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トッド・ソロンズの子犬物語 (トッド・ソロンズ監督 / 原題 : Wiener Dog)

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この映画の邦題は「トッド・ソロンズの子犬物語」。「子犬物語」だけなら可愛いのだが、そこに何やら人の名前がついている。そもそもこのトッド・ソロンズとは何者かというと、この映画の監督なのである。最近の邦画の題名には、監督名を入れることは稀になっているが、以前は「フェリーニの」とか「ゴダールの」とかを冠した邦題名がいろいろあったし、渋いところでは「ヤコペッティの大残酷」などという映画もあったものだ。監督のトッド・ソロンズはアメリカン・インディペンデント界の鬼才であるそうで、私は見たことがないが、「ハピネス」「ストーリーテリング」などの作品で様々なタブーに触れながら人生のバカバカしさ、人間の愚かさをブラックユーモアたっぷりに描いてきた監督だという。なるほど、これでこの映画について語るべきことの半分は終わってしまった (笑)。監督はこんな人。確かに、大変爽やかそうとは、お世辞にも言えない人相だ。
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ネットの評判などを見ると、「可愛い題名に惹かれて見に行ってみるとビックリ!!」などというトーンのコメントがあるが、さもありなん。題名のみならず、ポスターを見てもこれは明らかにダックスフントを主人公とした映画であり、可愛らしい内容を連想しても不思議ではない。だが、予告編を一度でも見れば一目瞭然。これはかなりブラックな映画である。そして私がこの映画を見ようと思ったのは、まさにその点によってであった。ブラックな映画であるゆえに、上映館は限られているが、私が見に行ったヒューマントラストシネマ渋谷では、トイレがこんなことに。
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ちなみに原題である "Wiener Dog" であるが、この "Wiener" というのは、ドイツ語で「ウィーンの」という意味。そしてこれは英語では、日本語のウィンナーと同じで、ソーセージという意味らしい。ダックスフントという名称はもともとドイツ語で、英語圏では「ソーセージドッグ」や「ウィンナードッグ」とも呼ばれているらしい。その茶色くて細長い体がソーセージを連想させるからだろう。なのでこの映画の題名は、そのものずばり、主人公である犬の種類なのである。劇中の「インターミッション」に出てくる主人公のさすらいのシーン。これはとぼけた味わいがあって面白い。
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さぁ、そんな映画の内容はいかなるものなのであろうか。話は簡単。一匹のダックスフントが 4人の飼い主の間を転々とする間に起こる、様々な事件を描いている。最初の家では、少年の愛を受ける。結果的にであるが、私は 4つのエピソードの中でこれが最も印象に残った。あまりきれいでないシーン (笑) もあるが、ドビュッシーの「月の光」を、最初はフルートソロが主導するオーケストラ編曲で、続いてオリジナルのピアノで聴かせるあたり、写っている対象の汚さとの対照によって、曲の美しさを再認識させることとなった。ちなみに少年の母を演じるのはフランスの名女優ジュリー・デルピーだが、疲れた表情や体形を含めて、年を取ったなぁと思わせるのもまた、監督のブラックな意図なのだろうか。
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2人目の飼い主は、獣医の助手の女性。この女性は、ペットフードを選んでいるときにばったり出会った男のクラスメイトとともに、車で旅に出る。途中、ヒッチハイカーに出会ったり、同行の男友達の弟夫婦を訪ねたりする。
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次に犬の飼い主になるのは、落ち目の脚本家。彼は映画学校で教えているが、全く尊敬を得られず、ついに大変な事態を巻き起こす。ここで脚本家を演じているのは、最近ちょっとご無沙汰であったダニー・デヴィート (シュワルツェネッガーと共演した「ツインズ」で知られるが、ほかにも多くの映画に出演している)。さすがにいい味出している。だが、ここでの「大変な事態」(以下の写真参照) においては、落ちがイマイチ。
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そして最後は、エレン・バースティン演じる偏屈ばあさん。生活が安定せず小遣いをせびりに来る若い孫娘は、アーティストだという黒人の恋人を連れている。祖母の冷たい対応に焦ってベラベラ喋る孫娘は、彼を「ダミアン・ハーストみたいなアーティスト」と紹介するが、このアーティスト、私も名前は知っているが作品にあまり明確なイメージがなかったところ、後日ネット検索して納得。この映画をご覧になった方は、このアーティスト名で画像検索してみるとよいと思う。なるほど、ちゃんと意味のあるセリフなのだなと理解されることだろう。逆に、ダミアン・ハーストを知っている人には、それがどこのシーンに関係するのか、ワクワクしながらこの映画を見るという特権がある。
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私は映画に限らずほかの文化の分野や、果てはコーヒーまでブラックなものが好きなので、この映画を楽しむ素地はあると自負する。だが、この映画のラストは支持しない。ここで詳細を書けないのは残念だが、これはブラックというよりも、ただの嗜虐趣味である。この映画のエンドタイトルには、よくある動物愛護協会の「この映画においては動物は傷つけられていません」というステイトメントが出てくるし、監督はプログラム掲載のインタビューの中で同じことを述べている。だが、そういう問題ではなくて、散々描いてきたブラックな出来事、つまりは監督が弄んできた様々な登場人物の人生の決着をつけるために、もっとひねった結末を考えることはできなかったのか、動物愛護者の私としては、やはり残念に思うのである。

そんなわけで、可愛い子犬ちゃんの大冒険を見たい方には、全くお薦めできません (笑)。テイストの違いによって裏切られるリスクを覚悟の上で、とにかくブラックなものを見たいというもの好きな方には、特に見るなと止めることもしません。88分の短い映画ですしね (笑)。

by yokohama7474 | 2017-02-03 23:43 | 映画