォール (ローランド・エメリッヒ監督 / 原題 : Stonewall)
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この作品を撮ろうと思ったのは、自分自身がゲイだから、すべての疑問に自分が答えられると思ったからだ。自分の人生にも繋がることであり、実際にキャストの一部もゲイ。私たちは今も結婚する権利などを得るために闘い続けている。
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そうだったのか・・・。芸術家の世界ではゲイは決して珍しいことではないが、やはり世間一般においては少数派。かく言う私も、男子校出身なのでそのような趣味の同級生がいたり、社会人になってからも、カミングアウトした同じ業界の米国人から「恋人」の話を聞いたことは一度にとどまらないものの、ただ申し訳ないことに、その感覚にはどうしても理解が及ばないのであると白状しておこう。だが、いわば文化のひとつとしての同性愛に興味はあるし (例えば「雨月物語」とか、南方熊楠や江戸川乱歩の研究など)、それは動物にはない人間ならではの愛の進化形であるということは、分かっているつもりである。何より、個人の嗜好が差別の対象になってはいけない。時代は既にそれを許さないし、それは人種差別や性差別と変わらないものだと認定されているのだ。
映画の内容に入る前にどうしてもこのような長々した能書きが必要であるという事実が、この映画の公開が限定的であることと関係していよう。だが、そんな予備知識は一旦脇に置いて、この映画について少し語ってみたい。題名のストーンウォールとは、ニューヨークのダウンタウン、グリニッジ・ヴィレッジに実在するバーの名前で、1969年にここでゲイたちが警察に対して暴動を起こしたとのこと。実はこの場所は昨年、オバマ政権のもと、米国のナショナル・モニュメント、日本風に言えばさしずめ「史跡」ということであろうが、それに指定されたのである。英語では LGBT (Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender の総称) という言葉があるらしいが、この場所はその LGBT 関連施設として初めてそのような公式な史跡指定を受けたとのこと。これは現在の Stonewall Inn。
そういえば、グリニッジ・ヴィレッジと言えば、「最後の一葉」で有名なオー・ヘンリーも暮らした街。もう 100年以上前から芸術家たちが集まる場所であったのだ。でも彼がゲイであったという話は聞いたことがない (やはり短編の名手で 8歳年下の英国の作家サキはそうであったらしいが)。そうすると文化の中のある部分は、常に流行りすたりがあるということだろう。あ、そういえばヴィレッジ・ピープルなどというグループがいましたね。昔は「村の人々」かと思っていたが (笑)、今になって分かることには、この場合の「ヴィレッジ」は、紛れもないグリニッジ・ヴィレッジのことだろう。調べてみると 1977年の結成。今年が実に結成 40周年ということだ。今でも公式サイトがあるので、未だ活動を継続しているようである。こういう息の長いバンド活動を見ると、米国の大衆文化の逞しさを思い知るのである。これも文化の諸相のひとつ (笑)。