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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2017 井上道義指揮 新日本フィル (バンドネオン : 三浦一馬) 2017年 5月 4日 東京国際フォーラム ホールC

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先に採り上げたコンサート終了後、速攻で一軒美術館を訪れ (その記事を書くのはしばらく先になってしまうが・・・)、15:45 から開かれたコンサート 144、再び井上道義指揮の新日本フィルの演奏を聴いた。今回の曲目は以下の通り。
 ピアソラ (マルコーニ編) : ピアソラ・セレクション (バンドネオン独奏 : 三浦一馬)
 バカロフ : ミサ・タンゴ

なるほどそう来たか。ここでは、アルゼンチンを代表するダンスであるタンゴが題材となっている。これもなかなかの慧眼だし、何より楽しいではないか!! タンゴとなるともちろんバンドネオン。ここでは 1990年生まれと未だ若手ながら、世界的な活躍をしている三浦一馬がソリストとして登場する。
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まず最初に 10分弱であろうか、彼のソロで、名実ともにタンゴの巨匠であるアストル・ピアソラ (1921 - 1992) の「グラン・タンゴ」その他をつなげた曲が演奏されたが、この編曲は、現在世界最高のバンドネオン奏者であるネストル・マルコーニ (1942 - ) によるもの。このマルコーニはピアソラ本人とも何度も共演しているが、現在に至るも三浦の師匠であるそうだ。アルゼンチン発祥の、怪しく、時にいかがわしささえ漂うタンゴという音楽は、もともと日本人からは非常に遠い存在であるはずだが、なぜかその音楽には世界共通のノスタルジアがあるようだ。前項の伊福部昭の音楽が日本人の精神性に根差した音楽であるとすると、これは地球の裏側からやってきた音楽である。だがそれを日本人が演奏することで音楽そのもののよさを味わうことができるはず。今回の三浦のソロは、ホール (1492席) がソロには少し大きすぎたかなと思わないでもないし、怪しさよりは流れのよさを感じさせるものであったようにも思うが、それでもそこに漂う詩情はただものではないと思った。

そしてメインの曲は、ルイス・バカロフ (1933 - ) のミサ・タンゴ。バカロフはアルゼンチン生まれのイタリアの作曲家で、映画音楽を多く手掛けている (代表作は、「フェリーニの『女の都』」や「イル・ポスティーノ」)。このミサ・タンゴという曲は、文字通りタンゴのスタイルを使ったミサ曲という変わり種なのである!! 演奏時間は約 35分。珍曲ではあるが、実は私は以前からこの曲を知っているのだ。というのも、チョン・ミョンフン指揮サンタ・チェチーリア音楽院管弦楽団による CD を所持しているからなのである。私の場合、持ってはいても未だ聴いていない CD が山ほどあるが (苦笑)、これは大丈夫、数年前に中古で購入して聴きましたよ。もともと私はピアソラが大好きで、ブームになったクレーメルのシリーズやヨーヨー・マのアルバムや、自作自演までいろいろ録音を持っているが、その流れで、どこかでこの曲のことを知り、そしてこの録音の存在を知るに至ったものだ。この盤のひとつの特色は、テノール独唱をあのプラシド・ドミンゴが担当していること。彼らしい視野の広い活動ぶりである。
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実際、今回のこのプログラムを見たときに、この曲を選ぶとはさすがミッチー!!と思ったのである。これはもちろんミサ曲であるから宗教的であることは間違いないのだが、そこには大衆性もあって、もの悲しいバンドネオンが、タンゴの情緒を宗教性と結び付けているのである。今年のラ・フォル・ジュルネのテーマはダンスであるから、確かにこの曲はそのテーマに沿ったものであると言える。この曲、キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイと、通常のミサ曲の構成を取るものの、歌詞はラテン語ではなく、どうやらスペイン語なのだ!! そして今回、男声ソロはテノールではなくバリトンのガスパール・コロン、女声ソロは二期会のメゾソプラノ、池田香織。合唱は、これは新日本フィルとの顔合わせは初めてではないかと思われる、東響コーラス (つまり、東京交響楽団専属のコーラス) という顔ぶれ。もちろんバンドネオン独奏は三浦一馬である。

興味深かったのは、合唱団が全員暗譜で歌ったこと。相当な練習をしたのであろう。力強い箇所も繊細な箇所も、自信をもった歌いぶりだ。一方、独唱の二人のうちバリトンは、特に最初のうちは声量が充分でなく、何か落ち着かない様子であったが、体調でも悪かったのだろうか。その点メゾの池田は余裕の歌唱ぶりで、バリトン歌手に出番のあとの着席を促すなどしていた。井上指揮するオケはここでも大変に美しい演奏を聴かせており、そのメリハリは最高度である。新日本フィルの場合、最近特に演奏を楽しんでいる感じを覚えることが増えてきた。井上はかつてこのオケの音楽監督を務めており、私もその頃よくこのコンビを聴いたが、正直なところ、今の方があらゆる意味で進化していると思う。いわゆるミッチー節は、このような変化球でよく生かされるということは言えるかもしれないが、これからは、この手の珍品や現代音楽に加え、スタンダードなレパートリー、例えばブラームスなどやってみても面白いのではないだろうか。

などと勝手なことを唱えてはいるものの、とにかくこの 2回のコンサート (内容的には通常の 1回分だが)、大変充実した内容で、堪能した。実は明日、いやもう日が変わって今日になっているが、もう一度マエストロ井上のコンサートに行く予定としている。これも、今の彼なら大変期待できる曲目なので、楽しみなのである。私もちょっと記事のネタが溜まっていてちょっと時間が足りない状態であるものの、コンサートに関しては極力タイムリーに記事を書くというこのブログのポリシーに則って、がんばります!!
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by yokohama7474 | 2017-05-05 01:34 | 音楽 (Live)