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ピエタリ・インキネン指揮 日本フィル 2017年 4月15日 オーチャードホール

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このブログでも既に何度かご紹介している、フィンランドの若手指揮者ピエタリ・インキネンは現在、日本フィルハーモニー交響楽団 (通称「日フィル」) の首席指揮者。2016年 9月に始まったこの関係は未だ半年であるが、その前に同オケの首席客演指揮者であった関係で、既に日フィルとは気心の知れた関係にある。その彼が、手兵日フィルとともにこの春取り組むのは、ブラームス・ツィクルスだ。ブラームスは言うまでもなく、ドイツ音楽を代表する作曲家であるが、彼の残した 4曲の交響曲はいずれも密度の高い音楽で、オーケストラに最上の洗練を求めるなかなかの難物である。しかも、重さを伴う音楽で、若手指揮者にとっては相性の問題もありがちだ。インキネンと日フィルのこの挑戦に立ち会いたくて、会場に足を運んだのである。
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まず今回のツィクルスであるが、初回の今回は、交響曲第 3番ヘ長調作品90と、交響曲第 4番ホ短調作品98の 2曲。通常なら番号順に演奏することが多いブラームス・ツィクルスであるが、今回は後半の 2曲を先に持ってきた。実はツィクルスの残り 2回 (私は残念ながらいずれにも行けないのだが) は、次が交響曲第 2番をメイインとしたもの、最後が交響曲第 1番をメインとしたものと、段々遡ることになる。だがユニークなのは、組み合わされた曲目だ。第 2番の日には、同じブラームスの「悲劇的序曲」はよいが、もう 1曲はなんと、デンマークの作曲家ニールセンのフルート協奏曲。第 1番の日には、リストの交響詩「レ・プレリュード」と、同じリストのピアノ協奏曲第 1番。つまり、ブラームス・ツィクルスと銘打ってはいるものの、交響曲 4曲以外の組み合わせは非常に自由なのである。考えようによってはこれはなかなか面白い。つまり、ツィクルスとは言っても、何もブラームスばかり演奏しなくてもよい、むしろほかの曲があった方が変化があってよい、という考えなのであろうか。実は今回の演奏会、開演前に指揮者のプレ・トークがあったのだが、私は最後の 2 - 3分しか聞くことができず、そこで彼は来シーズン (今年 9月以降) のプログラムの話をしていたが、その前にはきっとブラームス・ツィクルスの話をしていたのではないか。聞き逃してしまったので、彼の今回のツィクルスに対する思いは、想像するしかない。

さて、今回の 2曲の演奏、私の感想を一言でまとめるなら、管楽器には若干の改善の余地はあったものの、弦楽器が上質な音質で音楽の流れを主導し、今のインキネンと日フィルが実現できる音楽の説得力を充分に示したものと言えると思う。この指揮者の持ち味として、熱狂という要素はあまり見当たらないものの、若さに似あわない着実な音楽の足取りは、確かにブラームスの本質のある面を表現していたと思う。例えば弦楽器がピツィカートで音の流れを支えるときには必ず、清流の流れを覗いた時に見える白い小石のように、実に揺るぎない存在感を持って響いていたし、第 3番の第 3楽章や第 4番の第 1楽章では、感傷に陥ることは注意深く避けながらも、紡ぎ出される重層的な音のつながりには瞠目すべきものがあった。力が入り過ぎると空回りする危険のある音楽であるから、このインキネンのやり方には周到な知性が感じられた。課題があるとすると、上記の通り、ここぞというときの熱狂 (第 4番第 1楽章や第 4楽章の大詰めでは、やはりその要素がもう少し欲しい) と、木管楽器のさらなる緊密な合奏ということになるような気がする。考えてみればインキネンは日フィルと、お国もののシベリウス (フィンランド人としてはこの作曲家を演奏するには宿命だ!! 笑) を除けば、マーラー、ブルックナー、ワーグナーといった後期ロマン派をかなり積極的に採り上げて来ている。彼の感性からすれば、バルトークやストラヴィンスキー、あるいはラヴェルやプロコフィエフといった近代の作曲家に、より適性があるようにも思うが、いかがであろうか。面白いのは、たとえそうであったとしても、ドイツ系の音楽の演奏を最初に重ねることで、その後の展開の素地が作られるように思われることだ。きっと彼は何年も先までレパートリーの展開を考えているのであろう。東京の音楽界はなかなかに競争が激しいが、日フィルならではの個性を作って行って欲しい。
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日フィルの 9月以降の新シーズンのプログラムが発表されている。定期演奏会の指揮者陣としては、インキネン自身と、桂冠指揮者であるアレクサンドル・ラザレフ以外には、正指揮者の山田和樹、小林研一郎、井上道義、下野竜也、広上淳一というユニークな日本人指揮者たちの登場が目立っている。いろいろ面白そうなレパートリーと指揮者の組み合わせの数々が見られるが、特筆すべきは、来年 5月、ラザレフによるストラヴィンスキーの「ペルセフォネ」(楽団の表記では「ペルセフォーヌ」) の演奏。これはなんと、日本初演なのである!! へぇー、ストラヴィンスキーのようなメジャーな作曲家の作品で、未だに日本で演奏されていなかったものがあったとは驚きだ。私は随分以前、多分学生時代に作曲者指揮のアナログ盤を購入したが、特に親しむほど曲を聴きこんではいない。時代は移り、セット物 CD がなんとも廉価で手に入ってしまう現在、私の手元には旧コロンビア・レーベルのストラヴィンスキー自作自演全集 56枚組がある。そのボックスを開け、この曲の CD のジャケットを撮影したのがこれ。ギリシャ神話に基づく物語であり、ボッティチェッリによく合う。
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実はこの曲、伝説のダンサー、イダ・ルビンシュテインの委嘱によるもので、語りの台本を書いているのは、なんとあのアンドレ・ジイドであるそうだ。日本初演が楽しみである。・・・とはいえ、それはこれから 1年以上先の話 (笑)。それまでにインキネンの薫陶を受けた日フィルがさらに進化を続けるのが楽しみである。

by yokohama7474 | 2017-04-16 00:59 | 音楽 (Live)