2017年 07月 17日
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団 2017年 7月16日 ミューザ川崎シンフォニーホール
ではここで曲目を紹介しよう。
細川俊夫 : 嘆き
マーラー : 交響曲第 2番ハ短調「復活」
なるほど、ノットが「復活」の前に演奏することを選んだのは、現代日本を代表する作曲家、細川俊夫の最近の作品である。現代音楽を得意とするノットらしい選曲だ。細川についてはこのブログでも何度も触れてきているが、静謐で、時に暗い情念を感じさせる音楽を書く人で、管弦楽曲を多く作曲している。この「嘆き」という作品は、ザルツブルク音楽祭の委嘱で作曲され、2013年 8月、シャルル・デュトワ指揮 NHK 交響楽団のザルツブルクでの演奏会で世界初演された。だがその時はソプラノとオーケストラのための作品。その後音域を下げてメゾ・ソプラノ独唱用に書き直された版が作成され、2015年 5月に広上淳一指揮京都市交響楽団によって初演された。今回演奏されたのは、そのメゾ・ソプラノ版であり、ここで独唱を受け持ったのは、日本が世界に誇るメゾ、藤村実穂子であったのだ。藤村は上記の京都市交響楽団による初演時にも歌っており、これはその再演ということになる。
このように、最初から最後まで完璧な出来というわけではなかったが、この曲ならではの凄まじい高揚感を存分に味わうことのできる演奏であって、私の隣の席の女性などは、メガネを外して涙を拭いていた。聴衆をしてそのような感動を抱かせる演奏は実に素晴らしいし、細部がどうのこうのとあげつらう意味はないだろう。熱演に拍手を送りたい。ノットと東響はこれからも意欲的かつバランスの取れたプログラムを予定していて、本当に目が離せない。彼らの本拠地であるミューザ川崎の音響は実に素晴らしいし、このような音楽体験を続けて行ける我々はなんと恵まれたことか。ニューヨークでもロンドンでもパリでもどこでもよい。マーラーの「復活」を立て続けに、しかも一流の演奏陣で聴くことができる都市が、ほかにあるだろうか。東京を覆う熱波は、もしかして音楽界の熱気によるものか? などとうそぶくのも楽しいではないか。