2017年 02月 12日
塩津能の會 (能「樒天狗」ほか) 2017年 2月11日 喜多六平太記念能楽堂



舞囃子「白楽天」 : 大槻 裕一 (おおつき ゆういち)
舞囃子「天鼓」 : 塩津 圭介 (しおつ けいすけ)
能「樒天狗 (しきみてんぐ) : 大槻 文藏 (おおつき ぶんぞう) / 塩津 哲生 (しおつ あきお)
「大槻」姓が二名に、「塩津」姓が二名。私も調べて知ったのであるが、大槻文藏は 74歳。大阪出身の観世流の能楽師で、紫綬褒章受章者。大槻裕一もやはり大阪、観世流の弱冠 19歳。文藏の芸養子である。一方の塩津哲生は喜多流の能楽師で 72歳。彼もまた紫綬褒章受章者である。塩津 圭介は彼の長男。つまりこれは、観世と喜多という異なる流派が合同で開催する催しなのである。なんといってもメインは後半の、75分を要する「樒天狗」である。これは 1464年に足利義政の後援を受けて (古い!!) 京都で開かれた勧進能の演目のひとつであったが、それ以降、歴史上の記録にある上演はあと一度だけで、1994年に復活上演されるまで長らく忘れられていたらしい。昨年大阪で観世流・喜多流の合同で上演され、今回はその時の上演から二人のシテが役柄を入れ替えての東京公演となる。
一言でまとめてしまうと、この「樒天狗」、大変面白かった!! 能らしく亡霊や物の怪が登場するので、そもそも私好みの内容なのであるが (笑)、それにしても救いのないストーリーなのである。つまり、以下のようなもの。京都の愛宕山を通りかかった山伏が、折からの雪がやむのを待っていると、高貴な姿の女性が一人で樒 (しきみ、折るとよい香りがするので仏花として使われる) の花を摘んでいるのを見る。ところが夜になってもそれを続けているので、山伏もさすがにこの世の人ではないと気づき、素性を尋ねたところ、六条御息所 (ろくじょうみやすどころ) とも呼ばれた白河天皇の娘であるという。彼女は自らの美貌に慢心したため、その報いで魔道に堕ちたと語る。入れ替わりに現れた木の葉天狗が彼女の過去について語ることには、太郎坊という愛宕山に住む天狗が彼女の命をわずか 21歳で奪い、魔道に引き込んだとのこと。この太郎坊、もともとは空海の弟子の高僧であったが、破戒して天狗に化してしまったという悪い奴。そして小天狗二人を引き連れた大天狗 (これが太郎坊) が登場、六条御息所に熱湯熱鉄を飲ませるという拷問を行い、彼女は黒焦げとなるが一旦もとの姿に戻り、そして今度は鉄の鞭で叩かれて木っ端みじんになるというもの。なんともおどろおどろしくまたシュールな展開だ。これは、2013年に大阪で行われた公演の様子で、太郎坊に責めさいなまれる六条御息所。今回も同じ演出であるが、役者が異なっており、この時太郎坊天狗を演じた大槻文藏が今回は六条御息所を演じている。



ところでこの喜多能楽堂のあるあたりは、なかなかに風情があって面白い。ドレメ通りと呼ばれているが、これは専門学校「ドレスメーカー学院」の略。杉野学園という学校法人が経営している。この通りにはその学校の建物が立ち並んでいるほか、カトリック目黒教会や、アマゾンが入っている新しいオフィスビルもある。だが私の目をぐぐっと惹きつけたのはこの建物だ。




