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草間彌生 わが永遠の魂 国立新美術館

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日本の現代アーティストとして世界に知られた名前として、草間彌生 (1929年生まれ、今年実に 88歳!!) はかなりの人が真っ先に挙げる名前ではないだろうか。そのド派手な色使いによる作品は、一目見れば彼女のものと分かるものが多く、いわゆるオブセッショナル・アート (オブセッションとは強迫観念のこと。但し最近はこのような分類はあまり聞かないような気もする) の代表的なアーティストである。幼時より幻聴や幻覚に悩まされていて、それらを絵画作品に昇華したと言われている。若くして単身でニューヨークに渡り、かの地で名を上げたという点も、人々の関心を引く理由になっている。私は彼女の作品に横溢する異様な生命力に以前から魅せられており、小説を読んだこともあるし、以前このブログでも、彼女の出身地である松本の市立美術館の展示をご紹介したこともある。そして現在、東京六本木の国立新美術館にて開催されている彼女の個展に足を運んだので、今回はそれをレポートする。

まず午後遅めの時刻に現地に到着すると、このような長蛇の列。つまり列が奥まで行って U ターンして続いているのである。だがこの美術館では、人気のアルフォンス・ミュシャの展覧会も開かれていて、窓口は展覧会ごとに分かれていない。従って、きっとこのほとんどの人たちはミュシャ展に行くのだろうから、会場内に入ればそれほど混雑はしていないだろう。その証拠に、チケット売り場の表記には、「入場のための待ち時間はありません」とある。では根気よく並ぶとするか。
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美術館の入り口近辺の樹木には、一見して草間の作と分かる赤い水玉模様が巻き付けられている。近づいてみるとやはり作品で、「木に登った水玉」(2017年)。サイズは可変とのことだから、その場所のどんな樹木も作品に変えることができるのである。屋外から既にクサマワールドだ。その後チケット売り場に近づいてほかの人々の様子を見ていると、ミュシャ展ではなく草間展のチケットを購入する人が予想外に多くて、ちょっと不安になる。これで本当に待たずに会場に入れるのだろうか。
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美術館内に入ってみると、人の列が見えたが、それは草間展のショップで会計を待つ人たちの列。20分待ちとある。おいおい、ショップで 20分待ちなら、展覧会場がそれより人が少ないわけはないだろう。どうなっているのか!! と思って会場に入って行ったところ、すぐにこのような光景が目に入った。
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かなり広いスペースの壁面に、所狭しと作品が並んでおり、人々は思い思いの場所で絵を見上げたり写真を撮ったりしている。そうなのだ、展覧会の最初にこの広大なスペースがあるがゆえに、ここで人々が拡散し、展覧会場自体の混雑が緩和されている。なかなか賢い。そして、このスペースでは写真撮影自由で、なんとも寛大なのである。ここで人々は、老いも若きも、皆アートと一体になって楽しんでいる。この作品群は、草間が 2009年から取り組んでいる連作「わが永遠の魂」(展覧会の副題にもなっている) で、総数 500点中 130点ほど並んでいて、すべて日本初公開とのこと。加えて床には、いくつものカラフルな植物の彫刻が置かれていて、「明日咲く花」「真夜中に咲く花」という題がついている。私も楽しくなり、何枚も写真を撮ってしまいました。
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さてその先はさすがに撮影禁止になっているのだが、草間の長い画業を辿る旅が始まる。展示されているうち最も早い頃の作品がこれだ。紙の表裏に書かれた、1939年の鉛筆画 (無題)。10歳の頃の作品ということになるが、既にして斑点が現れている!! これをもって画家草間彌生の萌芽と言ってよいものか否か分からないが、少なくとも彼女の生は、初期の頃からこのような感覚に満たされていたことを想像することはできる。
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これはその 10年後、1949年の「残夢」。これはどう見ても、当時日本でも盛んであったシュールレアリズムである。草間は当時、地元松本で制作しており、地元の公民館などで展覧会を開いていたようだが、今回初めて知ったことには、日本におけるシュールレアリズム紹介の第一人者で、私が深く尊敬する詩人、瀧口修造 (1903 - 1973) が当時から草間の作品を高く評価し、彼女の活動を後押ししたらしい。
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これは 1951年の「心」。上の「残夢」と同系統の赤を使いながら、その斑点には、より一層の草間らしさが表れている。
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1957年の草間の写真が残っている。ここで彼女が地面に散りばめている自身の作品は、まるで瀧口修造の制作したデカルコマニー (絵具を垂らした紙を二つ折りにして開いたときにできる偶然のかたちをアートとしたもの) のようではないか。ご参考までに、瀧口のデカルコマニー作品の写真も掲載しておこう。草間をシュールの文脈で読むことで、その潜在意識のパワーという点では新たな発見があるように思う。
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もちろん、草間の作品には強迫観念を思わせるもの以外の要素もあって、会場に展示してある作品群を見ていると、例えばカンディンスキー、例えばパウル・クレー、またある場合にはミロ風であったりする。この都会の雨 (1962年) は、モンドリアン風と言えるのではないか。
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以下、「地の底を燃える火」(1963年) と「無題」(1954年)。私が上で挙げた作家たちと比較して、どうであろうか。ひとつ言えるのは、草間ならではのファンタジーがここにはあると思う。
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草間がニューヨークに移ったのは 1958年。そこで彼女はキャンバス全面に網目を描く「ネットペインティング」で好評を得る。いわばミニマルアートの一種とも言えようが、これまでの画歴を辿ってきた目には、彼女の精神を圧迫している強迫観念が、一見穏やかな表現によって微妙なバランスの中で静謐な空間を作り上げているように見える。以下は巨大なキャンバスの一部に描かれた一部をアップにしたもの。「No. AB」(1959年) と「No. PZ」(1960年)。サメの革みたいにも見えますな (笑)。
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似たような発想だが、コラージュ作品がこの「Airmail Accumulation」(1961年)。うん、ポップな感じがニューヨークらしいではないか。
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これは、1962 - 63年頃のニューヨークのアトリアでの草間。その後彼女の代表的な作品群を形作る、ニョキニョキと突起 (一説には男根の象徴とも。・・・というか、ある場合には明らかにそれを表しているケースもあると思う) が床や家具を埋め尽くす造形が見られる。よく知っているイメージではあるが、それにしてもこれは強烈な造形で、しかもこんなにニョキニョキと沢山作るには根気がいるだろう。この人の創作は、一旦これとなると、とことんそれなのだ (笑)。オブセッション。
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これは 1963年の「無題 (イス)」。そもそもイスの機能が邪魔されているし、生理的に気持ち悪いと誰もが思うはずだが、妙に心に残るのはなぜだろう。
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彼女の制作態度は、概して現実社会を直接題材にした政治的なものではない。だが、長じるにつれ、恐らくは人間の生と死への関心からであろうか、時には戦争をテーマにした作品が見られるようになる。これは 1977年の、その名も「戦争」。斑点はいかにも草間風でありながら、ナチ関連の写真が使われていて、彼女の作品としては若干異色であろう。
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これは 1989年の「一億光年の星屑」の一部。このあたりからはひたすら派手な色使いとなって行くが、トレードマークの斑点に、まるでキース・ヘリング作品のようなポップなウネウネ感 (?) が面白く、老いてますます増して行く草間の生命力に圧倒される。
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これは 1992年の「黄樹」の一部。もうこれはキース・ヘリングではない。私が思い出すのは、やはりニューヨーク在住であった河原温であるが、ひとつ言えるのは、草間の場合はこの柄からカボチャを連想するということではないか。
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この黄樹のパターンをバックに、今年になって撮影された写真がこれだ。そういえば芸術新潮の 4月号では、天才アラーキーが撮影した草間の同様の写真が掲載されていた。
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会場にはいくつかインスタレーションも置かれている。これは展覧会場の外に設けられた「オブリタレーションルーム」。入り口でカラフルなシールを何枚か渡され、それを観客が思い思いの場所に貼って行くというもの。上の写真が、私が与えられたシールを左手に持って、右手のスマホで撮影したもの。下の写真は、そのシールを貼ったあとの写真。さて、どこに貼ったのでしょうか、って、分かるわけないですな (笑)。
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さあそして、会場内から窓を通して見えた巨大なカボチャ作品に対面だ。展覧会を見終った人は是非、そのまま正面出口からは帰らずに、美術館の裏側、乃木坂駅に向かって欲しい。屋外に出てすぐの右側に作品はある。この日は非常によい天気で、背景の東京ミッドタウンともども、巨大カボチャを大変に美しく撮影できた。
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80代後半に至っても未だに衰えることのない草間パワーに、心底元気をもらいました!!

by yokohama7474 | 2017-04-28 23:35 | 美術・旅行