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ラ・ラ・ランド (デミアン・チャゼル監督 / 原題 : La La Land)

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私は元来、少々へそ曲がりなところがあって、映画はもちろん人並に好きなのであるが、米国のアカデミー賞なるものにはさほど興味がない。世の中の敏感に流行じゃないや流行に敏感な人たちは、毎年その時期 (そもそも、いつ頃アカデミー賞の発表があるかも知らないといういい加減さ) になると、今年はあの作品だあの俳優だとソワソワされているようだが、その点私は、泰然としたものだ (笑)。賞が発表されてから、ニュースで仔細ありげにリストを眺め、ふーんと他人事のように(まぁ、他人事ですな、実際)つぶやくことが多い。そして賞の発表後も、「アカデミー賞受賞作だから」という理由で映画を見に行くことは少なく、その映画が面白そうか否かだけが、私の判断基準なのである。

だがそんな私も、今年のアカデミー賞における異常事態には驚いた。もちろん、作品賞発表時の間違いである。「ムーンライト」に行くべき作品賞が、「ラ・ラ・ランド」と発表され、関係者のスピーチの途中で訂正されるという前代未聞の事態。
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そもそも、上記のポスターのように、この作品が今年の大本命と言われていることは知っていたが、史上最多タイの 14部門にノミネートされ、実に 6部門 (主演女優賞、監督賞、作曲賞、主題歌賞、撮影賞、美術賞) を受賞し、あまつさえ、作品賞までもう少しで受賞するところ (?) だったのであるから、この作品は大勝利を収めたと言ってよいわけである。もちろん、もしこの珍事がなくとも、私はこの作品に興味を持ったであろうと思う。それはなぜなら、監督がデミアン・チャゼルであるからだ。
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今回彼は、32歳で史上最年少のオスカー受賞監督となったわけだが、それも当然。なぜなら彼の前作「セッション」(原題 : Whiplash ・・・これは劇中で演奏される曲の題名) が、実に素晴らしい出来であったからだ。もし私が今、過去 5年間の間に見た映画の中でベスト 5 を挙げろと言われば、そのときの気分や記憶の状況、あるいはアルコール分の摂取量によって答えは異なるだろうが、この「セッション」はまず必ず入るだろうと思うのである。そして今回、この「ラ・ラ・ランド」を見て思うことは、この作品は単体で良し悪しを語るよりも、きっと後年、この監督の事績を振り返ったときに、その価値がよりよく分かるものではないだろうか。いやもちろん、この映画を見て感動した人も沢山おられるであろうから、私がここで言っていることが否定的に響くのを恐れるのであるが、換言するとこの監督、もっとすごい映画を将来撮る可能性もあるのではないか、と思うのである。

まず最初に確認しておきたいのは、これはミュージカル映画であるということ。昨今のミュージカル映画は、ディズニーのアニメ系を除くと、「オペラ座の怪人」「マンマ・ミーア」「レ・ミゼラブル」にせよ、これから公開される「美女と野獣」にせよ、舞台の映画化が主流であろうが、これはオリジナル。どのように構成されているのかと思いきや、歌と踊りのシーンはかなり限定的で、通常の演技のシーンが大半だ。だからこれは、フレッド・アステアやジンジャー・ロジャースの古きよきスタイルのミュージカルとは異なり、現代において説得力を持つべくして作られた、新たなスタイルのミュージカルなのである。
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ここで主演女優を務めているエマ・ストーンについて、私はこのブログで何度か言及しているが、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズで出て来たときには、やたら目の大きい女の子という以上の印象はなかったが (ただ、その前のシリーズで同じ役を演じたキルスティン・ダンストが苦手であった私は、彼女に好感を持ったことは間違いない)、最近のウディ・アレン監督作品での彼女にはまさに脱帽。もちろん「バードマン」での演技もなかなかのもの。未だ 28歳にして、オスカー女優の仲間入りとは恐れ入る。
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ここで彼女が演じている、女優を目指してロサンゼルスで頑張っている女性、ミアの姿は、きっと 10年ほど前までの彼女自身の姿でもあるのではないか。その意味で、この映画を見る人たちがリアルに、夢を追うことの素晴らしさを実感できるような等身大の演技を、彼女は披露していると言えるように思う。だから、と言ってよいのか分からないが、予告編を見たときから彼女のダンスは、決して惚れ惚れするようなものではなかったし、本編を見てもその感想は変わらないのであるが (笑)、その点にこそ、この映画が人々の心に訴えかける力があるのかとも思う。金髪碧眼の美形のようでいて、額には皺は多いし、目以外の顔の要素が弱い (?) ようにすら思われることもある、一種不思議な女優さんである。このようなシーンにも、なぜかセクシーさは皆無 (笑)。
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一方のライアン・ゴズリングも、決してイケメンでダンディというわけではなく、古風で不器用な男を絶妙に演じている。なにせ彼が演じるセブは、クラシックでいかにも燃費の悪そうなアメ車でカセットを聴き、自宅ではアナログレコードを聴いていて、妄想シーンは懐かしの 8mmフィルムだ (笑)。古き良きジャズを信奉し、やはり夢を追う人という役柄だ。この役者さんは、過去にアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にノミネートの実績があるようだが、私が知っているのは、「マネー・ショート」だけである。このブログの記事でも採り上げたが、その作品では語りとともに、バリバリのウォール・ストリート野郎を演じていた。この「ラ・ラ・ランド」では、以前から習いたかったというピアノを 3ヶ月間特訓したとのことで、劇中の演奏シーンは、かなりサマになっている。
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だが私がこの映画で驚嘆したのは、何と言っても冒頭のシーンである。カリフォルニアでは鉄道網が発達していないため、人々は車で移動するしかないのであり、私自身もロス近辺を自分で運転して移動したことが何度かあるが、渋滞になると、それはそれはひどいのである (一度運転中に電話がかかってきて、込み入った話をしているうちに空港に向かう高速の出口を逃してしまい、次の出口から渋滞の中を戻るのに、大変な目にあった。あ、「込み入った話」と言っても男女の話ではなく、仕事です)。それを知っている人にとっては、この冒頭シーンは何とも胸のすくものである。実際にロス近郊の高速道路で撮影したものらしく、都会と砂漠の広大なミックスであるこの地域でしかありえないような、ユニークなシーンである。カメラは、渋滞の車から抜け出て踊り出す運転手たちの動きを克明に追って、縦横無尽に動き回る。その楽しさは、考え抜かれているに違いないのにスムーズなこのワンシーンワンショット (途中でシーンをつないでいる箇所は、きっとあるのだろうが) によって、いきなりマックスに達するのである。オーソン・ウェルズの「黒い罠」の冒頭シーンと比較するのはちょっと突飛であろうし、実際、画質も映画の性質も全く異なるが、その衝撃度においては遜色ないと言ってもよいだろう。あ、あと、映画の冒頭に流れる車の BGM は、チャイコフスキーの序曲「1812年」です。
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さてこの映画、夢を追う男女の切ない恋の物語なのであるが、簡単にまとめてしまうと、同じ夢を追う人たちであっても、男はロマンティスト、女はより現実的で逞しく、順応力が高いという、そんな描き方になっている。まさに込み入った話が描かれているわけだが (笑)、万人受けするように、細心の注意が払われていると思う。例えば車だが、セブの乗っているクラシック・カーに引き換え、ミアの車は、トヨタ・プリウスだ。しかもこの車種は米国でも人気であることを示すシーンもある。まさにトランプ政権下の日本の自動車メーカーの今後の課題が、ここに表れている。・・・というのはもちろん冗談で、ミアが経済性に優れたコンパクトな日本車を選ぶ点に、この男女の指向の違いが表れているのである。それから、何度も出て来る、二人が議論するシーンは、いかにも米国人同士の会話であり、ある意味大人、ある意味自己正当化のロジックに長けたもの。ここでも等身大カップルの姿がヴィヴィッドに描かれている。
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大詰めでは、まるでパラレル・ワールドのような描き方がされて、人によってはそこで涙腺が刺激されることであろうが、私は結構冷静に見ていて、やはりこの監督の創造の原点にある音楽的なものへの指向が、ここで具体的なストーリーの形を取っているのだなと理解した。その意味で、前作「セッション」から本作へは、ある種の継続性も確保されており、そして、また次へ向かって飛翔する音楽的感性が、充分に感じられるのだ。上述の通り、それゆえに、この作品を将来また振り返ったときに、デミアン・チャゼル監督の表現したかったことや、その表現方法について、きっと納得するものがあると思う。

ところでチャゼルの過去の経歴を見てみると、なんと、私が昨年 7月 2日の記事で採り上げた、「10 クローバーフィールド・レーン」の脚本を書いているのだ!! な、なんだよ、せっかく音楽つながりという整理をしたのに、全く違う持ち味のエイリアン映画が、ここで紛れ込んでしまった (笑)。これぞまさに、この監督の懐の深さを示す例であると牽強付会して、この記事を〆ることとしよう。さすがアカデミー賞 6部門受賞、見る価値ありです。もちろん使用されている音楽も、リズミカルな部分から抒情的な部分まで、一度聴いたら忘れられませんよ!! ご夫婦でカップルで、こんな感じでどうぞ。等身大で。
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by yokohama7474 | 2017-04-05 01:23 | 映画