人気ブログランキング |

ワーグナー : 楽劇「ラインの黄金」(演奏会形式) ピエタリ・インキネン指揮 日本フィル 2017年 5月27日 東京文化会館

e0345320_09491034.jpg
数日前の記事でハインツ・ホリガーの自作自演の演奏会を採り上げ、その曲が 2時間半休憩なしでの演奏であったと書いた。その際にも引き合いに出した、ワーグナーとしては異例に短い、たった (笑) 2時間半、休憩なしで演奏されるオペラは「ラインの黄金」。既にこのブログではおなじみの、超大作「ニーベルングの指環」4部作の第 1作目で、「序夜」と題されている。今回は、日本フィル (通称「日フィル」) がその首席指揮者、フィンランドの若手ピエタリ・インキネンのもと、演奏会形式で採り上げた。上のチラシにあるごとく、インキネンと日フィルのワーグナー演奏は今回が第 3弾。ではこれまでの 2回はいかなるものであったかというと、最初は 2013年 9月、「ワルキューレ」第 1幕。次は 2016年 9月、「ジークフリート」と「神々の黄昏」からの抜粋。つまり、今回を含めた 3回の演奏会で、「指環」の抜粋をこのコンビで演奏したことになる。そして、来シーズンのプログラムを見ていると、来年の 4月にはロリン・マゼールが編曲した「言葉のない『指環』」という管弦楽曲集を演奏する。日フィルのこれまでのワーグナー演奏がどの程度のものか、あまりイメージがないが、同じ指揮者とこれだけ「指環」の音楽を演奏することは、オケのレパートリーの成熟に大きく貢献することだろう。実はインキネンは既に 2013年にメルボルン・オペラで「指環」4部作を指揮したことがあり、その演奏は絶賛されたらしい。このプロダクションは昨年 11月から 12月にかけてもやはり彼の指揮で再演されているというから、インキネン自身の「指環」経験は既に確固たるものになっているわけであろう。
e0345320_00513583.jpg
それにしても、いつも同じ感想で恐縮だが、日本におけるワーグナー人気は異常はほど。このブログでも、2015年のバイロイト音楽祭をはじめとして、ワーグナー関連記事へのアクセスは常に継続していて、驚くほどだ。今回も、会場の東京文化会館はほぼ満席。2時間半休憩なしも承知の上なのだ。今回の上演は演奏会形式なのではあるが、歌手は一人も譜面を見ることなく、またそれなりの衣装 (但しそれほど凝ったものはなく、2人の巨人たちも着ぐるみではなく、半そでシャツの前をはだけてサングラスに山高帽という、チンピラ風 (?) の雰囲気) をつけ、舞台前面を活発に動き回る。従ってほとんど舞台上演に近いものであり、佐藤美晴というウィーンで学んだ演出家の名前がプログラムに載っている。また、照明もそれなりに凝っていて、最初のライン川のシーンでは青い光が、神々が集う場所では白系の光が、地下のニーベルハイムでは赤い光が、それぞれかなり派手に舞台天井に投影される。

まず指揮については、テンポ感のしっかりしたワーグナーであったとでも言おうか。このブログでこれまでインキネンの演奏会を採り上げた際には、激しい音楽での熱狂感に私は若干の留保をしてきているが、今回もその傾向は同じで、作品の特性から言って、さらに暴力的に鳴らしてもよいのではと思う部分が何度かあった。例えば、ファフナーがファゾルトを殺すシーンのティンパニの鋭さや、終曲の「ワルハラ城への神々の入場」の高揚感には、課題があったと思う。だが、非常に丁寧にオーケストラをリードするインキネンを見ていると、これはこれでなかなかに優れた指揮であろうという気がしてきた。それは、このオペラの千変万化のオーケストラ・パートを描き出すに際し、次にやってくるうねりに備えるというか、着実に音の線を描き出すことができていたからではないだろうか。そもそもこの曲は、暴力的に鳴らすだけではどうにもならないわけで、このようにテンポ感がしっかりしてこそ、ドラマ性が活きてくると思う。なので、インキネンの音楽性はよく発揮された演奏であったと言えるのではないかと思う。

歌手陣では、ヴォータンのユッカ・ラジライネンと、アルベリヒのワーウィック・ファイフェが印象に残った。前者はフィンランド人でヴォータン役を得意としており、東京の新国立劇場のツィクルスでもその役を歌っている。後者はオーストラリア人で、上述のメルボルンでのインキネン指揮の「指環」で同じ役を歌っている。特にアルベリヒのファイフェは、冒頭のラインの乙女にからかわれる惨めさから、ニーベルハイムでは一転して独裁的権力を握る人物としての冷酷さと重厚さをうまく出していた。外人勢ではほかにフリッカ役のリリ・パーシキヴィも安定していた。この人もフィンランド人で、エクサン・プロヴァンス音楽祭でのサイモン・ラトルとベルリン・フィルによる「指環」にもこの役で出ているという実績の持ち主。そしてなんと驚いたことに、フィンランド国立歌劇場の芸術監督なのだそうだ。多彩な人である。それから、ローゲのウィル・ハルトマンはドイツ人で、ウィーンやミラノでも活躍している人。実はこの前日の同じ曲目の演奏会では体調不良で降板した (西村悟が代役を歌ったようだ) が、今回の公演では、演奏開始前に日フィルの常務が舞台に出てきて説明したことには、未だ体調は万全ではないが、是非皆さんに自分の声を聴いてほしいと志願しての出演であったようだ。実際、時に声が若干かすれたり、自分が歌わないところでは咳をしていたが、ローゲらしい策士ぶりをうまく表現しており、体調不良を技術でカバーしたというところか。日本人歌手はいつものようにみな二期会の人たちで、それぞれに健闘であったと思う。その中で私の印象に残ったのは、フライアの安藤赴美子。少ない出番ながら、強い声で表現力豊か。そう言えばこのブログでも、アンドレア・バッティストーニ指揮のヴェルディのレクイエムにおける彼女の歌唱について述べたことがある。主役で聴いてみたい人である。
e0345320_01281139.jpg
現在東京のメジャー 7楽団は、それぞれのシェフや関係の深い指揮者陣とともに、その楽団ならではの個性を育てつつあるような気がする。なので私としては今後も、個々の演奏会の出来不出来よりも、東京で起こっている文化イヴェントという文脈で見て行きたい。あ、ただそれよりも、演奏される曲のよさを感じられることが、音楽を聴くいちばんの喜びであり、例えば 20年前には聴いてがっかりするようなケースもままあった日本のオケも、今ではそのような事態はほとんどない。競争があることも大きくプラスに働いているわけであり、これからもそれぞれのオケの充実ぶりを享受して行きたいなぁと改めて思う、充実した演奏会でした。

by yokohama7474 | 2017-05-28 01:34 | 音楽 (Live)