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ニューイヤーコンサート 2017 秋山和慶指揮 東京交響楽団 (ピアノ : 小山実稚恵) 2017年 1月 9日 横浜みなとみらいホール

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2017年最初のコンサート。私の敬愛する秋山和慶が、気心の知れた東京交響楽団 (通称「東響」) を指揮する。日本のニューイヤーコンサートというと、明るく華やかなウィンナ・ワルツが多く、もちろんそれもよいのだが、年の初めであるがゆえに、気持ちの引き締まる名曲の名演奏を聴きたい。そう思って、秋山と東響のニューイヤーコンサートに家人とともに出かけてみることにしたのである。秋山と東響のニューイヤーコンサートは、毎年同じような内容で開かれているのは知っていたが、実際に出かけるのは今回が初めてなのである。

今回の曲目は以下の通り。
 ワーグナー : 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲
 ショパン : ピアノ協奏曲第 1番ホ短調作品11 (ピアノ : 小山実稚恵)
 ドヴォルザーク : 交響曲第 9番ホ短調作品95「新世界より」

極めてオーソドックスだし、新年にふさわしい勢いのある曲ばかり。特に「新世界」は、昨年も大植英次指揮の日本フィルで年明けに聴いたが、今回思い立って調べてみると、様々な日本のオケが新年に演奏する習慣になっているようだ。在京のオケの予定を見回すと、この東響以外にも、NHK 響、東京フィル、日本フィル、そして新日本フィルがこの曲を 1月に演奏する。なるほど、気付かないうちに「年末の第九」に匹敵するとまでは言わないが、徐々にポピュラーになっているのが「年始の新世界」であったのだ。

実はこの東響によるニューイヤーコンサート、1978年から毎年開かれている。そして最初の年から 2014年まで、36年連続 37回という共演を重ねたピアニストは、中村紘子であった。だがこの国民的人気を持ったピアニストは残念ながら昨年 72歳で死去 (ちなみに、彼女の最後のコンサートは、昨年 4月30日、5月 4日に演奏された、この東響 (指揮は飯森範親) とのモーツァルトのピアノ協奏曲第 24番であったらしい)。実はこのニューイヤーコンサートも、当初は中村の出演が発表されていた。癌から一度は復活して演奏活動を再開したことから、また数年は大丈夫だろうと思われていたため、多くの人たちが突然の死には驚いてしまったわけだが、楽団としては代役を探さないといけない。そして白羽の矢が立ったのが、1959年生まれの小山実稚恵 (こやま みちえ)。
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チャイコフスキー・コンクールとショパン・コンクールの双方で入賞歴を持ち、非常に安定したテクニックを持つ優れたピアニストである。なるほど彼女なら、中村紘子の穴を埋められるであろう。今回のショパンも、第 2楽章でほんのわずかなミスタッチこそあれ、抒情豊かで、誰にでも曲の魅力を分からしめる演奏を聴くことができた。実は協奏曲の演奏後に楽団長が舞台に現れ、よいニュースがあるという。その内容は明日の正午にプレス発表するので「ここだけにして下さい」と言われたので内容は書かないが (笑)、小山の今後の演奏活動が真に国民的なものになって行く予感がする。その場で発言を求められたマエストロ秋山も、「小山さんはいろいろレパートリーをお持ちなので、チャイコフスキーやショパンだけでなく、様々な共演の可能性があって楽しみ」と語っていた。是非、モーツァルトやベートーヴェンはもちろん、バルトークやプロコフィエフも演奏して下さい!! そして演奏されたアンコールはなんと、同じショパンのピアノ協奏曲第 2番の第 2楽章。本来はもちろんオーケストラをバックに弾く音楽であるが、小山はここでピアノ・ソロによって演奏した。なるほど、この楽章は冒頭こそオケだけだが、一旦ピアノが入ると、その後はずっとピアノが歌を歌い続けているのである。大変に深い情緒を鳴り響かせた小山には、これから本当の円熟が待っているものと実感した。もちろん中村紘子も素晴らしい音楽家であったが、世間の画一的な期待によるものか、あるいはマネジメントの方針か、レパートリーが狭まって行ってしまったのは残念であった。21世紀の今日、芸術性と大衆性の両立こそが、一流演奏家の目指すべき道ではないだろうか。

今回の秋山の指揮でひとつ気付いたのは、協奏曲を除いてすべて暗譜での指揮であったこと。いつものように譜面台にスコアは必ず乗っているのだが、一度も開くことがない。昨年の第九でも、最初の方はいざ知らず、大詰めでは暗譜であった (もしかして私が気付かなかっただけで、最初から暗譜だったのか??)。もちろん彼ほどのキャリアがあれば、ポピュラー名曲をすべて暗譜で指揮することなど余裕でできるはずだし、暗譜であると否かにかかわらず、よい音楽を演奏してもらえればそれでよいのだが、その堅実な指揮ぶりを裏打ちするように、毎回スコアを見る習慣が彼の個性と私は思っていた。もしそれが変わっているなら、それはそれで大変楽しみなこと。1月 2日に 76歳の誕生日を迎えたマエストロ、これからさらに円熟の新境地を期待したい。今回の演奏では、「マイスタージンガー」は若干遅めのテンポで木管楽器も美しく合奏する演奏であったし、「新世界」も、奇をてらったところは一切ない説得力の高い音楽で、ニューイヤーコンサートらしい楽しい雰囲気に包まれた。
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そしてアンコール。実はホールに入ってステージを見た瞬間から、今日の曲目では使われない小太鼓があるのに気づき、「ははぁ、アンコールはラデツキー行進曲だな」と思ったのだが、果たしてその通り。ニューイヤーコンサートの定番、ヨハン・シュトラウス 1世によるおなじみのマーチが華やかに演奏され、会場からは、これもおなじみの手拍子が。ただこの曲、手拍子が合わない箇所もあり、また盛り上がるべき箇所もあって、指揮者は客席も指揮しなくてはならず、なかなかに大変だ (笑)。でもそれも新年を寿ぐ儀式だと思えばよいのだろう。

そんなニューイヤーコンサートで幕を開けた 2017年。今年も充実したコンサート・ライフを送れますように。

by yokohama7474 | 2017-01-09 23:22 | 音楽 (Live)