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お嬢さん (パク・チャヌク監督 / 英題 : The Handmaiden)

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このブログで採り上げるのは初めてになると思うが、私は韓国映画が大好きである。と言っても、いわゆる韓流ドラマや K-Pop というものには一切知識・関心がなく、ただ「JSA」「シュリ」で日本の観客にも驚愕を持って迎えられたドラマティックな韓国映画の流れにガツンと脳天をやられたということなのである。私の場合、恋愛映画は好奇心のレーダーには入って来ないので、スリラー、サスペンス、ホラー系が中心ということになるが、忘れられない韓国映画がいくつもある。その中で、もちろん「ブラザーフッド」も異常なくらい素晴らしい出来であると思うが、なんと言ってもカンヌでグランプリを獲得した「オールドボーイ」に全身総毛立った観客のひとりである。その作品の監督は、パク・チャヌク。既に上に名前の出た映画では「JSA」の監督でもある。その後、「親切なクムジャさん」は DVD で見て、それはもう、のたうち回って悶絶するくらい痺れたのであるが (笑)、その次に見た彼の作品は、ハリウッドに進出してニコール・キッドマンとミア・ワシコウスカを起用した「イノセント・ガーデン」。その作品は、だが、残念ながら彼にしては若干大人しいかな、という印象であった。そこに 3年ぶりの新作登場である。しかもこの映画、上にある通り、「成人指定で全世界、異例の大ヒット」なのだそうだ。確かに日本でも R18+ という指定になっている。ええっ、そうなんだ。私は劇場で、「18歳以上ですか?」とは訊かれなかったけどなぁ (笑)。これが監督のパク・チャヌク。松尾貴史ではありません。
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実際に内容を見てみると、なるほど R18+ 指定はやむないだろう。だがそれは、別に性的な意味でアダルトということだけでなく、この映画の面白みを本当に楽しむことができるのは、よほどの早熟な天才でない限り、18歳以上の人たちだけだと言ってもよいと思うからなのである。舞台は 1939年、日本統治下の韓国。ある日本人の富豪のところにお手伝いでやってくる若い韓国人女性が、彼女が仕えるお嬢さんと、お嬢さんに言い寄る男性との間で陰謀に巻き込み、巻き込まれるという話。145分の大作で、全体は 3部からなるが、それぞれの部分で違った角度から経緯が描かれ、観客の感情移入を手玉に取るような狡猾な作り。見ていて飽きるということは全くなく、ストーリーを追うだけで充分面白い映画である。ここで主役のスッキ = 日本名珠子を演じるのは、1990年生まれのキム・テリ。この作品のためのオーディションで 1500人から選ばれたとのことで、これまで演技経験はほとんどないらしい。劇中では非常に素朴に見える役柄を演じているが、そこは女優。きれいにメイクすると、それはそれはきれいなのである。
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一方のお嬢さん役を演じるのは、キム・ミニ。1982年生まれで、高校時代から活躍している韓国のスターであるらしい。彼女がこの映画の中で見せる表情は実に多彩。おー、女は怖いのぅ (笑)。この感想はまさに、この映画の感想自体でもあるのだが。
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この映画の成功は、ひとえにこの二人の凄まじい女優魂に負っているものと思う。よく日本では女優がエロティックな場面を演じることを、体当たりの演技などというが、なんのなんの、本物の女優たるもの、体当たりは当たり前なのではないか。あるいは、女優がヌードになるに際し、「必然性があれば」などと言うこともあるが、なぜにそんな言い訳が必要であるのか。この映画を見ていると、女優たちの渾身の演技に圧倒され、我が国と彼の国の芸能界の成熟度の違いに思いを致すのである。劇中とオフステージでの二人。まるで姉妹のようではないか。
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ストーリーの面白さは上述の通りだが、この映画には美術を含めた細部の演出に監督の才能が光っている。現実にはあり得ないような、大広間の畳を部分的に上げるとそこに水がたたえられていて、巨大な盆栽や、ミニチュアの枯山水の庭を置くことができる構造も、映画ならではの虚構空間としてよくできているし、あるいは、二人の女優がそれぞれに大きな荷物を持って、屋敷の中の障子を順々に開けて行くシーンのリズム感なども、まさに映画的としか言いようがない。そしてつまるところ、この映画のストーリーにおけるミスダイレクション自体にはそれほど驚かないが、細部に宿る貪欲な制作意欲が、二人の女優を最高に輝かせていることに気づく。それから何と言っても、「オールドボーイ」の目をそむけたくなるような残虐シーンに常にユーモア精神が表れていたように、この映画におけるエロティックなシーンにも、必ずユーモアがある点にも注目しよう。これらすべて、パク・チャヌクの非凡な手腕であると思う。

ユニークなことに、この映画における使用言語は、設定上やむを得ない面もあるのだが、かなりの部分が日本語なのである。なにせキム・ミニは突然東北弁を喋ったりするのである!! 主要な役柄の人たちには日本人はいないので、正直、我々日本人から見ると言葉の点ではちょっと無理があると感じざるを得ないのだが、それはこの映画の持つ価値においては些細なこと。また、日本語の使用にもうひとつの意味があるとすると、主人公が朗読をする場面で、日本の放送禁止用語が沢山出て来ることであろう。これ、日本の映画では絶対できません (笑)。そのような言葉と、後半頻繁に出て来る日本製の春画の映像は、根がうぶな私 (?) にとっては、若干苦痛であったことは正直に告白しよう。だが、繰り返しになるが、そのような面を笑いに絡めている点こそ、この映画がポルノとは一線を画している明確な理由なのである。だからこの映画をご覧になる方は、エロティックなシーンで大いに笑って頂きたい。それが大人の視点でこの映画を楽しんでいる証拠になると思うし、人間の生き様の尊さと馬鹿馬鹿しさを同時に感じる瞬間になると思いますよ。

実はこの映画、原作は英国のサラ・ウォーターズの「荊の城」という小説である。日本で「このミステリーがすごい!」で 1位になったらしい。私がこれまでに読んだ彼女の小説は「半身」という作品だけで、詳細は覚えていないが、かなり面白かったと記憶する。なぜ私がその本を読んだかというと、その表紙に、私が溺愛するイタリア・ルネサンスの画家、カルロ・クリヴェッリの作品を使用していたからだ (そのことは、昨年 11月 3日付の、「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展に関する記事においても触れた)。この「荊の城」も翻訳が日本で出ていて、上下二巻のうち上巻は、このような表紙である。これは誰の作品だろうか。さすがに手だけでは分からないが、スペインかイタリアの肖像画であろう。
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私としては、久しぶりに見た韓国映画の素晴らしさに大満足。今後公開が予定されている面白そうな韓国映画がいくつかあるので、また時間を見つけて見に行ってみたいと思っている。

by yokohama7474 | 2017-03-16 01:00 | 映画